木漏れ日
これからのことは分らない。しかし、一夜を境に二人の関係は大きく変化した。
佳子ママのお土産選びに結構時間を取られたが、高菜漬とクッキーにした。帰りのルートでは、寄り道しながら時間をかけて午後になって戻った。
「あーら、お帰り。早いじゃない」
佳子ママが言うと、
「うぅん、裕輔さんが早く帰ろうって言うからネ」
佳子は妙子の変化に気づいていた。速水を呼ぶ言葉だけではなく、にじみ出る情愛の細やかさが単なる男と女の関係以上であることを。
「速水さん、お茶でもどうぞ、……」
と、家に上がるよう促した。速水には昨夜妙子にプロポーズしたことを伝えなければならないという気持があった。
リビングに通され、少し緊張しながら、話す順番を組み立てていると、佳子ママがお茶を入れはいってきた。妙子もお土産の袋を持って部屋に入ってきたが、速水の顔を見ると、何が始まるのかすぐに察した。
妙子の左薬指には昨夜速水が渡した指輪がはめられている。速水が言いよどんでいると、佳子ママが、先に切りだした。
「ねえ、速水さん、こんな我がまま娘をよろしくお願いします」
「妙子は私のせいであまり幸せな人生ではなかったの」
「でも、今日の妙子の顔を見てすぐに分りました」
「ふつつかな娘ですが、どうか末永くお願いいたします」
速水は返答に窮した。
「佳子ママ……、いえお母さん」
「妙子さんをお嫁にください」
妙子は、下を向いたまま、何も言いだせずにいた。
「妙子、お受けするのね?」
「え……はい」
そう言って速水の手を握った。
「で、お式はいつにするの?」
「まだそこまでは、ただ妙子さんの希望で来年の秋くらいに考えてます」
「あら、随分先ね……」
「お母さん、私がお願いしたの、だってなんにも準備してないんだもの」
「そうね、……」
母娘の会話に口をはさむタイミングを失ったが、ひとしきりして速水は食事を一緒にという佳子の申し出を辞して、妙子の家を出た。車まで見送った妙子に、後で電話すると言って、手を握り、車を出した。
部屋に戻り、着替えてから冷蔵庫のビールを取り出した時、携帯電話が妙子の呼びだし音を告げた。
『今日はありがとう。なんだか夢みたいな一日だった』
「これからも夢にするの?」
『いえ、夢じゃないわ』
『母が早く式をあげなさいって、うるさいの』
「ははは、そう。 じゃそうしようか?」
『だめ、それは』
「花嫁修行かい? それはいいんだよ」
『うぅん、違う。……五年、来年が五年なの』
速水は妙子がこだわった理由がやっと理解できた。それと同時に、妙子の心にも刻まれている病気の重さに驚いたのだった。
「妙子、ごめん。気づかなかった」
『いいの、私こそ我がまま言ってごめんなさい』
『それより裕輔さんこそ疲れたでしょう?早く休んでね』
「ああ、そうするよ。 じゃおやすみ、愛してる」
『おやすみなさい。Chu』
最後は携帯にキッスした音が聞こえてきた。
速水は妙子の背負っている重荷を理解し、それを乗り越えようとする妙子に手を貸そうと思った。
第一章はこれで終わります。
婚約した二人の続きは第二章へ・・・
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