第13話 神は見守るだけ、悪魔は微笑むだけ【ジャンル:ボードゲーム】
「あー楽しかった。」楓は背伸びしながら言った。
今日はシンの家にリョウと智花が遊びに来たのだ。たまたま家にいた楓が「たまにはこんなものもいいでしょ。」と父親の書斎から少し古いボードゲームを持ってきたので、五人で遊んだのだ。リョウは何回か遊びに来ていて、楓と自然と仲良くなっていたので、ゲームは楽しくプレイできた。どうも楓がリョウを気に入っている節があった。それでこんなことを言い出したのかもしれない。
「それにしてもお前の父親、何でも持ってるな。」リョウが感心した。
「リョウの上位互換みたいなもんだからな。」
「おお、同志か!是非お会いしたいもんだな。」
「休日に呼び出されることもあるし、なかなか捕まらないだろうがな。伝えとくよ。」
「恩に着るぜ。」リョウは見知らぬ同志に思いをはせていた。
「今日はこのぐらいにしましょ。解散解散。」智花の締めの言葉ゲームはここで終わった。
「やってみて思ったんですけど、」姫がシンに言ってきた。「先のマス目に起こることがあらかじめ書いてあって、出来事が分かってるのになぜ面白いのでしょう?」
プレイしていたのは、よくある人の人生をなぞるゲーム。生まれ、成長し、結婚し、子供ができる、といった類のものだ。姫が天界から人間の生活を見ているのに状況が似ていたのだが、それはちっとも楽しくない。しかしこのゲームは結構面白かった。それで疑問に思ったのだ。
「多分【何が起こるか分からない】じゃなくて【どのマスに止まるか分からない】からじゃないかな。」
「何か抽象的で分かり辛いですー。」
「じゃあ実際に入ってプレイしてみるか?」
「ええ。そうしましょう。」
楓に、俺が返しておくよとボードゲームを預かり、それを持ってシンの部屋に移動するシンと姫。例の如く誰も入ってこないようドアに鍵をかけ、ゲームをテーブル上に広げた。そして静かにゲームの世界に入っていった。
入ると、自分の姿がピン状になっていた。そして車のような形のものに刺さっていた。プレーヤーが動かすコマの再現である。そして空中にはルーレットが浮かんでいた。
「さあ始めましょうか。」姫の声が頭の中に響いてきた。ピンには口も手もないので、どういうプレイスタイルになるか見当もつかなかった。
各自頭の中で念じてルーレットを回す。指した数字の分だけマス目を進んでいく。そこに書かれた内容が実行される。いたって単純だった。頭で考えれば、盤上を上から俯瞰した図が見えたので、先にどんなマスがあるか分かっていた。それを考慮してルーレットで出す数字を狙って回した。そのことを姫が知った時、シンが何を言わんとしていたかが何となく分かった気がした。
つまり、何となくプレイしていたのではなく、戦略的にプレイしていたのだ。それは決められた人生をそのまま歩むのではなく、自分の力で道を選択していく姿に似ていた。人生は何が起こるか分からない。でも生き方は自分の意志である程度選択できる。ある時は神に祈りたくなることもあるだろう。ある時は悪魔の甘いささやきに屈しかけることもあるだろう。その中で迷い、選択してくことこそ人生の生き甲斐なのだと。それを疑似体験できるのがこのボードゲームなのだと。
「結構奥が深いものですね・・・。」姫は感心していた。それでもプレイは続く。就職して給料が入った。結婚して横にピンが一本増えた。子供が出来てピンが二本増えた。支出が大きいこともあった。
でもなるべく支出を抑え、収入を増やすプレイを心がけた。そしてとうとうゴールした。プレイヤー二人がゴールした時点で、空中にゴール時の財産をもとに順位が発表されてゲームエンド。強制的に元の世界に戻された。
「どうだった?」姫にシンが尋ねた。
「結構面白いものですね。」姫はと同時に(人間というものは。)心の中でそう呟いた。
「それにしても、ボードゲームの中には神も悪魔もいませんのね。」
「お前がそれを言うなよ・・・。」
「でもその方が面白いのかも、ですね。」
「お前達は特定の人間の人生に干渉したりするのか?」
「いえ、ほとんどありません。あまりに酷い惨状になれば別ですが。一番近くでは、第二次世界大戦ですね。」
「あれもお前たちが関与していたのか?」
「終わらせる時だけですけどね。それもただ姿を現しただけです。何かをしたり言ったりしたわけではありません。」
「凄いな、それだけであれだけの戦争を終わらせられるのか・・・。」
「そうです、凄いんですよ。」えへん、と姫は胸を張った。
「そうそう、一つだけ言いたいことがあるんですけど。」
「何だ?このゲームにか?」シンは不思議がった。
「はい。せめて・・・。」姫のこの一言で、さっきのいい感じが台無しになった。
「結婚して子供が増えた時、増えたピンもしゃべって欲しかったです。周ってて何か寂しかったなあ・・・。」
「いやそれは仕様だから。」思わず突っ込んでしまったシンだった。




