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青春研究部!  作者: sun
7/10

二人で桜の下を

(ぐぅ…)

 う…腹の虫騒ぎ出してきた。

「そろそろご飯にしようか」

 そんな俺の提案は、すんなりと承諾された。

 みんなもお腹を空かせていたんだな。

「みんなの弁当出し合って食おうぜ」

 聖夜が自分の弁当を5人の中心に置いて、俺たちの顔を見回した。

「そうだな、みんなでちょっと豪華なものをつっつき合いながら食べるのが花見ってもんだな」

 俺はそう賛同しながら自分の弁当を差し出す。

 朝から慣れないクッキングをした俺の自信作。とくと味わってくれ。

「豪華じゃないけど、僕のも食べてね」

 陵もどこか申し訳なさそうにバックから弁当を取り出す。

「苺のも食べて食べて~、ジャジャーン。なんちゃって、ごめんね~忘れちゃった~。朝寝坊しちゃって」

 苺は無邪気に笑って、両手を合わした。

「そうか、苺の弁当も楽しみにしてたんだけどな。また次の機会だな」

 俺たちは、謝る苺をハハハと笑って許した。

「…じゃあ…私のも…食べて…」

 そう言って林さんが大きなバックを引っ張ってきた。

 林さんが来たときから気になっていたが、そのバックには、何が入っているんだ?

 いや……待てよ…林さんは家が豪邸で、食器が銀でできてるような家柄だぞ…だとするとその弁当も…。これは期待が膨らむ。唾腺が刺激されて、口内が瞬く間に潤っていく。

 俺はゴクリと生唾を飲み込むんでその弁当が現れるのを待つ。

「…これ…」

 林さんがバックのチャックを開けると、中には大量のカップ麺とポテトチップスがぎゅうぎゅう詰めになっていた。

「…お花見…豪華な…お弁当…」

 林さんの目が心なしか光ってるような気が。

「な、なんで、カップ麺とポテトチップスが豪華な食べ物だと思ったんだ?」

 頬をひきつらせて聖夜が苦笑する。

「秀光が…普段食べてない…ものが…豪華ってことだって…これとこれを…見せたら…そうだって笑ってた…」

 聖夜の質問の意味が分からなかったようで、林さんが不思議そうな顔をして、小首をかしげている

「…なにっ!?…」

 あんのクソ執事が…!!

 あいつが笑ってたのは俺らを蔑むために決まってる!!林さんを騙しやがってっ!!

 林さんが普段から食べているものこそが豪華な食事じゃないかっ!!

 よくも…よくも俺たちの期待を!!

