《3》もう学校をやめたい
夏休みに入る少し前、むくは担任の先生から夏休み中に補習を受けるよう言われ、その日程表を渡された。するとそれを見たむくは、
「こんなに何日も授業を受けるなんて冗談じゃない。絶対に行きたくない!」
そう言ってダダをこねた。
「自分がちゃんと授業を受けないから、こうなったのに何を言ってるの?先生方もわざわざ授業のために学校に来てくれるんだよ」
「そんなもの来なくていい。とにかくヤダ、ヤダー!」
「ちゃんと受けないと落第するよ。必要な日数を出席しないと駄目なんだから」
「もういい、行くのが面倒だし、どうせ出席が足りなくて駄目なら学校を辞める」
(全くどうしようもない、訳のわからない事ばかり言って。ホント、頭がどうかしてるよ)
かもめはいい加減呆れた。
むくはさんざん嫌がって悪態をつき、最後は担任の先生に、補習の時間を減らしてくれるよう頼んだ。
結局先生はむくに根負けし、また出席しなくても困るので、補習の時間を若干減らし、足りない分はレポートを提出して補うということに変更してくれた。
その件について担任の先生から連絡があったが、むくにはかなり嫌気が差している様子が伺えたので、かもめはこのままではまずいと感じた。
「自分のせいで補習になったのに、補習を嫌がって我がままを言うなんてちょっと普通じゃないよ!二学期からはちゃんと授業に出なさいよ」
かもめはむくに念を押した。しかし全く反省する様子はなかった。
その後すぐ保護者会があり、担任の先生と話す機会があったので、かもめは先生と円滑な関係を保つ為、むくの自閉症(アスペルガー症候群)について話すことにした。
「娘が勝手なことばかりして、先生方には色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません。娘はわざととか、我がままでやっているわけではないのです。実はずっと以前から他の子達と違って可笑しいと本人も思い、また私もいくら教えても常識が全く身に付かないので可笑しいとずっと思っていたのです。そして高校に入学する前に専門の病院で検査をして頂いて、自閉症の一種の「アスペルガー症候群」だということがわかったのです。これは普通の自閉症に比べて言語能力は高く、知能的にも問題はないのですが、コミニュケーション能力や想像力などが極端に低かったりとバラつきがあるのです。うちの子供は認知や判断能力がかなり低いので、物事の正しい判断ができなかったり先のことをなかなか考えられません。また他の人の迷惑や気持ちを想像するのが苦手で、自分中心の行動を取ってしまうのです。今回のことも我がままだけでやっているわけではないので、その辺の事情はご理解いただけたらと思います。勿論私も娘には、他の人達にご迷惑を掛けないように相手の立場に立って考えることや、世界は自分中心に回っているのではないということなど、再度よく教えるつもりです」
「そうなんですか、わかりました。今はお子さんは学校を辞めたいと言っていますが、本当のところはどうなんでしょう?」
「欠席が多いので、もう駄目かもしれないと思う気持ちと、補習に出るのが面倒くさいのでそんなことを言っているようですが、本心では、できれば高校は卒業したいと思っているようです」
「もし卒業したいという気持ちがあるなら私も卒業して欲しいと思いますので、これまでと同じように、卒業に向かって引き上げていくつもりです。もう一度よくお家で話し合ってみてください」
担任の先生は頼りがいのある感じで、そう前向きに言ってくれたので、かもめはとてもありがたいと思い感謝した。
その話しをむくに伝えると、少しは担任の先生の気持ちが理解できたようで、「もう一度頑張ってみる」と言った。そして一旦はその問題は解決したかに見えた。