自分が異世界転生テンプレものを書こうとしたらきっとこうなるに違いない
設定なんて使い捨てるもの。
オチさえ分かれば楽しめるハズ。
僕の名前は梶木慎太郎。ちょっと前までは何処にでもいるような普通の高校生だった。
所がある日、俺はトラックで今にも轢かれそうな男の子を救い、代わりに俺はトラックに轢かれて死んだ。
全然人生なんてろくに歩んでいない俺は、天国で女神様とやらに異世界で勇者として生き返るチャンスとやらを貰った。
かくして俺は異世界で旅をしつつ、蔓延る魔物などの悪を討つ勇者として復活した。
勇者とは実に爽快だ。転生者としての特典として、常人ではありえない無敵の強さを手にチート能力で雑魚を一掃。
そうして戦いを通して心強い仲間達が出来た。
まず紹介するは、大神官の一人娘で神官見習いのリーゼ・ロッタ・フォン。俺は彼女の事をリゼと呼んでいる。
神官なんて職業だけを聞いたら、普通は回復や補助役をイメージするだろう。
ところが彼女はいざ戦闘となると、自分の二倍くらいの長さと重さがあるとても重たい杖を軽々と振り回して戦う武闘派でもある。
主人公補正とやらで、俺はラッキースケベなイベントが起き易い体質で、あの豊満な胸にうっかり飛びこんでしまっては彼女の怪力の餌食となっている。
お次は、大道芸人のビビアン=ナチェリー、通称ビビ。大道芸仕込みのトリッキーな動きで敵を惑わし戦う、パーティーのトリックスター。
彼女は元々、町から町へ巡業する旅芸人の一座に所属していたのだけど、巡業先へ向かう度の途中で魔物に襲われていたのを助けたところ一座を離れて俺達の度についてくると言い出した。
なんでも、一刻も早く一座の皆が安心して仕事が出来るようにしたいんだとか。
俺に一目惚れしたといって、パーティーの中でも彼女は一番積極なアプローチを俺に仕掛けてくる。
最後に紹介するのは、魔族の少女マキ。旅の途中行き倒れているところを助けてやった所、懐かれてしまった。
回復アイテムの干し肉をたらふく食べさせてやったことが、思わずして餌付けすることになってしまったらしい。
成長の遅い魔族なだけあって、普段はお子様体系のクセに、聖なる月光の力が届かない新月の晩がくると急成長&発情。ムチムチとしたお色気満載の体で、メンバー唯一の男である俺を襲ってくるから大変だ。
こんなパーティーで俺、異世界で勇者やっています。
* * * * *
長い旅の末に、俺達は世界に平和を取り戻すことが出来た。
あの最終決戦で、世界を喰らう怪物を仲間の協力技でトドメを刺した時、俺の前に俺を異世界に送り込んだ張本人の女神が再び姿を現した。
彼女はこう言った。
「よくこの世界に平和を取り戻してくれました。
しかし呼び出して勝手ですが、あなたはもともとこの世界にとって異物、いままで私の奇跡を使って長らく留まらせていましたが、この世界にはこれ以上長く留まることができません。
あなた方の戦った最後の敵、あれも元々は世界の異物だったのです。それが世界の排斥に抗おうとして、あのように自分以外の異物、つまり異世界の全てを喰らう怪物へと変貌させてしまうのです。
僭越ながら、あなたを命の助かった世界軸へと戻してあげます。ですので、あなたという存在を消滅させるなどの不安は無いのでご安心ください」
「ということは、俺はこいつらとは」
「残念ながら、ここでお別れです」
俺は、異世界にまつわる衝撃的な真実と、それまでの旅してきた仲間たちとの突然の別れを同時に告げられた。
正直、仲間との別れが来たことが一番辛い。彼女たちとはすでに友情以上の関係を結んでいたから。
旅を一緒に続けてきた、リゼ、ビビ、マキらを見る。皆、俺と同じように目を赤くしていた。
「あ、そこは心配ございませんよ。半年ごとにならこっち側来ても平気なようにしてあげましょう」
ありがとう女神さま。
でも半年か、長いなあ。しかしこれで、一生会えなくなるなんてことは無くなった。
「あはは、シンタローったら悲しそうな顔でもないのに泣いてるヤ」
「うっせー、マキ。これは嬉し泣きってやつなんだよ」
「半年後には新技を開発してあっと驚かせてやるから、あたいの居る一座に顔出せよ」
「おうビビ、楽しみに待ってるからな」
「シンタロー様、半年後は私の許へ真っ先にかけてくださいね――」
「――――」
リゼにも返事をかけようとした口は、彼女の唇によって塞がれてしまい、なにも言えなかった。
「「リゼ、抜け駆けはずるい!」」
唇とその両隣に、柔らかい感触をしたものが押し当たり幸せを感じる中、こうして俺の異世界の冒険は幕を閉じたのだった。
* * * * *
元の世界に戻ってあれから半年が経った。
異世界で冒険していたことが既に遠い昔に感じるようで懐かしい。
元の世界に戻った俺は病院のベッドで目が覚めた。
担当していた看護師に状況を聞くとトラックに轢かれたものの、一命は取り留めたということになっている。女神の言っていた命の助かった世界軸に戻すというのは、どうやらこういう事のようだ。
今日は俺がこっちの世界で目覚めて、丁度半年になる日。つまりあの女神のいう半年後。
リゼ、ビビ、マキ。彼女らにまた会えるのかと思うと、気分はどうしようもなく高まる。
じっとしていられなくてベッドの上から降りて、外の景色の映る窓から顔を出す。
すると空から声が振って来た。声を聴くのは半年ぶりだけど間違い無い、この声は女神さまだ。
『シンタローよ、約束の半年が経ちました。さあ、あなたを迎えにきましたよ。さあこの光に飛び込みなさい』
目の前に強い光が現れる。
俺は、窓のサッシに手を掛けて、光の中へと……。
* * * * *
――妙なことばかり呟いてるあの患者さんて、なんなんですか?
交通事故でトラックに轢かれて大怪我したことまでは知ってますけど、他になにか知っていたら教えてくれませんか先輩。
――あの患者さんね。いいからあの言っていることは、全部聞き流しときなさい。
長い昏睡状態から目覚めてずっとあの調子なのよ。「自分は神様に選ばれた勇者だ!」なんて言い続けていてね。
かわいそうに……、きっと長く病室のベッドで寝続けていたせいで、現実との区別がついてないらしいのよ。
――そうなんですか。
分かりました、そっとしておきます。
それにしても、表の方がなんだか騒がしいですね。
――後で確認しにいった人にでも話を聞けばいいから、あなたはしている仕事をしなさい。
――はーい、分かりました。
――やだなあ、仕事が増えなきゃいいのだけど……。
少年は~♪ 残酷な天使のように~♪ 窓辺からやがて飛び立つ~♪
尚、仮に異世界へ行けるのが本当だとしても、戻った時に彼女らは別の男を既に作っている模様――とは作者の黒い妄想。
読者の皆様方は、イチャイチャさせるなり、キャッキャウフフさせるなり、ラブラブさせるなりと、ご自由にあとづけしてくださいませ。