「…だめ……だった?…ごめん…」

 言葉を発せられない俺たちを見た林さんはポテトチップスを抱いて俯いてしまった。

「林!!よくやった!!いやぁ俺もポテチ食いたかったんだ!!」

 にぃっと笑った聖夜は大袈裟に歓喜の声をあげた。

 無駄なイケメンだと思っているが、一応聖夜は気を遣うこともできるんだよな。

「僕もだよ!花見なんだし、みんなでお菓子食べながら楽しみたいと思ってたんだよ!」

「そうだぜ!!こんなにたくさんのカップ麺とポテチ食べきれねぇよ」

 聖夜の意をくみとった陵と俺も便乗する。

 林さんは何も悪くない。林さんが謝る必要なんか、一ミクロたりともないんだ。

「…そう…?それなら…よかった」

 顔を上げた林さんはポテトチップスをハイペースで開封し始めた。

 その様子は、まるで尻尾をピョコピョコ振る子犬を見ているようだ。

「林さんはポテトチップスとかカップ麺好きなのか?」

 あまりに嬉しそうに見えたからつい聞いてしまった。

「あんまり…食べたことない……たまに…食べると…おいしい」

 たまに食べると美味しい、か。そういうものあるよな。どんなに美味しいものだって頻繁に食べていれば段々と飽きてしまうものだ。

 ま、一般庶民には大抵が豪勢なものになってしまうだろうが、林さんは逆なんだろう。羨ましい限りだ。

「すごーい!たくさん種類がある~」

 苺はレジャーシート一面に広がったそれらを見渡した。

  見慣れた商品から季節限定の商品、俺だと手の出せないちょっとリッチなものまで勢ぞろいしている。

「でも、カップ麺は食べられないんじゃないかな。お湯ないから…」

 林さんの顔色を伺いながら陵は遠慮がちに意見した。

「…わすれてた…みんな…持って帰って…」

「おぅ!わりぃな、いただくぜ!」

 暗い雰囲気になりかけた場を、聖夜がわざと明るく振る舞って再び安定させる。聖夜の両手はカップ麺を抱えてた。

 俺たちも両手いっぱいにカップ麺を抱える。

「サンキュー」

「ありがとー」

「ありがとう」

 それらを各自のバックにしまって、また円になる。

「んじゃ、ポテチは三時まで待って、先に弁当から食べようか。林さんも俺の弁当なら好きに食べていいよ。遠慮なくどうぞ」

「なんだよ、カッコーつけやがって。俺のもいいぞ」

「ゆうみん、苺のもおいしいぞー?」

「僕のも、食べてみてよ」

 四人でそれぞれの弁当を中央から林さん側に少し押した。

 林さんは無表情のままその顔を桜色に染めた。

「…ありがとう…」

 そうして、わいわい食事を始めた俺たちはお互いの親睦を深めていった。

「なぁ、俺たちの部活って、青春をするための部活だよな?」

 唐突に箸を止めて聖夜が切り出した。

「そうだが?」

「なら、青春に必要な要素と言って間違いないのは異性との触れ合いじゃないか?」

「…そうだと…思う…」

 その通りだ。それも俺たちの活動目的に盛り込まれている。

 それにしても林さんが異性沙汰に反応するなんて意外だな。

「でもでも~、春くんも陵くんも聖夜も、今、苺とゆうみんと喋ってるじゃんー」

 苺は、ふてくされるようにプクゥと頬を膨らませて見せた。

「いやいゃ、俺が言いたいのはお前らよりも、もっと若い子との……「はいはい、わかりましたわかりました!要するにもっと異性との青春の仕方を知りたい練習したいってことだな!そうだよな!」…あ?…あぁ…」

