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ソラから落ちる

 これはソラユカのとある男性の話です。名前を、ジョージとしておきましょう。

 彼は地道な日雇い労働者で毎日つましい生活を送っていたのですが、とうとうまとまった額の貯金ができ、他の世界へ旅行に行くことにしました。


 最初にやってきたのはもちろんミズトホノオです。彼はそこで、空から降ってくる炎、炎の滝、水で調理されていく料理などを楽しみました。ミズトホノオを観光し終わったジョージは、まだお金に余裕があったので、隣のスガタガワリへ行くことにしました。


 スガタガワリに行くと、小さな子供は杖をふってごっこ遊びをしているし、大人も重い物を運ぶときは力持ちの姿に、高いところの物を取るときは巨人の姿になって、生活に役立てています。

 ジョージも変身してみたいと思い、ロッドショップへ行きました。店の中には手のひらに収まる小さな杖から大魔法使いが使いそうな長い杖、素朴な木の杖から宝石のたくさんついた杖まで、様々な杖が並んでいます。

 ジョージは悩んだ末に、白木で出来た、指揮棒のような杖を買いました。買ったばかりの杖を楽しそうにふっていると、ジョージが観光客だと見てとった店主が言いました。


「お客さん、変身に夢中にならないよう、気をつけて下さいよ。特に、鳥や魚になるときはね。十分経ったら、戻ってしまいますから。」


 ジョージは分かったと言って、店を出ました。宿を取って荷物を置くと、早速変身することにしました。変身するのはもちろん鳥。誰だって一度は鳥になって、自由に空を飛んでみたいと思う物です。


 ジョージは杖をふって、呪文を唱えました。みるみるジョージの姿が、小さな鳥に変わっていきます。変身した姿は、スズメでした。

 口をぱくぱくと開け閉めするとくちばしがカツカツなり、足の指をぎゅっと閉じると、前に三つ、後ろに一つの指がきつく握られます。両腕を広げれば、人間からすれば小さな、小鳥の身には大きな羽が広がります。


 記憶にあるスズメと同じように、羽を動かしてみました。なんだかふわっと、身体が浮き上がりそうです。ジョージは思い切って、地面を蹴りました。


 するとどうでしょう、身体はふわりと地面を離れ、ジョージは空に飛び上がりました。足下に地面がないのは奇妙な感覚でしたが、気持ちのいいことでした。

 まだ慣れていないので壁にぶつかりそうになったり、ベッドに落ちたりしましたが、段々コツを掴んで、上手く飛べるようになりました。


 しかし十分というのは短いもので、ジョージは元の姿に戻ってしまいました。飛ぶことにも慣れたので、外で飛んでも大丈夫だろうと窓を開けました。もう一度杖をふって、呪文を唱えます。今度は、鷹のような生き物になりました。スズメよりも大きな鳥になりたいと思って鷹をイメージしたのですが、スズメと違って完璧にはイメージ出来なかったので、頭の形が少しばかり丸くなっています。


 それでも鷹に相応しい大きな翼はあったので、ジョージは思い切って窓から外へと飛び出しました。ただ、ジョージはスズメと鷹の飛び方の違いを分かっていませんでした。

 スズメは羽を動かすことによって浮きますが、鷹は上昇気流に乗らないと高くは飛べないのです。鷹となったジョージは滑空していきました。次第に、地面が近付いてきます。ジョージが慌てだしたところで……翼が、気流を捉えました。


 ジョージはどんどん飛翔していきます。ジョージは上がりすぎないように、ここいらで三番目に高い建物の高さで、気流から外れました。高い空からは色々な物が見えました。家々の屋根も、仕事をする人々も、遠くの海も。翼が風を切る感覚がなんとも心地よく、ジョージはしばし飛行を楽しみました。


 やがて、元に戻る時間が近付いてきました。町には時計台があったのでジョージもそのことには気付いていたのですが、その高さから動こうとはしませんでした。秒針が五と六の間を通り過ぎたところで、ジョージは元に戻りました。


 もちろん、ジョージは落ちていきます。身体が落ち始めてようやく、ジョージは叫び声を上げました。どうしてでしょう? ジョージは、ソラユカのルールがここでは使われないことを忘れていたのです。


 ソラユカの皆さん、余世よそに出かけるときは十分ご注意を。

 ご存じの通り、上から物が落ちてくると、大変迷惑ですから。

 ソラユカ出身者の落下事故はこれ以外にも多数報告されており、スガタガワリに限った話ではない。

 事故死亡者数はカベユカ出身者のおよそ三倍で、コトワリワースト一位となっている。

 現在ソラユカでは小・中・高で他の世界に行く場合の対処法の授業が行われている。

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