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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
七章 たとえ我が名が天に焼かれようとも
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幕間~一時の休息~五日目、夜

続きです。

 陽が沈み、夜の帳が世界を包み込んだ頃。

 夜光はルイ第二王子と共に三度王城グランツ地下――王族と同伴でなければ入ることを許されない聖域へと足を運んでいた。


「おぉ……この場所にも昼夜は存在するんですね」

「もちろんさ。これまでキミが訪れた際は両方とも昼だったろう?けれど――夜も美しい、そうは思わないかい?」

「ええ、思います。……こんなに幻想的な風景だとは予想だにしませんでしたが」


 以前この場所を訪れた際には太陽と蒼穹によって彩られる世界であったが今は違う。天井を席巻するのは満月であり、明度の異なる星々だ。

 その満天の星空から視線を下に落とせば、日中とはまた違った種類の草花が咲き乱れているのがわかる。月光草、暗闇花、黒光花――そのどれもが月明りに照らされることで映えていた。

 そんな幻想的な世界の中で、これまた浮世離れした美貌を持つ青年は微笑みを浮かべている。


最後(、、)にこれをキミに見せたかったんだ。ボクが一番好きなこの光景を」


 両腕を広げて庭園を示すルイ第二王子――銀髪銀眼の中性的な素顔に寂しげな色を浮かばせている。

 夜光はその光景に目を奪われしばし言葉を発せられなかったが、一度目を瞑って深い息を吐くと笑みを繕った。


「計画が上手くいけばまた会えますよ。全てを終えたらもう一度この場所に来ましょう。今度はシャル達も連れて」

「……フフッ、そうだね。確かにその通りだ。うん……どうせなら二人だけが良いんだけどね」


 とルイは最後にお道化たように肩を大袈裟に竦めて見せた。

 その仕草、その言葉に込められた深い感情に気付きながらも夜光は眼帯を一撫でしてルイの元へ歩みよる。彼の隣に立って同じ景色を眺めた。


「……ここは封鎖するんですよね」

「そのつもりだよ。計画が完遂されるまで誰も入らせない。この剣に誓ってね」


 そう言ってルイは腰に吊るしていた青く透き通った剣――魔器〝悪喰〟(グラム)の柄に手を置いた。

 

(彼は〝堕天〟した〝魔人〟……加えて神代より伝わる魔器もある。生半可な武力では打倒は困難だ)


〝堕天〟は〝魔族〟(アスラ)以外の他種族が、〝魔石〟と呼ばれる魔力が高濃度に圧縮されることで生まれる宝石を体内に取り込むことを指す。

 そうして魔石が身体に定着することで〝魔人〟と呼ばれる超越者となるのだが、この強さには個体ごとに明確な差があると言われていた。


(取り込んだ魔石の純度や魔力強度、圧縮率などが高ければ高いほどより強い〝力〟を得られる)


 そして魔石は人工的なものよりも天然のものの方が強い〝力〟を持つとされている。が、その反面あまりにも〝力〟が強すぎるために身体に定着させることが困難であった。

 そうした背景から天然ものの魔石による〝堕天〟では、ほとんどの確率で〝なりそこない〟――理性を失った怪物へと成り果ててしまう。しかし、ルイはその低確率な賭けに勝った歴史上数少ない人物の一人である。


(彼を討ち取れる者がいるとすれば……神剣所持者か、もしくは〝王〟かその眷属くらいだろうな)


 と左眼――〝死眼〟(バロール)を僅かに光らせる夜光は思った。

 現に〝死眼〟によって齎される情報――ルイを殺害する方法は驚くほど少ないものだった。流石に以前彼と対峙した時よりは多いものの、それでもクロードやクラウスといった大将軍たちに匹敵する少なさである。


(つまりルイ第二王子は〝四騎士〟並みの実力者ってわけか……)


 全ての力を解放すればそれ以上であると夜光は考えているが……いずれにせよ、彼が居れば王都は問題ないだろう。

 そう判断した夜光はルイのことを深く信用し、自らの秘密を曝け出すことを決めた。


「……ルイ殿下、俺はとある強大な〝力〟を持った存在――その後継者です」

「…………っ!?フフ、やっとボクのことを信用してくれたみたいだね。嬉しいよ」


 唐突に語り始めた夜光に驚きながらもルイは嬉しそうに破顔した。


「けれどね、ボクは知っていたよ。キミがほとんど歴史から忘れられた〝王〟――白き〝王〟であるとね」

「へっ……?知ってたんですか!?な、なんで……!?」


 予想だにしなかった返しに夜光が驚愕の面持ちでいると、銀の王子はしてやったりと笑う。


「初めて出会った時には気づいていたよ。キミの中に眠る強大な〝力〟――それは〝魔人〟であるボクを軽く凌駕するものだったからね。〝堕天〟を上回る〝力〟を持つ存在はボクの知る限り三種だけ――神剣所持者か〝王〟、もしくはその眷属だけだ。固有魔法を持つ者でも可能性がないとは言わないが、それでもボクほどの深みへ到達した者には届かない」


