陽だまり
六
季節は秋から初冬に移ろうとしていた。妙子は日曜の度に速水の部屋を訪れるようになっていたが、そのまま泊まることはなかった。少し遅くなっても必ずタクシーを呼び帰っていった。それは母への心遣いでもあり、速水との間にきちんとした折り目を持っていたいという、妙子自身の考えからだった。 速水もそれを理解し、あえて無理を言わなかった。
平日は外で逢うこともあった。大抵は速水が妙子に同伴する形で食事をした。二人の好みは殆どといって一緒だった。無理に合せることなく、妙子が選んだ食材は間違いなく速水にも好ましかった。
しかし、日曜日の妙子はまた違った表情をした。掃除は苦手、といったように速水の机には一切手をださなかった。ただ、こまごまと部屋を飾り、テーブルクロスを替え、ベッドカバーを取り替えた。
『新しくする』ことが妙子は好きだった。速水の部屋は男の一人住まいで、もちろん女性の匂いのするものは無かったが、装飾と呼べるものは唯一、オーディオとJAZZのCDくらいだった。
壁に無造作に張ってあったカレンダーは外され、ブルーを基調としたタペストリーとフロアースタンドにより、陰影がつけられた。
鉢植えの観葉植物が窓辺におかれ、速水が取り付けた無粋なカーテンはレース柄とおそろいの花柄に取り替えられた。当然、妙子が速水をデパートのインテリアコーナーに『連行』したからだが。
速水はそんな風に妙子の趣味で自分の部屋が彩られていくことに無関心を装いつつ、楽しんでいた。
車も、そろそろ替えようとしていた時期であった。それまでは、国産の白い中型セダンで、特に特徴も無かった。それは、足替わりであれば良いという合理的な考えであり、こだわりは持っていなかった。
妙子は速水にステーションワゴンがいいといった。
「どうして?」と尋ねると、「二人で旅行するのに、ステーションワゴンのほうが便利と思う」ということだった。妙子自身は以前にドイツ製のスポーツカーで事故を起こしスピードには興味がないと言う割に車にはこだわりがあるようであれこれ見歩いて北欧のメーカーのエステートにした。色は妙子が赤を望んだが、これだけは速水の希望でシルバーメタリックになった。
冬が近いころ、速水は妙子を温泉に誘った。
一泊だが、本当に二人っきりでゆっくりと過ごせる。いつも、泊まらずに帰ることには触れず、自分の都合のように妙子を説得した。最初は嫌がっていたものの、速水が強く出たので押しきられるように決まった。
「でも、初めてよね、お泊りは」
「そうだね、だったらハネムーンか?」
「……」
コーヒーを入れていた妙子は後ろを向いたまま、返事をしなかった。
「妙子……?」
肩に掛けた手を引いて妙子の顔を見た。涙が頬をつたい、妙子は少し震えるように、声を押し殺し泣いていた。
「妙子……!」
速水は抱きしめるしかなかった。言葉も何もいらない。ただ強く抱きしめ、ささやくしかなかった。
「愛してる」




