表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
七章 たとえ我が名が天に焼かれようとも
123/227

一話

続きです。

 雨足は去り、蒼穹が天に戻った。

 夏の眩い陽光が地平線から迸り四重の城壁を照らし始めている。

 神聖歴千二百年七月二十五日――エルミナ王国王都パラディース。

 その城下町では人々が起床し始めており、建物から外に出ては朝日和に目を細めている。

 王位継承を巡る長い戦争が終わったことで人々の顔色が空と同じく晴れているかといえばそうではない。その表情には不安が色濃く出ていた。


『アインス大帝国が攻めてきたって話、本当なのかよ』

『ああ、どうやら事実らしい。ご丁寧に宣戦布告までしてきやがったって話だぞ』


 四日前のことだ。

 王位継承戦争の終結と同時に東方国境の要であるバルト大要塞から伝令が訪れた。それとほぼ同時期に隣国アインス大帝国がエルミナ王国に対して宣戦布告、開戦と同時に国境付近に集結させていた軍勢が自然の要塞たる〝大絶壁〟にかけられていた〝天の橋〟を渡って進軍を開始。

 この電撃的奇襲を前にバルト大要塞司令官、クラウス大将軍は要塞に仕掛けられていた戦略級魔法〝聖堅の盾〟(イージス)を発動し攻勢第一波を押しとどめることに成功したという。


『でもよ、敵は五十万もいるって話だ。対してバルト大要塞には十万しかいない。援軍を送ろうにもどの地域も今回の内乱で疲弊していて出せないっていうじゃねえか』

『みたいだな。しかも王城に賊が入ったとかでオーギュスト殿下とアルベール大臣がお亡くなりになられたって話もあるぜ。他にも高官が何人もやられたっていうし、勇者さま方にも負傷者が出たって』

『マジかよ……』

『この国はどうなっちまうんだろうな……』


 人々が不安を囁きながら見つめる先には王城グランツが鎮座している。

 その正面玄関――両開きの大扉を抜けて城の中へと歩を進めるものがいた。

 簡素な服を身に纏い、白髪を揺らす少年だ。左腕に白を基調とした小さな盾を装着し、顔の左半分を武骨な眼帯で覆っている。

 国家の要たる王城に入るにしては明らかに普通ではない少年であったが、衛兵が咎めることはなかった。むしろ敬礼を向けて緊張を顔に張り付けている。

 無理もないことだ。何故なら少年はエルミナ王国に四人しか存在しない大将軍位〝四騎士〟の一人にして、今最も玉座に近いと言われている第三王女の〝守護騎士〟を務める人物なのだから。


(厄介な展開になったな)


 多くの者から注目を集める少年――間宮夜光は衛兵に返礼をして王城の奥へと向かう。

 目指す先は玉座の間――病床から快復を遂げた現国王が座する間である。


「夜光、おはよう。昨日は眠れたか?」


 そう言って声をかけてきたのは宇佐新――勇者の一人で〝闇夜叉〟の異名を持つ少年である。

 どうやら夜光のことを待っていたらしい彼は通路の壁から背を外すと隣を歩き始めた。

 

「……あんまりってとこだな。そういうお前はどうなんだ?」

「俺も微妙だ。色々と考えることが多すぎて、寝台に横になっても寝付けないんだよなぁ」

「わかるよその気持ち。ここ数日で一気に悩みが増えたもんな」

「本当にな……まったく、なんでこうなっちまったんだか」


 ぼやく新に同意だと夜光は頷いた。

 内乱が終結すれば戦いは終わると思っていた。けれども実際にはそうではなく、勇者の一人である一瀬勇が、同じく勇者の一人である天喰陽和を拉致して逃走。その後に隣国であるアインス大帝国が宣戦布告してきたことで情勢は混迷の一途を辿っている。


(他にも問題はあるんだが……)


 チラリと新の横顔を窺った夜光は嘆息した。

 あの戦いの後から新やもう一人この国に残っている勇者である江守明日香の様子が明らかにおかしくなっていた。

 その原因は明白であったが、一朝一夕に解決できる事柄でもない。というか現状では後回しにせざるを得ないと夜光は考えていた。


(それでも後で話し合う必要があるか……)


