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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
七章 たとえ我が名が天に焼かれようとも
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プロローグ

第一部最終章となる七章〝たとえ我が名が天に焼かれようとも〟始まりです。

 雷鳴が轟いている。

 黒雲が支配する空は、無数の空飛ぶ戦艦が席巻していた。

 その艦隊の後方には一際大きな戦艦が威圧的な存在感を示している。

 白と金で彩られた神々しき戦艦――人族最強の国家たる大帝国の皇帝が乗る旗艦である。

 

「遂にこの時が来た」


 旗艦〝ナグルファル〟の艦橋――そこに鎮座する玉座の如き席から立ち上がった一人の青年が声を発した。

 特にこれといって大声というわけではない。けれども青年から放たれる声は雄々しく、雄大な覇気を孕んでおり、誰もが自然と身を引き締めて聞き入ってしまうものだった。


「千二百年前は失敗し、二百年前はあまりにも間接的なものであった――南大陸統一、それを成し遂げる時が来たのだ」


 王者の如き風貌――千二百年もの歴史を誇る皇家の血が色濃く出ている金髪、烈々たる意志を宿す金眼、精悍なる顔つきはまさに獅子の如し。

 その身に纏うは最新式の軍服であり、その上からは金糸銀糸がふんだんに使用された外套を纏っている。

 超大国の主のみに着用を許されているその外套を纏う青年の姿は紛れもなく王の中の王――皇帝であった。


「これより始まるのは古き時代の終焉であり、新たなる時代の到来である」


〝雷帝〟として自国からは称賛を、敵国からは畏怖を以って崇められし現人神の言葉に、艦隊のみならず地上に展開する万を優に超える軍勢が耳を澄ましている。

 皇帝が周囲を見渡せば百もの戦艦の勇姿を認めることができ、眼下に目線を下ろせば何十万という将兵の視線を感じることができた。

 彼はゆっくりと自らに付き従う者たちの姿を確かめると視線を正面に向けた。

 そこにあるのは巨大な大要塞の偉容である。二百年もの間、たった一度たりとも突破されたことのない堅牢なる壁――自らが征服すべき大地へと向かうにあたって破壊しなければならない障害。


「余が諸君らに求めるものはたった一つ――〝勝利〟のみである。それが得られた暁には勝利の光で遍く天地を余が照らし、慈しもうではないか!」


 獅子の皇帝が発した宣言に応えるは万雷の喝采であった。

 天地を、時空を揺らす鬨の声は雷鳴すらも凌駕して皇帝の耳朶に触れる。

 そんな異様な場にあって更に異質な雰囲気を醸し出している者がいた。

 黒衣を身に纏い、奇妙な仮面で顔を隠す男である。 


「……いつの時代にもああいう男が現れる。英雄と呼ぶに相応しい者が」


 囁くような声と同じくらい希薄な存在感――けれどもどこか禍々しい雰囲気を放っている。

 悲しげであり、儚げであり――だけれど力強い波動を放っている。

 どこかちぐはぐな印象を受けるその男の言葉は小さかった。誰に聞かせるわけでもなかったのだろう。しかし傍に立っていた女性が反応を示した。


「あら、まるで何百年と生きてきたような物言いをするのですね〝仮面卿〟?」


 金髪碧眼の見目麗しい女性だ。細身の体躯に軍服を纏っている。豊かな胸部がその軍服の胸元を圧迫することで、清楚でありながらどこか色香を感じさせる。

 それらが穏やかな表情と合わさることでのんびりとした雰囲気を放っていた。とてもではないが戦場には似つかわしくない。まるでどこかの令嬢が舞踏会から迷い込んできたかのような印象すら感じさせる。

 しかし仮面の男は彼女の正体を知っていた。故に特に取り乱すことなく応じる。


「……そうでもないさ。歴史書を読んでいれば自ずと導き出される結論だ」


 男は稲光を放つ空を見上げた。仮面の奥底に沈む黒と紅の瞳が鈍く光っている。


「未だ〝神代〟は終わらず、ここに第二の〝転換期〟が始まろうとしている」


 そう告げる男の声音からは何の感情も感じ取ることができない。平坦な虚無の声――隣で聞いていた女性は何故か寒気を覚えてそのしなやかな肢体を震わせた。

 そんな女性の様子を一顧だにせず、仮面の男は太陽も月も窺えない天に手を伸ばして微笑んだ。


「さあ、再び始めるとしようか――〝混沌〟たる戦いを」

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