 そして――とルイは唖然とする夜光を見やって彼の眼帯に目を止めた。


「神剣所持者ではないとすぐに気づいた。何せ彼らはその〝力〟を神剣――外部に持つ。体内ではない……となれば残るは〝王〟かその眷属ということになるけど」


 と言って夜光の顔半分を覆う武骨な眼帯を指さした。


「その眼……青紫に輝く瞳は〝夜の王〟のみが所持すると言われる〝三種の魔眼〟の一つ〝死眼〟だろう?なら答えは自ずと前者、ということになるわけだ」

「…………この眼は眼帯で隠れています。なのにどうして――」

「キミは気づいていなかっただろうけど、北方で戦った際に光が漏れ出ていたよ。猛吹雪で視界が白く染まっていたから余計その青紫は目立っていた。フフ、キミは随分と興奮していたようだからね、意識していなかっただろう?」

「変な言い方はやめてください……まぁ、そうですけど」


 あの時は必死だったし何より〝死眼〟の副作用に襲われていたため周囲に配慮する余裕などなかった。

 けれども〝王〟であることを極力明かさないようにしていた夜光にとってこれは明確な失態であるといえよう。


「この事……他の誰かには」

「言ってないよ。ボクの胸の内に収めている。……フフ、ボクとキミだけの秘密だね」

「だから言い方……いえ、もういいです」


 獲物を狙う肉食獣の如き眼で見つめてくるルイに背筋が寒くなる夜光であったが、何度も似たようなことをやられている所為か態度を直してもらうことを諦めてしまう。それが良いのか悪いのかは別としてだが……。


「とにかく!殿下がご存じの通り、俺は〝夜の王〟――〝白夜王〟(ガイア)を継承した者です。まだその権能を使いこなせてはいませんがいずれは使いこなして見せます。ですからその暁には――この国を、民を、誰よりシャルを、護ってみせます。今回の計画のような不出来なものでなく、より完璧に近い形で」


 エルミナ王国を、自らの故国であるこの国を護らんとするルイの愛国心は王族の中でも突出したものだ。彼ほどの愛国者は見たことがない。

 故にこの場で明確に宣言しておく必要があると夜光は感じていた。いずれ神として覚醒する己が庇護するのはエルミナであると、ハッキリ告げておかなければ真実の信頼は得られないと確信していたからだ。

 真剣な表情でルイを見つめる夜光の誓いに、彼は同じく決意の表情を浮かべた。


「……ありがとう、ヤコウくん。キミのその言葉からは万の軍勢すら凌駕する逞しさを感じたよ」


 だから、とルイは一度言葉を切ってからその月長石(セレナイト)の如き双眸に強い、とても強い意思を浮かびあがらせた。


「キミもボクのことを信じてほしい。たとえ何があろうとも、たとえボクが何(、、、、)をしようとも(、、、、、、)

「……?ええ、勿論です。信じますよ」


 ルイの台詞に僅かな違和感を覚えるもそれが何なのか分からなかった夜光は頷いた。

 それからどちらともなく差し出した手を握り月夜に誓いを立てる。


「俺は必ずやこの国を護ってみせます」

「ボクも必ず護ってみせるさ。この国を――愛する祖国を」


 それは決して破られぬ誓いであると両者は確信したのだった。



*****



 宝物庫の入り口に立ち、去っていく夜光の背を見送るルイの視線は慈しみに満ちていた。その穏やかな雰囲気は彼のことをよく知る北方の貴族たちでさえ見たことがないものである。


「……ヤコウくん、キミなら信頼できる。キミだけ(、、)がボクの希望なんだ」


 廊下の先へと姿を消した〝不屈〟の大将軍を想うルイは再び宝物庫の中へと――その地下へと向かった。

 階段を一歩一歩踏みしめるように下って往き……夜の庭園にたどり着く。


(願わくば……どうか最後まで信じてほしい)


 ルイが発する殺気にも似た気配に虫たちは怯えて鳴き声を止めた。

 風が止み、草木さえも音を消した。花々は怯えるように身を縮こませた。

 あらゆる生物が身を潜める中で、小川のせせらぎしか聞こえない世界で、ルイ・ガッラ・ド・エルミナは決意の眼差しを()に向けた。


「ボクはキミとの誓いを守る。どのような手段を用いても、必ず」


 それが人々から後ろ指を指される行為であろうとも、信じてほしいと願った人から軽蔑されることになろうとも。


「たとえ我が名が――天に焼かれることになろうとも、ボクは誓いを果たしてみせる」


 現在、未来で汚名を被ることになろうとも、この想いだけは誰にも汚せはしない。

 ルイは天に座する月を掴もうとするように力強く掌を握りしめ、視線を下に――禁忌指定保管庫がある小さな湖へと向けた。


「その為ならボクは悪になろう」


 善で勝てないのならば悪となろう。強大な悪意を打倒するには、同じく強大な悪意を以って挑むしかない。綺麗事だけでは太刀打ちできないのだ。


「悪を以って悪を喰らう。それしか道はないのだから」


 ルイは何処か寂しげに微笑むと自らの計画(、、、、、)が上手く進んでいるかを確かめるべく王城内へと戻っていくのだった。

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