俺と雪だるま
「ごめんね、もう行かなきゃ」
「まってよ。まだぜんぜん遊んでないじゃん」
「もう十分遊んだよ。君といる時間はとても楽しかった」
「まって、いかないで!!」
「まってぇぇぇぇぇ!!」
全身汗だくになりながら夢中で手を伸ばした。時計を見ると朝の9時。春樹はふぅーっと長いため息を吐いて重たい頭を抱えた。
「夢か。驚かせんなよ」
*
「どうしたのボーっとして」
冬花は僕の目の前でしゃがみこみ頬杖をつく。「あら可愛い」って思いながらも表情は平常を装った。
「考えごと」
「ふーん」
冬花は面白く無さそうな顔をしたと思えば、直ぐに悪そうな顔をした。
「あ、まさか私のことを考えてたんでしょう」
「なっそんなわけないだろ」
「またまたぁ。顔赤らめちゃって」
冬花の茶化しで寒さで赤い耳がさらに赤くなる。
「で、今日はなにすんだ?」
「うーん、どうしようか。雪だるまでも作る?」
「まぁ、雪合戦の次はそうだよね」
「でも、雪だるまを一緒に作っても面白くないから勝負しよ!」
「いいぜ!」
春樹はいつの間にか小さい頃の自分に戻っていた。
時を忘れてひたすら遊んだあの日々。今では覚えてないけど歓楽的な思い出は脳裏に焼きついていた。
*
今日は夜の9時に着くように家を出る。親に「何しに行くの」と聞かれたが「友達と約束してる」と嘘をついた。少し感じた罪悪感はドアを開けると既に無くなっていた。
*
いつもの場所に着くと冬花を発見した。いつ見ても服の違和感が半端ない。こんな真冬にワンピースとか知らない人が見たら「死ぬの?」って思うだろう。
そんな冬花は遅れた俺に投げる用の雪玉をせっせと作っていた。
「よう」
「今日は間に合ったね」
「流石にな。約束を破るのはダメだと思っている」
「どの口がいう」
冬花は胡散臭い通販番組を見るような目で春樹の頬っぺたを摘んだ。
「ごめんって」
「なら、雪だるま作ろっか」
「オッケー、たしか勝負するんだっけ ?」
「うまくできた方の勝ちね」
そうして戦いの火蓋は切られた。
最初は小さい雪玉をコロコロ転がして地面の雪を衣をつけるように付着させていく。
冬花の方を見ると雪だるまの作り方を知らないのか、森に入っていく。
「何してんだろ」って思いながらも作業の手を止めなかった。
胴体を作り終え、頭を作り終えそうな頃に気になって森に目をやったけど冬花の姿は見えない。
「本当に何してんだあいつ」
*
「よし、どっちがすごいか決めようか」
「いいよ!」
森から帰ってきたばかりの冬花は自信満々に返事をした。
「やけに自信がありそうだな」
「私の作品は胸を張れるくらい凄いんだから!」
「え、お前胸無いじゃん」
春樹は冬花の貧相な胸を見て嫌味ににやけた顔で茶化しを入れた。
「ムカっ。今、地雷を踏んだね?私、君を一瞬で凍らせることくらいデキルンダカラネ?」
「嘘です。すみません」
「冗談はさて置き始めようか。まずは俺のからな」