第４話 虚像の中の虚像【ジャンル：洋画】
「これ、代わりに返しておいてくれないか。」父親から渡されたDVD。「じゃ、頼んだぞ。なるべく早くな。」そう言って父親は書斎に戻っていった。
パッケージの裏を見ると、あらすじが書いてあった。なになに？
【主人公のジョンはいつの間にか同じ日を繰り返していることに気づく。初めはこれ幸いとばかりにあらゆる悪行を尽くしていたが、突然訪れたある出来事により何とかこのループから出たいと願う。すると一枚の紙が落ちてきて、そこにはこう書いてあった。《抜け出したければ、我の指示通りに動け。》変な指示が次々と続く。とうとう最後になったその指示の内容は、到底受け入れがたいものだった。ループを抜け出すか否か。ジョンの究極の選択が迫る。】
「何だ、B級映画か。よくそんなもの見る暇があるな。」シンの父親は大手広告代理店に勤めていて、結構忙しい地位にいるようなのだ。それなのにゲームや映画鑑賞などの時間もきっちり確保する。かなりのやり手だ。
「この指示書を出している人ってどんな方なんでしょうね？」姫が横から顔を出した。
「さあ、姫と同じ部類なんじゃないの？」
「【部類】はないでしょう！まあ、そういった類の方が納得できますけどね。」ムスッとした表情に変わる姫。
「どんな奴か気になるなら、入ってみるか？」実はシンの方が興味があった。別の世界の神とやらにあってみるのも悪くない。
「そうですね・・・。それぐらいならシナリオに関与しないでしょうからいいでしょう。」
「決まりだな。」二人はシンの部屋に向かい、DVDを早送り再生して最初の指示書が落ちてくるらしい場面で一時停止した。
「何かお土産をお持ちした方がいいでしょうか？」
「そんなことはいい、行くぞ！」もーっ、妙にあっさりしたシンの態度が気に入らない姫であった。
最初の指示書が落ちてくるのは主人公のジョンの部屋。そこを窓を通して見える場所に二人は現れた。元は字幕なしの英語バージョンだったが、力のおかげで日本語に聞こえ、標識などの文字にも日本語訳が添えてあった。
「そろそろですね。」「だな。」ジョンが一生懸命に祈る。すると、空中に紙が一枚現れた。
「あれ？何も存在を感じないぞ？」ネタバレが嫌で映画の中身を全く見ずに来た二人。中に入れば簡単に確認できると思っていた。ところが神のような特別な存在は全く感じられなかった。
「おかしいなぁ。神じゃなかったら何者なんだ？」
「差出人不明、ですか。ますますお会いしたくなりましたね。」
「しょうがない、次に行くか。」次の指示書が落ちてくるタイミングまで飛ぶことにした。
何回か指示書は落ちてきた。そのたびに、現れる瞬間意識を集中して何者かがいるかを探ったが、シンには全く感じられなかった。姫も同様だった。
「ぜひご挨拶したかったのですが、残念です・・・。」最後の指示書が現れる瞬間を見届けて、姫は残念がった。
「職場の同僚みたいなもんだからな、姫にとっては。」
「それ、何かニュアンスが軽いですー。」
「冗談だよ。さて、戻るか。」どうもおかしい。そもそもこの世界に神は存在するのか？というか、現実世界とこの世界をイコールに考えてもいいのか？違和感がシンの頭の中をよぎったので、戻って映画を見ようと考えたのだ。きっとその方が早く、謎の違和感も解けるだろう。
「そうですね。徒労に終わらせてしまって申し訳ありません、シン。」シュンとする姫。
そんな姫の頭を軽くポンとたたいて、シンは笑った。「まあ暇つぶしだったからな、もともと。気にすんな。」
「はい・・・。」まだ少し元気のない姫であった。
映画を見終わって、二人は納得した。
「なるほど、そういう事だったのか。」確かに、これではあの世界で神不在になるはずだ。
気持ちがすっきりしたところで、コンビニに行くついでにレンタル屋の返却口にこのDVDを突っ込んで来よう。そう思い立ったシンは、待って下さいーと言う姫を置いてけぼりにして玄関のドアを開けた。
あらすじの下に表示されているジャンル、【SF】。それが全て。
感の良い方にはそれでお分かりかもしれないが、「それだけじゃ分からん」という方のために、映画の中身を別作品としてご用意いたしましょうか。
スピンオフのような形で、この話の中に登場するB級映画の内容を、
「従え、さすれば報われん」という短編小説として公開します。
そちらも読むと、今回の話がよりよく分かると思います。
よろしければ、ご覧下さい。
