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1 世界選択

「目覚めたようじゃな、片桐天音よ」


 意識を取り戻すと同時にそんな言葉が耳に入ってくる。

 ぼんやりとした視界に映し出されるのは六十歳は過ぎてあろう白髭を長く伸ばしたジジイが地面に横たわる自分を見下ろすように立っていた。


「あれ……。ここはどこだ?俺は確かトラックに轢かれて……」


 「死んだ」、そう紡ごうとして頭を押さえた。


 死んだというなら一体ここはどこなんだ?そしてこの爺さんは誰なんだ?


 身体を起こして辺りを見回してみる。

 何だか全体的に白っぽい。床も壁もジジイも。感想はそれだけ。

 場所は特定できない。ただ病院では無いことはわかった。


 ……だって病院だとしたらジジイがナースってことになるじゃないか。それはメイドよりナース派の俺としては断じて認められんぞ!


「ほっほっ。混乱してるようじゃな。ここは天界じゃよ」

「天界?」

「主ら人間の言葉で言うなら天国って言うと分かりやすいかのう」

「ってことは俺は死んだのか。 やったぁぁ!!!」


 衝撃な事実を突きつけられたが、とりあえずジジイがナースじゃなかったことにガッツポーズを決める。


「驚かんどころかガッツポーズじゃと!? 普通は死んだことに驚くべきなんじゃないのか!」

「ま、あの怪我で助かったとは到底思えないからな。 死んだことは想定内。 むしろジジイナースを見るより遥かにマシだ」

「ジジイナース!?何言っとるんじゃ御主は!?」

「ところでジジイ。 俺の祖父や祖母はどこにいるか知ってるか?五年前くらいに二人揃ってここに来た筈なんだけど。 せっかく天国に来たんだし会いに行こうと思うんだ」

「バカもんッ! 命は大切にせんか! たまたま近くに来たから友達の家に寄ってみたみたいな言い方をしよって!」


 あっ、キレた。

 って、えっ?天国に来たのに、まだ俺にぼっちでいろと?


 唐突の叱責にまさか叱かられるとは微塵だに思っていなかったから目を見開き驚いたが、少し経って苦笑した。


「いや命は大切にしろって、大体俺もう死んでるじゃないか」

「だから人の話は最後まで聞けと親に習わんかったか! たく、話を脱線させよってからに」


 脱線させたのは爺さんでしょ。ハゲは始まってないのにボケは始まってるんですかね。


 爺さんに冷ややかな目を向ける。

 が、爺さんはその視線には気づかず、あるいは気づいているがそれを無視して話を続けた。


「実はのう……御主が目覚めるまでの間、記憶を伝い御主の人生を見ておったのじゃが……」

「何勝手に見てんだよ! 人権違反だぞ!」

「人権は生きてる人間、またはその肉体に適応するんじゃ。 今の御主は言わば霊体だから適応外じゃ!」

 

 な、なんだと……。


 口を開け唖然としているとジジイが話を戻した。


「……御主は大分ハードな人生を送ってきたようじゃな。 まさか人生の幸福を映し出す走馬灯が見えないなんて驚いたぞ。 人類誕生から今日まで全ての人間の人生を見ておったが走馬灯がチラッとも見えなかったのは主が初めてじゃ」


 ……なるほど。走馬灯には人生の最後にこれまでの幸福を映し出す役割が合ったのか。つまり走馬灯が見えない場合は人生の中に幸福がなかったと。しかも人類初らしい。はっはっは。素晴らしい快挙じゃないか。多くの人が取ってるノーベル賞なんて目じゃないぞ。……後でこっそり泣こう。


「じゃが、御主を幸せに出来なかったのは神である儂としても責任を感じておる。 そこで、提案なんじゃが、主には謝罪を込めて新たな人生を授けたいと思う。 しかし、この世界には輪廻関係の束縛で止まれないのじゃ。 だから主には、魔法が全ての『第二世界』。 剣術が全ての『第三世界』。 そしてあまりお薦めしないんじゃが『第四世界』のどれかの世界に記憶を持ったまま転生させてやりたいと思う」


 へーっ、転生させてくれるのか………って、転生ッ!?

 

「え……ありがとうございます! ありがとうございます!」


 サラっと『ジジイが神』という衝撃的な事実を耳にした気がしたが、それよりも転生という言葉に、狂ったように口から礼を繰り返す。


 異世界に行けるだなんて、喜ばないわけがない。しかも魔法や剣があるらしい。楽しみすぎる。根っからのゲーマーでもある現代男子の俺にとってこれ以上の御褒美はない!


 だが、すぐに表情を一変して考える。


 一体どの世界に行くべきなのだろうか。


 異世界ならどこでもいいのでは?と思うかも知れないが、当事者である俺とってそれは大切なこと。

 安易に選択をしてしまいその世界が理想と違ったら、前世の二の舞になりかねない。さっき教えてもらった情報を元にしっかり考えなければ。


 ……情報によると『第二世界』は魔法が全ての世界らしい。例えるなら学力主義とかそんなものかな。ラノベで例えるならアカシックレコードみたいな感じか。それとも魔法科高校みたいな感じなのか。よくわからないので保留にする。


 『第三世界』は剣術が全て。剣には興味があるが、もしかしたら中世ヨーロッパみたいな感じなのかもしれない。剣が一番強いのではなく単に銃が開発されていないから、剣が主流って可能性も多いにある。時代遅れの場合生きていける気がしないのでこれも保留とする。


 最後、『第四世界』はあまりお薦めしないらし---



「ちょっ!? 『第四世界』だけ情報が無いんだけど……。 詳しく教えてくれとまでは言わないがせめてもの情報をくれない?」


 するとジジイはやけに長い溜息のあと、渋々と口を開いた。


「はぁ………………仕方ないのう。 『第四世界』は魔法や剣術も栄えておるが他の世界とは違い魔物がいる世界じゃ。 そこらに魔物がうようよと沸いておる。またダンジョンなども大量に発見されておる。 命の危険が最も間近にある世界なんじゃ」

「なるほどな」


 確かに死んだばっかりの人に命の危険がある世界なんてお薦めできないよな。すぐに死なれたら何かその…………悪いしな。ご、語彙力なくてすみません!!!!


「なぁ、聞くけどダンジョンって他の世界にもあるのか?」

「いや他の世界にはないな。 じゃから安心して選ぶとよい。 それとももう決まったのか?」

「あぁ。 決めたさ」

「そうか。 それでその世界は『第二世界』『第三世界』のどっちなんじゃ?」


 選択肢に入れないところ、あくまでも『第四世界』を薦めたくないらしいジジイに、俺は満面の笑みを浮かべて高らかに宣言した。


「『第四世界』にする!」

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