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巻き込まれて異世界召喚、その果てに  作者: ねむねむ
六章 王都決戦
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エピローグ

 先ほどから降り始めた雨は、今や本降りとなっていた。

 自陣に敵将であったアンネ将軍とモーリス将軍を招き、戦後処理を行っていたシャルロットは一段落ついたところで遠くに見える王都へと碧眼を向けた。


「ヤコーさまはご無事でしょうか……」


 夜光とクロード、それに勇者たちが王都へと向かったと聞いたのは少し前のことであった。

 既にクロイツ平原での戦闘は終息しているのにも関わらずの行動に憶測が飛び交うばかりで正確な情報は入ってこない。それ故にシャルロットは白髪の〝守護騎士〟を想ってその美貌に陰りを見せていた。


「きっと大丈夫でしょう。ヤコウ大将軍は此度の戦いにおいて最前線で戦い抜き、生き抜いた男です。それに我が倅も共にいるようですし……」

「……ええ、そうですね。クロード大将軍と一緒であれば、きっと……」


 テオドール公爵が慰めの言葉をかけてきた。正直何の保証もない言葉ではあったが、こちらを思いやっての発言であるが故に受け入れざるを得ない。


(ヤコーさま、どうかご無事で……〝月光王〟よ、どうか彼をお守り下さい)


 人族の守護者である〝王〟に希うが、その象徴たる月は黒雲に隠されてしまっていた。

 それが悪いことが起こる兆しに思えたシャルロットは思わず身震いしてしまう。

 そんな時――天幕に叩きつける雨音に人のざわめきが交じった。

 もしや夜光たちが帰ってきたのでは、とシャルロットが振り返るも、そこに居たのは期待の人物ではなかった。

 大勢の兵士や幕僚が一人の男を囲んでいる。初めは何かしらの騒動かと思ったが、すぐにそれが間違いであることを悟った。

 何故なら、その男が身に着けている鎧の徽章が、クラウス大将軍麾下の兵を示すものだったからだ。


「あれは……クラウス大将軍のところの兵士ですね。ですが何故……?」


 テオドールが疑問を口にするもシャルロットは答えられない。むしろ彼女も同じ心境だったからだ。


(クラウス大将軍麾下の兵士が、しかも一人だけ……まさか)


 咄嗟に思いついた可能性は最悪なもので――シャルロットは、心配する兵士たちを振り切ってこちらに駆けよってくるその男を不安げな眼差しで見つめた。

 護衛の兵士やテオドールがさりげなく前に出る中で、その兵士はシャルロットの元へやってくると片膝をついて必死に呼吸を整え始める。

 泥と雨水に塗れ、大量の汗をかいている。よほど急いでここまでやってきたに違いない。

 そう察したシャルロットが労いの言葉をかけようとするも、その前に件の兵士が大声を発した。


『きゅ、急報!バルト大要塞より急報にございます!!』


 国境守護の要たるバルト大要塞、そこからの伝令――しかも急報とは穏やかではない。

 それはこの場に居る誰もが感じ取ったのだろう、先ほどまでの騒ぎは鳴りを潜めて痛いほどの静寂が訪れる。


『アインス大帝国進撃!東方国境〝天の橋〟を破って、アインス大帝国軍が進撃を開始しましたッ!』

『なっ――』


 それは誰が発した驚愕の声かはわからない。されど、誰もが唖然とした表情を浮かべていることから同じ心境であることがわかる。

 

「……数は如何ほどか?」

『五十万、五十万にございます!しかし次々と軍勢が越境しており、また空中より飛空艇らしき戦艦が多数進撃を開始しているため、今後数は増えるものかと!』


 一難去ってまた一難、シャルロットは胸元で両手を合わせて祈るように呟いた。


「ヤコーさま、どうか……」



 翌日――神聖歴千二百年七月二十二日。

 この日隣国、アインス大帝国は正式にエルミナ王国に向けて宣戦布告してきたのだった。

これにて六章〝王都決戦〟終了です。次章は第一部最終章となります。

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