風船をつかんだタックトック・リン
カベユカのある町に、タックトック・リンという少年がいました。タックは愉快な少年で、いつも町の中を縦横上下無尽にスキップしてまわっていました。町の人々はスキップするタックの姿を見かけると笑って手を振り、タックも倍も大きく手を振って、にこにこと笑いました。タックは町の人気者でした。
ある日タックは、泣いている女の子に出会いました。タックがわけを聞くと、女の子は鞠つきをしていて、鞠を溝に落としてしまったと言うのです。女の子には手が届きませんが、タックには取れました。
鞠を取ってあげると、女の子は笑顔になってお礼を言いました。タックはまたスキップして、壁を進んでいきました。
またある日の事です。タックが野原を歩いていると、二人の男の子が一本の木を見上げていました。タックも傍によって見ると、枝にバドミントンの羽が引っかかっていました。歩いて行けば取れる位置ですが、木の幹が細いので、取りに行く勇気が出ないようです。
タックはさっと木を歩き、羽を取って男の子の片方に渡しました。男の子達はお礼を言いバドミントンに誘いましたが、タックは断って、スキップしていきました。
そしてある日の事です。町ではお祭りが行われており、あちこちに出店が開かれていました。大人も子供も楽しそうにしていて、もちろんタックも例外ではありません。あっちで砂糖菓子を買い、こっちでパイを買いと、お祭りを楽しんでいました。
気分の良くなったタックがいつものようにスキップをしていると、ピエロが子供達に風船を配っているのが見えました。
赤い風船が女の子に。青い風船が男の子に。そして、緑の風船が男の子に渡されようとした時です。
風船が手から離れ、空へ浮かんでいってしまいました。人々が見上げると、風船は誰もいない壁の側をゆっくりと上っていきます。
タックはスキップで、壁を進み始めました。追いつけそうにありません。
タックは走りました。手を伸ばします。駄目です、届きません。
もう一度。あと少しのところで、すり抜けてしまいます。風船が風を受けて、壁から離れていきます。
タックは、跳びました。タックの手が、風船の紐をつかみました。
しかし、タックは高く跳びすぎました。タックは風船をつかんだまま、地面へと真っ逆さまに落ちていきました。
力の抜けたタックの手から再び、緑の風船が空へと昇っていきました。
これは四、五十年ほど前に起こった事件である。この事件以来、カベユカのこの町の祭りでは、緑の風船を使わなくなった。