俺と女の子
歩き慣れた道。頭上には光輝く星の数々。道は月の光で照らされ、懐中電灯で照らさなくとも道を確認する事が出来るほど明るい。
でも、寒いのには変わり無い。夜の外気は春樹の体を少しずつ冷やしていった。
急いで目的地周辺に行くとあの不恰好な雪だるまは消えていた。
おかしいな。ここら辺に有った筈なのに・・・見回しても何処にもない。すると木陰からーー。
「あの、コレあなたのですか?」
と女の子が、手に持っているレジ袋を見せてくれた。
春樹はあまりに驚いたため、足を滑らせ尻餅をついてしまった。顔を上げるとその子の顔が月の光で見えて春樹の脳裏に焼きついた。
サラサラとした黒のショートヘアーにくりくりとした黒の瞳。白い肌に着ている白のワンピースは冬の雪を彷彿とさせるようだ。幼い顔質からして俺よりも年下な気がする。だけど一番気になるのはこんな真冬の地面に裸足で立っていること。
「大丈夫?」
少女は見下ろしながら聞いてきた。
「・・・うん、平気」
「てか、君こそ平気なの?雪の上を裸足とか自殺行為だよ?」
少女は意味を理解してないのか、頭にはてなマークを浮かべながら返す。
「もちろん平気だよ」
「なら、よかった・・・っておかしいでしょ。普通なら寒さで死んでもおかしくないよ?」
「・・・実は私、人間じゃないの」
「え、人間じゃない?なら、まさか・・・幽霊?」
春樹は引き気味に問う。
「違うよ。私は冬の精霊。この国に冬を届けに来たの」
「冬の精霊って見えていいものなの?」
「普通の人間には見えないはずなんだけどね」
「そうなんだ」
「ねぇ、あなたの名前はなんてゆうの?」
「春樹・・・薄氷春樹だよ」
「あなたにはいい名前があるのに私には無い・・・」
春樹は困った表情を浮かべる。
「あの、精霊なら名前はいらないんじゃないの?」
「そうですけど、あなたに君って呼ばれるよりは名前で呼ばれた方がいいです」
ムキになってるのか、少し気性が荒い気がする。
「名前が無いのに名前で呼ぶのは無理だよ」
「そんなの簡単じゃん」
少女は冬の寒さを吹き飛ばすほどの笑顔で言った。
「あなたが名前をつければいいんじゃない?」
「!?」
この子、大人しそうな顔してこんな事言うなんて。天然か?
もう会うことないだろうし、ここは曖昧な答えで逃げよう。
「分かった、考えてくるから。次会った時に話すよ」
「本当に?」
「ほ、本当だよ」
この笑顔が凄く辛い。
「なら、約束ね」
「分かった」
曖昧な答えを残し、レジ袋を持ってその場を後にした。