 夜光は新のぼやきに言葉を返しながらも今後について考えを巡らせていた。

 と、そうこうしている間に玉座の間へと通じる扉の前までたどり着いていた。会話を止めた新と目線を交わした夜光は身なりを整えると扉の両側に立つ兵士たちに眼を向けた。


「開けてくれ」

『『はっ!』』


 ゆっくりと音を立てて開かれた扉の先――玉座の間へと足を踏み入れた二人を出迎えたのは無数の視線である。

 玉座の間は吹き抜けになっており、天井は硝子がはめ込まれていて快晴の空が見えていた。二階部分には衛兵や音楽隊が控えていて、彼らが鳴らす勇壮な音色が心臓を高鳴らせてくる。

 一階部分は玉座へと続く中央に赤絨毯が敷かれていて、その両側に建つ大きな柱の合間に視線の正体――貴族や高官たちが立っていた。

 相変わらず注目されることに抵抗を感じる夜光は緊張から吐き気を覚えるも、それをこらえながら表向きは澄ました顔をして赤絨毯の上を歩く。

 一方、隣を往く新は特に緊張した素振りはなく堂々とした態度で歩を進めていた。

 そんな彼の様子を横目で見た夜光がうらやましいと感じている間に二人は目的地へとたどり着く。

 そこには既に明るい黒髪の少女――江守明日香と、〝王の剣〟の異名を持つクロード・ペルセウス・ド・ユピター大将軍、その父であり現四大貴族の一角、ユピター家の当主であるテオドール・ド・ユピター公爵の姿があった。

 夜光は事前に教わった通り、玉座の方を見ずに下を向きながら彼らの隣までやってくると片膝をついて首を垂れる。

 新も同様の動きをすれば音楽隊の奏でる音色が止んだ。人々の騒めきも収まり、玉座の間に静寂が訪れる。


「面を上げよ」


 その静寂を破ったのは老いを感じさせる深い男の声だった。

 それに従い顔を上げた夜光の眼に映りこんだのは、玉座に座る男性の姿である。

 金髪金眼を持つ老人であった。長い闘病生活の所為か、頬がこけてしまってはいるが、放つ覇気は王に相応しい雄大なものだ。

 彼こそがエルミナ王国、第四代国王――アドルフ・マリウス・ド・エルミナである。


「余が不覚を取り、床に臥せっておる間に様々な事柄が生じたと耳にしている。その顛末は既に把握しておる。……まずは此度の我が子らによる争いについてだ」


 本来なら大臣であるアルベール・ド・マルスが進行役を務めるのだが、彼は先の戦いでノンネに殺されたあげく死兵として操られてしまっていた。

 ノンネが姿を消した後は動きを止め、今は再度利用されることを避けるため火葬されたと聞いている。

 代理で誰か立てれば、とも思うが、おそらくは敢えて国王自らが語っているのだろうと夜光は推測していた。


(長い期間オーギュスト第一王子に毒を盛られて軟禁されていた所為か、貴族諸侯からは国王に対して政務ができるのか不安視する声が少なくなかったらしいからな。それを払拭するためだろう)


 ルイ第二王子らから聞いている情報では歩き回れる程度までは快復したらしいが、長時間の政務はまだ無理そうだという話だ。

 それでもたった三日程度でここまで快復したのだから、つくづくシャルロットの固有魔法の凄さを実感させられたものだ。


〝天恵の涙〟(ハーモニー)……自分以外という条件つきではあるが、対象の怪我や病を回復させる固有魔法。戦闘向きではないが、かなり強力な魔法だ)


 シャルロット・ディア・ド・エルミナ第三王女が〝王国の至宝〟と呼ばれている理由の一つでもある。

 そう言えば彼女はどこにいるのか、と夜光が気配を探ろうとした時、国王アドルフの言葉が続けられた。


「我が愚息、オーギュスト・ヘレンニウス・ド・エルミナはアルベール・ド・マルス大臣と共謀し、余に毒物を盛り軟禁した上、許可なく勇者召喚を行い、あげく他の王位継承者を排除すべく戦争を引き起こしこの国に混乱をもたらした。その罪を以って王位継承権を剥奪し、逆賊アルベール共々国外追放処分とする……が、両名共に既に死んでいるため、両名が持つ領地を没収したうえで生家を取り潰すものとする。また両名に協力した者については罪に問わないものとする」


