秘密
八
コテージの中はエアコンデテショニングが程よく効いているため快適だった。妙子はコテージに戻るまで速水に抱かれるように歩いたが、身体が冷えたのか先に風呂に入った。その間、速水はワインクーラに氷を入れ、チーズやスモークサーモンを皿に移しテーブルにセットした。キッチンには食事を作ることができる設備や食器が準備されており、予め食材も頼んでおくことができた。速水はシャンパンと朝食のセットを予約しておいた。
準備が出来たころ妙子が、白いシルクのキャミソールとおそろいのフレアアンダーに着替えてソファーに座った。ボリュームのある髪はタオルで巻いて風呂に入ったのか濡れてはいない。
「いいお湯よ、裕輔も入ってきて」
「あー、そうする。乾杯は後で」
風呂は温泉のためゆったりとした大きさで、かけ流しの熱めの湯で満たされていた。湯につかりながら速水は先ほどの妙子の反応を振り返っていた。少し驚くほど、妙子は「結婚」に反応した。女性であれば誰しもそうだとは思うが、涙まで流されるとは思ってもいなかった。
『演出しすぎたかな』
とりあえずそう考えることにして、備え付けのパジャマに着替えリビングに戻った。
妙子は薄く化粧を済ませ、速水を待っていた。
「さて、まずは乾杯しますか、姫」
「えぇ、でも姫は止めて」
速水は笑いながら妙子のグラスに程良く冷えたシャンパンを注いだ。
「二人の未来に……」
妙子はゆっくりとグラスを持ち上げ、速水のグラスに合わせた。食事の時とは違い、妙子は静か過ぎるほどになった。
「どうしたの?」
「実は、もっと前にいうべきだったのだけれど……」
「何?改まって」
「私の病気のこと……」
「もう治ったのだろう?」
「それがね、三年前に子宮に癌が見つかって手術したの」
「初期だったので手術も簡単だった……」
「えっ、でも治ったのだろう」
「お医者さんは五年間、再発しなければ大丈夫だって……」
「今年は四年目になるの、今のところ大丈夫よ」
「でも、半年前までDREAMに居たって、さおりが……」
「うん、半年前に店を辞めたのは別の理由よ」
「というか、病気のことで、少しノイローゼ気味になってしまって」
「うまく、お客さまと話せなくなってしまったの」
「そうだったのか……」
ここまで話して妙子は速水の顔を見つめた。
速水にはガン治療は詳しくないが、五年再発率のことは何かで聞いたことがあった。確か五年間再発しなければそれ以降の再発の確立は格段に小さくなるはずだった。
「今年はどうだった?」
「まだなの、今月中には行かなければ」
「裕輔」
「何?」
「さっきはYESって言ってしまった。すごく嬉しくて」
「いいじゃないか、本心なら」
「でも、五年になるまで待ってくれる?」
「待つって?」
「一緒に住むこと」
「……」
「お願い、わかって」
「指輪は引き取らないよ」
「もちろんよ」
「来年の旅行は?」
「行きたいわ、九月はどうかしら」
「妙子さえ良ければ、そうしよう」
「ごめんなさい、我がまま言って」
「長い婚約期間だけどしかたがない」
「本当にごめんなさい。それにきちんと花嫁修行するから、許してね」
速水には一年はどうでも良かった。まして花嫁修行など冗談でしかない。時間が必要なのは速水自身かもしれなかった。妙子の身体のことを知らされた以上、見守るしかない。しかし、その事実を自分のこととして受け入れられる自信はなかった。
速水は返事の替わりに、妙子を静かに抱きしめた。やわらかな髪と香水の匂い。押し返してくるような胸のふくらみと腰。
そっと妙子の下腹部に手の平を当てた。柔らかな張りを持つそこに、速水の想いを伝えるように、じっと手を置いた。
「暖かいわ、裕輔の手」
「少しずつ熱くなるみたいで、気持ちがいいわ」
「ヒーリングっていうそうだよ。癒しかな、再発しないでほしいって念じてる」
「嬉しいわ」
そういって妙子は速水の手に自分の手を重ねた。置いている速水の手に逆に妙子の熱が移ってくるような気がした。
毎日13時に掲載しています。昼休みには間に合いませんが午後の休憩に間に合うかな・・・
この後は大人の時間、"R18 ノクターンノベル" で短編番外編、9/9 20:00掲載!
N8166EF コドモは見ちゃダメ・・・




