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近づく君。近づけない俺。

初めての恋愛物です。

 校舎の窓からふと見つめると、彼女の姿が見える。朝、もう学校が始まっているのにかかわらずパンを口にくわえて校庭を走っている。今日をいれてもう3日連続で遅刻をしてしまい先生もあきれていた。

教室のドアがガラッと開き、彼女は飛び入ってきた。

「おくれてすみません!」

「またか。遅刻も3日ぼうずにしろよ。いいから、席につけ。」

そうして彼女は僕のとなりの席に着く。そして、慌てて授業の準備をするが筆箱が見当たらずに焦っているようだ。まったくドジな奴だな。そう思いながら筆箱からシャープペンシルを取り出し無言で机の上に置く。すると彼女はノートに大きく「ありがとう」と書いてにっこり笑った。いいから早く黒板をうつせ。

 午前の授業が終わり昼休憩になる。僕はいつも通り屋上へと足を運ぶ。誰もいない閑散としたこの空気やっぱり大好きだ。深呼吸をひとつして、端っこにむかう。誰もいない場所で一人、音楽を聴きながら昼飯を食べる。これがいつもの日常だった。そして、何一つ変わらずに卒業する。所詮そんなものだろうと、イヤホンを耳につけて好きな音楽を聴きながら弁当のふたを開ける。すると、屋上の扉の開く音が聞こえた。はっとして振り返ると彼女が立っていた。今朝遅刻してきた彼女だ。

「ここにいたんだ。もしかして今食事中?」

見ればわかるだろ。そして彼女は僕の目を見ると

「君っていつもそんな悲しそうな目をしてるよね。どうして?まさかとは思うけど不幸ものきどりなの?」

口の中の食べ物を飲みこむと僕は口を開いた。

「別に好きでこんな目をしてるわけじゃないし、不幸もの気取りでもない。ただ、普通に目をあけてものを見ているとなんだか疲れてくる。だからさ、こうやって目を半開きにしてるんだよ。びっくりしたよ。急に何いってんだお前。ところで何をしにきたんだ?一人でいる僕をバカにでもしにきたのか?」

「違うよ違うって。そんなんじゃないから安心して。ただ一緒にご飯食べる人がいなくてね。」

そういうと彼女は僕の横に腰かけ、長い綺麗な髪の毛を手でかき分けた。かすかにシャンプーの香りがした。

「一緒に食べる相手がいないってどういうことだよ。今まで一緒に食べてた奴らはどうしたんだよ。あ、罰ゲームか。」

「違うって。どうしてそういう方向に持って行くのかな。」

「よりによって僕と食べるなんてよくわかんないな。何も面白くないのにさ。」

「まあ、そうだね。なんでだろ。多分どこで食べようか悩んでたら君の姿が見えたからついてきた、って感じかな。」

「ふーん。」

そして、黙々と弁当を食べた。何もいうこともなくただひたすら食べ物を口に入れる。それだけで彼女との時間は終わってしまった。ここで何か気の利いた話でもできればと自分を憎んだ。もしここでなにか話せるのなら今ここで一人で昼飯を食べるのが日常、なんてことにはならなかっただろう。それにしても気まずいな、なにか話題を探さないとな。なにかいい話題がないか頭の中で検索してみるも、”結果がみえません”がでてくるだけで何一ついい方向に進まない。そんなこんなであたふたしているとまたしても急に、

「そういえば君って好きな人とかいるの?」

「えっ?」

「えっとだからさ、君は好きな人とかいるのかなって思ってさ。」

「また急に何言ってんだ。いないよ。」

実際はいる。います。嘘ついてごめん。いきなりすぎた。

「ふーん。」

彼女はそういうと立ちあがった。そして、風に髪をなびかせながら

「あと、自分のことを僕って言うのはちょっと似合ってないよ。俺っていいなよ。そっちの方がかっこいいからさ。」

そして、彼女は扉を開けて屋上から立ち去った。残されたぼ、俺は一人混乱していた。

「そうか、似合ってないのか。僕って言うの。」

イヤホンを鞄に収めて屋上から立ち去る。あと5分で授業が始まる。

 退屈な授業が終わる。放課後になるとみな、放課後にどっか遊びに行こうぜと誘い合っている姿が目に映る。俺はというと、一人教室に残って誰もがいなくなるまで寝たふりをしている。足音がなくなり、人の話し声もしなくなったとき俺は伏せていた顔を上げた。いつもなら夕のあたる黒板が視界にはいるはずだった。しかし今日はどうしてだろうか。どうしてこいつとよく会うのだろうかなにか縁でもあるのだろうか。

「またお前か。早く帰れよ。」

「そんな冷たい言葉はないでしょ。もっとなにかないのかな?」

「ない。というか、なんで残ってる。」

「なんでって、これ。」

彼女は筆箱から今朝貸したシャープペンシルを取り出した。

「まだ返してなかったからさ。」

「それなら置いて帰ればいいだろ。俺に対してはそういう扱いでいいんだよ。普通。」

「そういう訳にもいかないの。なんだかそういうのに抵抗を感じるとかそういうのかな。」

「へえ。お前変わってるな。」

「ちょっと言わないでよ。」

彼女は顔を赤らめた。

「そこ、顔を赤らめるところか。」

「え、赤くなってる!?」

さらに顔が赤くなる。

「まあ、いいや。俺はもう帰る。」

椅子から立ち上がり、教室をでる。

「あ、待ってよー。」

バタバタと音を立てながら後ろをついてくる。うるさいし、今日はいったいどうしたんだろう。きっとこのまま二人で帰ることになるだろう。そうしたらきっとまたあの昼と同様にまた沈黙が二人を包みこむことになるだろう。それだけは避けたい。それにしても話題がない。どうしようか。彼女が追いつくまでもう時間がない。

