本当に起こった怖い話
それはキモダメシで起こったことだった。ある日両親が出かけて留守の家で、お泊まり会が開かれていた。集まったのは五人の子ども達。晩ご飯を食べてお風呂に入って、歯を磨いてしまえばやることは一つ。怖い話をしあうことだけだ。
五人は円になって座り――便宜上、時計回りにハル、ナツ、アキ、フユ、トシとしておこう――懐中電灯を真ん中において話を始めた。
「あるお屋敷でのことだ。」と、ハルは口を開いた。「女中にキクという娘がいた。キクは働き者で良く気の利く娘だったが、ある日主人の家に伝わる家宝の皿のうち、一枚を割ってしまった。」
ハルが言った途端。台所から皿の割れる音が聞こえた。ハル以外の四人はビクリと肩を揺らし、この家の子ども・ナツが言った。
「皿が割れて怒られるの、俺なんだけど。」
ハルは謝った。「ごめん。これ以上は割れないからさ。……皿を割られて大層起こった主人はキクをクビにし、キクは井戸に身を投げて自殺してしまった。」
庭の方からドボン、と何か大きな物が水に落ちる音がした。この家には井戸も、池もない。
「そしてキクが自殺してから三日目の晩。ひたひたと台所から足音がして、さらにはカチャカチャと皿を動かす音が聞こえてきた。」
ハルが言った通りの音が、台所から聞こえてくる。一枚一枚丁寧に、皿を動かす音。
「すると女の声が聞こえてくる。『一枚、二枚、……』と皿を数える音が。最後にはこう言った。『八枚、九枚……何度数えても一枚足りない。』」
五人は耳を澄ますと、女のか細い震える声が何度も何度も一枚足りない皿を数えているのが聞こえた。この世の物とは思われぬ声に、アキ、フユ、トシは寒気を覚えた。
「その皿を数える声に屋敷の物はすっかり参ってしまい、とうとう主人は井戸に落ちたキクの遺体を丁重に埋葬した。キクの幽霊は成仏し、皿を数える声は聞こえなくなったそうだ……めでたし、めでたし。」
話が終わり、フユは息を吐いた。
「何回聞いても、ちょっとヒヤッとするな。」
「だな。」
「そうかあ?」
アキは同意したが、ナツはそう思っていなかった。トシは黙っていた。ハルは少し気分を害された。
「じゃあ、もっと怖い話が出来るんだろうな?」
「もちろん。」
そして、ナツは話し始めた。
「ある古い日本家屋に、奥さんを亡くした老人が一人で住んでいた。奥さんが亡くなってから老人は身の回りの細々した事まで手が届かず、少々不自由な生活を送っていた。
そしてある日、老人は座布団を洗うことを思いついた。もう何年もの間、老人が座っていた座布団だ。老人は何のためらいもなく、座布団をひっくり返した。
……そこには数え切れないほど大量の虫が蠢いていたのだ!!」
ナツが言い切った瞬間、全員の座布団の底が、大量の虫がいるかのようにざわざわと動き出した。ハルもアキもフユもぎょっとして座布団から飛び降りた。ナツは顔をしかめてやり過ごした。トシは、飛び降りた勢いで押し入れに逃げ込んだ。
「卑怯だぞ、こんな気色悪い話。」と、フユ。
「これのどこが怖い話だ。」と、ハル。
「もう大丈夫だから出てこいよ。」と、アキ。しかしトシは押し入れにこもったまま出てこない。
「実現してるんだから、これは怖い話なんだ。」
断言すると、ナツはアキの方を向いた。
「次はアキだぞ。」
アキはトシを説得するのを諦め座布団に座り直すと、語り始めた。
「これはつい最近起こった話だ。ある家で、子ども達が留守番をしていた。両親は夜まで帰ってこない。そこで子ども達は怖い話を順番にして楽しむことにした。
子ども達は円になって座り、真ん中にロウソクを置いて準備が調うと、一人目が話し始めた。
『ある家で、子ども達がお泊まり会を開いていた。子ども達はもちろん、お泊まり会につきものの怖い話を始めた。それぞれが一つずつ、怖い話を語る。話と起こる現象を楽しんで一周した頃、家のどこかでカタン、と音がした。』」
カタン、と音がした。ハルはぴくっと肩を動かした。
「『怖い話が終わった後だったので一体何だろう、と子ども達は階下を見に行くことにした。そこにいたのは……日本刀を持った殺人鬼だった!!』
話し終わると同時に、部屋のドアが開いた。そこにいたのは、日本刀を持った男だった。子ども達はどこか楽しそうに悲鳴をあげた。
しかし男は消えず、刀を振りかぶると子ども達を一人ずつ斬り殺してしまった。男は、本物の殺人犯だったのだ。」
アキが語り終わるとすぐ、ナツは笑って言った。「最近起こった話って嘘だろ、犯人しか生き残ってないのに話が伝わるわけないじゃないか。」
「おい、来るぞ」
フユが言うと、軋む様な音を立ててドアが開いた。立っていたのは、刃渡り三十センチの包丁を持った男だった。子ども達の顔から、血の気が引く。
「話と違う……。」
男は子ども達を次々と刺し殺すと、部屋を出て行った。
これが、本当に起こった怖い話。
子ども達の名前は便宜上の名前と書かれているが、実際にハルヒコ、ナツヒコ、アキヒコ、フユヒコ、トシヒコという名前だという説がある。
ナツが述べた通り、話が伝わったのはトシが生き残ったからであろう。