 この言葉に中央、南方貴族たちからは安堵の息が漏れた。オーギュスト第一王子とアルベール大臣の親族は堪ったものではないが、彼らに付き従った貴族諸侯や将兵は罪には問われないと国王の口から明言されたからだ。

 とはいえこれは予定調和のようなものだ。アインス大帝国という外敵が攻めてきている今、彼らを処罰してしまえば混乱は必至だし、戦力だって減ってしまう。国王の心情がどうであれそんな愚策は犯せない。

 罪に問われない者たちに対する不満は東方貴族らが一番大きいだろう。何せ財産や血を流してまで戦った相手がのうのうとしているのだ。情勢故仕方のないこととはいえ、本心では許せないだろう。


(さて、それをどのように解決するか……って答えはもう出ているか)


 この後の展開を想像しながら周囲の気配を探り、シャルロットの存在を確かめて安堵する夜光の眼前で国王が口を開いた。


「続いてルイ・ガッラ・ド・エルミナ」

「……はっ」


 呼ばれたルイ第二王子が横合いから出てきて夜光の隣で膝をつく。その際チラッと向けられた眼差しに何故か悪寒を覚えた夜光は身震いする。


「そなたや今は亡きアレクシアはオーギュストの愚行を止めるべく挙兵したときく。結果的にアレクシアはオーギュストに、そなたはシャルロットに敗退したらしいが……それでも余を、国を想っての行動であったという。よってそなたとアレクシアの独断専行は不問に処し、両名に付き従った者たちも特に罪には問わぬこととする」

「はっ、ご寛大なる処置、ありがたく存じます」


 粛々と返答するルイ第二王子を横目で見やりながら夜光は適当な処置であると思った。


(下手に事を荒立てれば北方三十万の軍勢が敵に回りかねないからな。この先を考えれば当然のことだろう)


 確かに国王の許可なく挙兵したのは法律上罪に問われることであるが、理由は正当なものであるし、何より兵をあげて身を守らなければ、王位継承者を排除しようとしたオーギュスト第一王子に殺されていた可能性が高い。

 個人的な武勇でいえばルイ第二王子やアレクシア第一王女の方がオーギュスト第一王子より上であるが、彼らとて一人では大軍には勝てない。身一つではオーギュスト第一王子の軍勢や勇者を退けることは困難だっただろう。

 かといって逆に功績とすることもできない。許可なき挙兵、しかも敗退したという結果がそれを許さないからだ。


「……次にシャルロット・ディア・ド・エルミナよ、前へ」

「はい、陛下」


 国王から呼ばれたシャルロット第三王女は、その絹のように流れる金髪を揺らしながら夜光の左隣までやってくると同じく片膝をつく。一瞬だけ向けられた微笑みに夜光は穏やかな気持ちを抱いた。


「そなたもまたルイやアレクシアと同じくオーギュストを止めるべく動いたという。ノンネなる者の暗躍を阻止し、クラウス大将軍を味方につけ東方軍を纏め、数で劣る状況の中北方軍を撃退した。そしてつい先日にはオーギュスト率いる軍勢を打ち破りこの内乱を終息に導いた、この功績は非常に大きい。加えて新たなる〝王の盾〟を見出したこともな」


 と言った国王アドルフの金眼が夜光を射抜く。尋常ならざる眼力、常人であれば気後れしたであろうが、今の夜光は直ぐ傍にシャルロットが居る状態だ。特に気圧されることなく見つめ返せば国王は夜光の隻眼に何を見たのか、フッと笑って目線を外した。


「内乱を終息に導き、逆賊オーギュストとアルベールを討った功績は大きい。余の許可なく兵をあげたことを差し引いてもな。褒美を取らす……が今は皆も知っての通り、不安定な情勢だ。ある程度落ち着き次第、改めて与えよう。差し当たっては――そうだな、継承権を繰り上げ、そなたを第一位としようか。それで当面の間は満足せよ。よいな?」

