北の街角
舞台は冬の北海道です。
心配していたお天気はなんとか持ちそう。裕輔と同じ便では早いので午後の便でゆっくり行くことにした。もちろんホテルは同じ。裕輔は部長と一緒と言っていたから、今夜は遅くなるんだろうな。明日は札幌から飛行機を乗り継ぎオホーツク海沿いまで足を延ばすから、二人きりになれるけど、夜まで一人は寂しい。まして晩ご飯も一人ではつまらない。
そうだ、メール入れとこう。
『五時にはホテルに入ります。それからどうするの?』
ちょうど札幌に着いたころらしく少しして返事が着た。
『七時にホテルのロビーで。蟹シャブ……』
見透かしたように蟹で釣るつもりなのね、
『蟹焼きも付けてネ』
『はいはい』
しかたがないか~。惚れた弱みよね。
搭乗便の機内アナウンスで札幌の気温は氷点下五度と告げていた。
『キャ、ウッソ、めちゃ寒いじゃない』
カシミヤのコートとブーツでは来たけれと大丈夫かしら。
北海道は機上から見るとどこまでも続く雪原だった。まるで白い紙の上に定規で引いたような道路の上をまばらに車が走っているのが見えた。
太平洋沿いの大きな港の上空を飛びそのまま滑走路に着陸した。ものすごい雪煙を上げ、スピードを落とすと、たくさんの飛行機が並んでいる空港ビルに近づいて行く。
やがてドアが開き、一瞬冷たい空気が機内に吹き込みツアー客の後からビルの中に入る。数人前に、見覚えがある男性の後ろ姿があった。たまに一人で店に来る中年の客に似ているが、名前を思いだせない。声をかける間もなく、人混にまぎれてしまった。
『外、寒そう……』
空港ビルの中は逆に汗ばむくらい暖房が効いていて、カウンターの女性たちは割りと薄着で忙しそうにしている。
『うわー、風邪引きそうだな~』
JRのホームで待つより、リムジンバスの方がよさそうだと思い、切符を買った。乗り場にはすでにバスが待っていたので、すぐに乗車し走り出した。空港を出ると幹線道路をかなりのスピードで進む。市内に入るとさすがにスピードは落ちたが結構ドキドキした。予約したホテルの前にバスは停車し、そのままフロントでチェックインを済ませ部屋に入った。
『ホテルに着きました。美人をほっとくと高くつきますわよ』
とメールを打った。しばらくして返信がある。
『姫すまぬ、しばし待たれよ』
まったく、いつまで待たせる気かしら。何おねだりしようかな~。
結局、裕輔がロビーに現れたのは七時を三十分も過ぎてからだった。少しいじめてやろうと思ったら、同行している中年の男性に気がついた。どこかで見たことがある。
「浜田です、速水がお世話になっているようで」
『あ、そうだ。文也の店で裕輔と一緒だった人、確か裕輔の上司のはず……』
「いえ、すみません。島本妙子と申します。お仕事のお邪魔になって……」
『裕輔ったら、部長さんには内緒って言っていたのに……』
「妙子、すまん、遅くなって。部長がどうしても紹介しろって聞かないんだ」
「おい、速水。それは違うだろ、お前が……」
「ま、部長、それより蟹、蟹」
「しょうがないやつだな、お前の分は払わんぞ」
『なによ、裕輔、何か企んでる』
タクシーで市内の蟹料理の専門店へ向かった。着くとすでに予約してあったのか座敷に案内された。ビールで乾杯しながら、裕輔が事情を説明しだした。
どうも、浜田部長は最初から裕輔に女性が出来たことに気づいていたようで、今回の出張も帰りが別行動であることの理由を追求したらしい。裕輔は何か弱みでも握られてるのかしら。
結局、私が別行動で札幌に来ていることと、今夜の食事の予定まで白状させられたようで、交換条件が蟹シャブおごりのようだった。まったく何考えてるのかしら、男って。
「妙子さん、すみません。強引に押しかけて」
「どうもこいつ、……速水の様子が最近おかしいので、白状させてしまいました」
「婚約したそうで、おめでとう。やっとこいつも身を固める気になって……」
「このままだったら、無理やりでも相手を見つけてやろうと思っていました」
「まあ、裕輔さんたら何も教えてくれないので……」
「それにしても、速水にはもったいないくらい美人だな」
「どこかでお会いしてるような気がしますが……」
『裕輔……、何企んでるの?』
「部長、素行調査は後回しにして、蟹・蟹」
仲居さんが食べ方を説明してくれるが、それどころではない。裕輔が箸をつけ蟹を鍋にいれ、頃合をみて私の器に入れてくれた。
「ほら、妙子、食べてみて」
「あ、はい……おいしいわ」
浜田部長はそれをにこにこしながら見ている。え~い、こうなったら度胸を決めて、蟹食べよ。
どうやら裕輔は、浜田部長に私とのことを話すかわりに仲人をお願いするみたい。
「部長、ということでしばらく内密にお願いします」
「わかったが、戻ったら日を選んで俺の家に来るんだぞ、家内にも紹介せんと」
「妙子さんは着物が似合いそうだ。家内も喜ぶよ」
浜田部長は仲人が趣味みたい。そういう人っているのよね、裕輔の上司だからしかたないわね。
でもこの部長、なんだかHくさい。お勺するときの目つきが少しいやらしい。
「うほッ」
裕輔も気づいたのか、咳をした。
さすがに一緒にホテルへ戻るのは気が引けたので、浜田部長とは蟹やの前で別れ裕輔と一緒に近くのバーに入った。
席についてすぐに裕輔は、
「ごめん、何も言って無かったけど、浜田さんに図星指されて、白状してしまった」
「……」
「それに、いずれ仲人を頼もうって考えていたし……」
「…………」
だんだん裕輔の声が小さくなる。かわいいな、この辺で許してあげよう。
「ほんとに、せっかくの蟹、味がよくわからなかったわ」
「今度から、大事なことは先に話してね」
「……すまん」
ホテルに戻ると裕輔にメッセージがあった。浜田部長からだった。
『速水へ。明日は別行動なので気にするな。良い週末を。 PS ここの部屋の壁は思ったより薄そうだ……』
って、何よまったく、大きなお世話じゃない。多分裕輔は部長と同じフロアだから、私の部屋にきてもらおうっと。
妙子は最初からダブルルームを予約していた……。
蟹食べたいな~ そろそろ美味しい季節ですね。
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