第12話 融通が利かない世界もあるという【ジャンル:ライトノベル】
「なあ、」例の如くリョウから押し付けられたラノベを読みながら、シンは姫に尋ねた。「このラノベの中に入ったら、俺たちの姿はどうなるんだ?」
「と言いますと?」
「今まではどんな形にしろ映像があっただろ。それに補正されるようにはなっていても人間の形でその世界では存在できたじゃないか。でも、文章だらけの場合はどうなるんだ?」
「それは入ってみないことには分かりかねますね。私もそこまでは経験がありませんから。」
「そうか、やっぱりか。」シンは決めた。
「行くしかないか。姫はそれでいいか?」
「嫌がっても無理やりついて行きますよ。」姫はシンの助手気取りだった。まあシンにとって頼もしい相棒には違いないのだが。
しかしシンは忘れていた。このラノベがどういうジャンルだったかということを。
中に入ってみて、シンは驚いた。体中がある怪談のように文字だらけだったのだ。部位の名称、その特徴、シンの性格からどのような髪形かまで、それを表現した文字が人間の形を作っていたのだ。
そしていちいち行動するたびに〔〜だった。〕という解説付き。うっとおしいことこの上なかった。
しかし不思議と、人なら人と、木なら木と認識できた。これが文章の世界なのだろう。
周りを見渡し、シンは現状を把握した。どうやらここはある大物政治家のパーティーで、シンと姫はその警備員の役目のようだった。「あれ、この話どんなのだったっけ・・・。」シンが思い出そうとした時、建物内に悲鳴がとどろいた。『きゃあああぁぁぁぁ!』パーティーの主催者である政治家が、口から血を流して倒れていた。
そこでシンは完全に思い出した。ここは【推理物】の世界だったと。
シンと姫は出席者の誘導とともに、警察の到着を待って現場保存に努めていた。そこに警部のような人物と、それにくっついて来た少年が現れた。この少年が主人公の探偵なのだ。
シンと姫は警備員という言わばモブの役だったので、話の本筋には入らないだろうと考えた。なので、どのような推理をするか遠くで見守ることにした。
探偵は死体の状況やあたりに散乱しているものを見聞して回った。そして周りの人たちに聞き込みを開始した。シン達も尋ねられたが、「特に変わった様子は見られませんでした。」というモブとしての答えをするのみだった。
ただ、それを聞かれる時に、探偵の姿が一瞬イラストになった。ラノベには途中で何枚か挿絵が入る。その絵の場面だったのだろうとシンは類推した。
その後探偵と、怪しい人物とピックアップされた人々はどこか別の部屋へと出ていった。そこでシン達の役目は終わったとばかりに、強制的に元の世界に放り出された。
「これからいいとこだったのに。」探偵の名推理が間近で見られると思っていたシンは残念がった。
「それにはシンも容疑者になる必要があります。それは不本意でしょう?」姫が釘を刺した。
「それはそうなんだけど。しかしラノベって案外融通が利かないもんなんだな。」
「文章だけで表現してますからね。余計なものは即座に排除した方が、作者にとっても読者にとっても都合がいいのでしょう。」姫は冷静に分析した。
「今度からは、小説や新聞みたいな文字が主体の媒体に入る時には注意しないとな。」
「そうですね。」
何かやらかすと、延々と長い文章でお説教をされかねない。作品中で。それだけは勘弁なシンだった。
ちなみにシンが入ったラノベのこの巻は、8枚ある挿絵のうちモブとしてのシンが描かれているものが一つだけある。興味のある人は探してみるといい。ただし、これを読んでいる人の世界にこのラノベがあるかどうかは分からないが。