「はっ、謹んでお受けいたします」

「クロード、テオドール、そなたらの忠義にも必ず報いることをここに約束しよう。無論、シャルロットを支えてくれた他の者たちにもな」


 その言葉にクロードとテオドールは短く感謝の言葉を述べ、東方貴族たちからは歓喜の声が上がった。


(信賞必罰……王として流石の判断だな)


 これで中央、南方貴族らが罰せられないことに対する不満も解消されたことだろう。すぐではないとはいえ公の場で国王自らが褒美を与えると明言した以上、それは必ず履行される。ならば下手に不満を言って敵を作るよりも、それを見逃した方が得だと考えるであろうからだ。


「次に……勇者、アスカ・エモリにシン・ウサよ」

「「はっ」」

「すまなかったな」

「「……えっ?」」


 一国の王が個人に謝罪をする。しかも公の場で。

 これには当然言われた二人も驚きの声を上げたし、玉座の間にいた貴族や高官らも騒めいた。

 それらを尻目に国王アドルフは続ける。


「我が愚息がやったこととはいえ、子の不徳は余の不徳だ。本来禁じられている勇者召喚の儀により、そなたらを異界より召喚……いや、はっきりと言おうか――拉致してしまったこと、心より申し訳なく思う。本当にすまなかった」


 言われた明日香と新は反応に困ったのか困惑めいた表情を浮かべている。無理もない、勝手に召喚されたことに憤りはあるだろうが、それをやった当の本人たちは死んでしまっている。だからといって親であるアドルフに怒りをぶつけるのはお門違いだろう。むしろ国王は毒を盛られた被害者側であるからだ。

 けれども憤りは消えていないのだろう。この世界に召喚されなければ人を殺めることもなかっただろうし、勇が狂ってしまうこともなかったはずだからだ。

 そういった事情から二人は行き場のない感情を持て余している、と夜光は予想していた。


「……謝罪は受け取ります。けれど――許すかどうかはまた別の話です」


 感情を押し殺した明日香の冷たい声に、場がどよめく。いくら勇者といえども国王に対してその返答はどうかと貴族諸侯は思ったのだろう。

 だが、言われた張本人が気にしていなければ問題にはならない。


「分かっておる。我らの所為でそなたらには取り返しのつかないことをさせてしまったからな。それに数多くの解決すべき問題も抱えさせてしまっている。せめてもの罪滅ぼしというわけではないが、それら諸問題の解決に余も全力で取り組ませてもらう。……どうだろうか?」

「じゅ、十分です。ありがとうございます、陛下。明日香も、それでいいだろ?」

「……うん、それで構わないよ」


 明日香の無礼とも取られかねない物言いに冷や冷やさせられたのだろう、新がやや食い気味にそう言えば、明日香も空気を読んだか同意を示した。

 明日香の性格を知っている夜光であっても正直冷や汗ものであったが、国王は特に気分を害した様子を見せなかったのでホッと安堵の息を吐く。

 と、そこに国王アドルフの力強い眼力が飛んできたことで夜光は身を引き締めた。


「最後に……ヤコウ・マミヤよ」

「……はっ」

「そなたのことは報告書だけでなく、シャルロットやルイを始めとした多くの者たちから聞いた。勇者召喚に巻き込まれてこの世界に喚びだされ、乱心してしまった勇者ユウ・イチノセによって〝大絶壁〟へと落とされ、左眼を失ったときく」


 アドルフの言葉に夜光はここに至るまでを回想した。

 異世界召喚、勇の裏切り、ガイアとの出会いと別れ、〝日輪王〟に対する憎しみは昨日のことのように思い出せる。


「その後自力で〝大絶壁〟を這いあがり、シャルロットの窮地を救った。〝王盾〟に選ばれ、クラウス大将軍との決闘では引き分けたときく」


〝征伐者〟と引き分けた、という部分では主に武官たちが信じられないとばかりに驚愕の吐息を溢したが、夜光としてはあれは自分の負けだと思っている。

 