「なんで先に行こうとするの、待ってってば。」

かたをポンとたたかれる。

「なんでって、それを聴きたいのは俺のほうなんだけどな。」

「えっ。」

「いや、なんで俺についてくるのかなって。」

「なんでって、その、あの、それって理由とか必要なのかな。」

気になるな。でもここで質問するのも恰好がつかない。

「別に。なくてもいいよ。俺だってたまに理由もなく行動することもあるし。」

いや、それにしても気になる。なんだろうこの気持ち。もし、俺のことが好きだからだとかだったら・・・・いやいやそんなことがあるわけがない。もしかして、俺はそういう理由であることを期待しているのか。そもそも俺にはそんな魅力なんて一切ない。そう断言できる自信がある。多分ただの暇つぶしだろう。うん、そうだ。そういうことにしておこう。

「そうだよね。私もそんな感じだよ。うん。」

彼女はぎこちない笑顔でそういった。

 そして、俺と彼女は一緒に夕暮れ色に染まる帰宅道にそって帰った。その時はなんなく普通に会話が出来た。あの重い沈黙はまったくと言っていいほど出てこなかった。きっと今日はもう出番はないだろう。そう、それでいい。というかもう二度と出てきてほしくない。

 一週間くらい経った日の昼休み。俺はいつも通り一人で屋上に向かった。しかし、今日はいつもと違い閑散とはしていなかった。そう、彼女がいたのだ。一体どうしたんだろう。

「またお前か。」

「またお前かって。そんな言い方ないんじゃない?」

「今日はどうしたんだ。いつも食べてたあいつは今日登校してたぞ。割と元気だったし。」

「それはね、君と一緒にお昼を食べたいなって思ってさ。」

「ふーん。」

あれ、これって俺に好意を抱いてるってことなのか。そうなのか。もしそうだったらどうしよう。告白とかされたらなんて答えようか。いや待て。それがもし俺の勘違いで他の男子の恋愛相談にのってくれませんかみたいな感じだとすごい恥ずかしい。どうしよう、どうやって確認しようか。とりあえず聞いてみるか。

「あのさ。」

「なに~?」

「お前ってさ。好きな人とかいんの?」

その瞬間何が起きたのか分からなかった。彼女の手に持っていた水筒は宙に舞い、中に入っていた冷たいお茶は俺の体にかかり、膝の上に乗せていた弁当箱はあたり一面にぶちまけられた。そのあまりにも悲惨な光景に俺たちはしばらく唖然としていた。あのセリフがここまでの破壊力をもつとは驚いた。

「ごごごごごご、ごめん。今片づけるから待ってて。」

すぐに正気に戻った彼女は急いでハンカチを取り出し、落ちた食べ物を拾い始めた。

「あ、ごめんごめん。余計なこと言っちゃって。大丈夫か?」

「う、うん。ちょっと驚いちゃった。いやーびっくりした。」

「ちょっとじゃねえだろ。」

「えへ、そうだね。」

チャイムが辺り一面にチャイムが鳴り響き、俺たちは教室に戻った。その間俺たちは黙ったままだった。何か声を掛けようとしたがその前に教室についてしまった。

 黒板で教師でなにか話していたがまったく耳に入ってこなかった。どうしてあそこまで過敏に反応したのだろうか。まあ、気にしても仕方ないか。頬杖をついて授業を聴いているといつのまにか眠ってしまった。ぼんやりとした視界に入ってきたのは彼女だった。いや、彼女だけではない。他の女子も見える。

「ねえ、ほのか。あいつのどこが良い訳?ただの根暗でしょ。一緒にいても面白くないはずだしさ。」

「確かにそうだけど、話してみると意外とおもしろい人だよ。」

「ふーん。よくわかんない。でも羨ましいなあ。好きな人とか私にはいないからさ。それにしてもあのほのかが恋ねえ。ここはそっとしておくべきなのかな。ま、応援してあげるよ。」

「ありがと、真紀。」

「それじゃあ、私は帰るとするか。また一人で帰るのか~。あいつのこともいいけどさ、たまには一緒に帰ろうよ。寂しくなっちゃう。」

そう、真紀は言うと教室を出て行った。彼女は空を見つめながら

「なんで私の気持ちに気づかないんだろうな。人の気持ちがすぐわかるようになればいいのにな。」

彼女は俺の頭に手を乗せ、そうつぶやいた。そして、ボソッとした声で

「あの時はありがとう。」

そういったのを俺は確かに耳にした。俺は寝たふりをしていたが、とうとう耐えられなくなり起き上った。そして、まるで先ほどまで眠っていたかのように目をしょぼしょぼさせながら

「あれ、ままた残ってたのか。」

「うん。私も眠ってたみたい。」

嘘つけ。結構恥ずかしいこと言ってたぞお前。起きていたことを悟られないようにして、

「そっか。でも、隣同士寝ているっておかしい話だよな。ちょっと笑える。」

現在六時を指す時計に目を向け、鞄を手に持ち教室を出る。続いて彼女も教室を出る。そして、今日もたわいもない会話をして帰った。別れ際に一言、

「そういえば、この前俺好きな人いないって言ってたけどほんとはいるんだ。」

ほのか、お前だ。そういいたかったが声にはならなかった。

「へえ。誰?」

その返答に弱虫な俺は

「また今度言う。」

とだけ言って彼女と別れた。ごめんな。まだ、お前の気持ちにこたえる勇気がないみたいだ。勇気が出てきたら、面と向かっていってやる。お前が好きだって。

 

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