「その後も何度もシャルロットを助け支え、ルイとの一騎討ちでは勝利したという。先日のクロイツ平原での戦いでは最前線に立ち、味方を鼓舞して勇敢に戦ったという。その結果、シャルロットは勝利を手にしたと」


 クラウス大将軍との決闘、ノンネとの戦い。北方軍への奇襲やルイ第二王子との一騎討ちもあった。

 そしてこの前は万を超える軍勢同士の激突において最前線に立ち、剣を振るって戦線を支えた。

 だが勇の暴挙は止められず、陽和を奪われてしまう結果になった。ノンネにも敗北を喫した。


(俺の弱さが招いたことだ。ガイアが殺されたのも、陽和ちゃんを連れ去られてしまったのも……)


 だからこそ、もう迷うことはできない。決めなければならないのだ。復讐か、守護か――どちらを選ぶのかをはっきりとさせなければならない。

 そうしなければ今度はシャルロットを失ってしまうかもしれない。そんなことが起きてしまえば耐えられる自信はないと夜光は思っていた。


「ヤコウ・マミヤよ、〝王盾〟を余に見せてくれないか」

「……へっ?は、はい!かしこまりました!」


 突然の要請に慌てて思考を打ち切った夜光は立ち上がると〝王盾〟(アイアス)を起動する。

 すると左腕に装着されていた白き盾が大きくなると夜光の左手に収まり、蒼き光を放ち始めた。


『おお……〝王盾〟が目覚めている!』

『素晴らしい、長年所持者が不在であった〝王盾〟が起動するとは……』

『まったく、喜ばしいことですな』


 周囲から聞こえてくる言葉に、何故アドルフが唐突に〝王盾〟を起動してくれと言ってきたのかを夜光は悟った。


(直接俺が〝王盾〟を使っているところを見た者でない限り、俺がこいつに選ばれた者であると信じ切れない。だからそれを信じさせるためのパフォーマンスをしたわけか)


〝四騎士〟の中で〝王の剣〟と〝王の盾〟はその名を冠する神器の所持者が選ばれる。それを踏まえてシャルロットは夜光を新たなる大将軍だと公言した。その結果、夜光は東方軍において大将軍として認められたわけだが、本来〝王の盾〟とは神器である〝王盾〟に選ばれた上で、当代の国王から直接拝命されてなるものだ。

 国王アドルフはそれを今、正しく行うつもりなのだろう。


「余が、そしてこの場にいるすべての者がしかと見た。ヤコウ・マミヤこそ〝王盾〟に選ばれし大将軍、〝王の盾〟である!国王たる余がそれを今認めよう」


 そして、と国王は続けて、


「代々の慣習に則ってそなたに爵位を授けるものとする。初代〝王の盾〟から名を借り受け、セイヴァーの家名を名乗ることを許可しよう。ヤコウよ、そなたはこれよりヤコウ・ヴァイス・ド・セイヴァーと名乗るが良い」


 割ととんでもないことを言ってきた。

 間宮どこ行ったの?とか、ヴァイスってどこからでてきたの?とか疑問ばかり浮かんできたが、国王の決定は絶対だ。


「……ありがたく頂戴致します」


 夜光がそう答えれば、何処からかパチパチと拍手が聞こえ始め、やがてそれは全体に伝播していった。

 国王もそれを止めるのは無粋と感じたのか、しばらく眼を閉じていた。

 やがて瞳を開くと玉座の肘掛けに肘をつけて片手を上げた。すると徐々に拍手が収まっていく。


「付け加えてシャルロットの〝守護騎士〟であるということも余が承認しよう。我が愛娘たっての希望でもあるしな」

「……はっ、この身に代えましてもシャルロット殿下をお守り致す所存です」

「うむ、この先()そなたに我が愛娘を任せる。頼んだぞ」

「はっ、お任せください」


 若干国王の言い方に引っかかりを覚えた夜光だったが、粛々と頷いておいた。


「尚、爵位に伴う領地やこれまでの功績に対する褒美については他の者と同様、後日与えるものとする。……他にこの場で言いたいことのある者はいるか?…………いないな、それでは解散とする!」


 その言葉に全員が頭を下げ、国王が退室するまで顔を上げるのを待つのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