 ふぅ危ないところだった…。また聖夜からトンデモ発言が出るところだった。

「そ、それじゃあ…林さんと苺さんに協力してもらわないと…」

 俺は二人の顔をうかがうように見る。

 てっきり、「無理だ」と言うと思っていたが。

「いいよー、楽しそうだし~」

「…私も…大丈夫…」

 二人とも乗り気のようだ。

 苺はVサインをつくりながら、林さんはもじもじと指を織りながら、協力を了承してくれた。

「いや、だから、もっと若「そっか!それは助かる!なぁ聖夜!」…うぐっ…」

 無言で聖夜の口を押さえ込む。

「…くっ……後で覚えてろよ春樹。陵も勿論やるよな?」

「うん…」

 陵は渋々、首を縦に振った。


「第一回ドキドキ「ちょっと待ったぁ―!!」」

 盛大に大会名を叫ぼうとしたところに邪魔が入った。

「ふぅはぁ…ふ、ふざけるな…よ…。俺を差し置いて…夕美お嬢様とドキドキイベントなんて…この外道が!!」

 その邪魔者は両手を膝に落とし、肩で呼吸しながら、顔だけを上げ、その鋭利な刃物のような眼光で俺を睨み付けた。

「どこかでずっと見てたんだよな?この腐れストーカー!!」

 俺は昨日の軽いスタントと昼食の恨みを晴らすべく、執事に食って掛かった。

「なにを!?寝言は寝て言え!!」

 すぐに喧嘩を始める俺たちの間に林さんが入ってきた。

「…やめて……」

「お嬢様…しかしですね。この私の仕事は、お嬢様に近寄る害虫を駆逐することでありまして…」

「誰が害虫だって?そのダッセェ眼鏡ブッ壊してやるから目玉洗い直して、よ~く見るんだな!!」

「害虫の分際で生意気な!!」

「春樹…害虫…違う…もう一度言う…やめて…」

 林さんの言葉はどこか力がこもっているように聞こえた。

「うっ…」

 そんな林さんに執事も俺も、二の句を次げずに押し黙った。

「よっしゃー、ちょうど6人だな。くじでペア決めて桜ん中歩いてこようぜ」

 その隙に聖夜が再び切り出す。この空気に痺れを切らしたんだろう。

「そうだね!6人でやろう!」

 すかさず陵が後を押す。

 待て待て、よく考えろ…。男が4人、女が2人…男&女が×2…そして男&男が1組………あぁ、なるほとねぇそだよねぇ、そうなっちゃうよねぇ。

「………。」

 嫌だ嫌だ。無理無理無理。男と二人で桜並木を歩くなんて絶対御免だ。

「じゃあ始めるよー。はい取って取ってー。同じ色が2つあるからねぇ」

 早い。もう即席くじが出来上がってやがる。

 俺が額の冷や汗を拭っている間に苺の手には6本の紙きれが握られていた。

「んじゃ、俺これ」

「…これ…」

「僕はこれにするよ」

「それでは私はこれにします」

 俺は瞬く間に減って2本残った紙切れを穴が開くほど睨み付けた後、自分から見て左側を引き抜いた。

「苺が緑だよー」

「おっ、俺も緑だぜ」

「…赤……」

「僕も赤だよ」

 聖夜と苺、陵と林さんがペア…か。

「………。」

「………。」

 これから散ってゆく桜の下には言葉を失い、同じ色で塗られた紙切れを握りしめて震える2人の男が佇んでいた。

「…黄色」

「私も…黄色」

 言うまでもない…俺とゴミ執事がペアだ…。

「こ…こんなことが…っ」

 最悪だ…なんで俺がこんな奴と…ッ…。

「ふざけるな、私はお嬢様と歩くんだ!誰がこんな奴と一緒に歩くか―!!」

「それはこっちのセリフだぁ―!!」

 俺と執事がお互いの顔面を限界まで近づけて唾を掛け合う。

 長時間言い合いをしていたので、その間に聖夜と苺が散歩に出発してしまった。

 やっと落ち着いて現実を受け入れた俺と執事は、桜の間を歩いて行く2つの背中を座って眺めることにした。

「これ聞いてみてよ」

 いつになく楽しそうな陵が何やら小型の無線機のようなものを渡してきた。俺たちは、それに耳を近づけてみる。

「…これ…」

「聖夜と苺か?」

 陵は得意気にうなずいた。

「これは僕がつくった超高性能超小型超盗聴機だよ」

 ただ"超"言いたかっただけのネーミングだな。

 それにしても恐ろしいもんばっかり作り出しやがって。

「いやぁ、たまたま持ってきててよかったよ」

「なんでこんなもん作ったんだ?」

「え?なんとなく、だよ~」

 はは、と笑う陵に俺はアホだと思わずには、いられなかった。

『聖夜く~ん』

『おい、てめっ、くっつくなっ』

『いいじゃ~ん、誰も見てないんだから~』

『そういう問題じゃねぇッ!』

「「「………。」」」

 いつの間にかレジャーシートの上は静まり返っている。4人とも盗聴機から流れて来る2人の声に耳を奪われていた。

 俺の拳には徐々に力が込められてゆく。

「聖夜の野郎ぉ…ッ…陵!」

 呼びながら陵の目を見ると向こうも決意のこもった眼差しを俺に向けていた。

「うん!」

「残念だが、あやつには天の裁きを与えなければならない…。オカマのオッサンに連絡を!」

「うん!……もしもし…聖夜が今すぐランデブーしたいそうなので河川敷に来てください、はい、それじゃあよろしくお願いします。…とんで来てくれるって!」

「よし、あとは罪人を待つだけだな」

 我らながら見事な連携プレーだ。



「帰って来たぞ」

 緊張感を感じさせる執事の低く小さい声。

「おう」

「うん」

「……。」

 聖夜は、くたびれたようにダラダラとこちらへ歩いて来る。

「おい、聖夜。楽しかったか?いや、楽しかったよな?」

「あぁ?楽しかねぇよ…疲れただけだ」

「黙れ、罪深き聖夜に制裁を!」

 俺の叫び声を合図に、桜の影で首を長くしていたオッサンが聖夜に襲いかかる。

「せいく~ん!さぁアタシとランデブーしましょ~」

「おぃ…ッ…なんだこのモノノケは…ど、どういうことだあぁぁ…ッ……!」

「行ってらっしゃ~い」

「聖夜~、ファイトー」

「…頑張って……」

「お気の毒に」

 オッサンに間接を決められて、土手の向こうに旅立った聖夜に向かって俺たちなりのねぎらいを口にする。

「さて、帰るか!」

「そうだな。クソ高校生の言う通りだ。帰ろう」

 俺とゴミ執事の意見が重なるなんてシャクにさわるが、この流れに乗って解散できれば……。

「春くん何言ってるの?」

「そうだよ春樹。また雄妥先生呼んじゃうよ?」

 だが、何度も言うが、現実は非常に厳しい。

 苺と陵は作り笑いで首をかしげている。

 おい待て陵!!携帯を手に取るな!!あの化物を再召喚するだって?冗談じゃない!!あいつは聖夜だけをむさぼっていればいいんだ!!

「わ、わかった…続けよう…」

読んでいただいて、ありがとうございます。

これからも書いていくのでよろしくお願いします。

よかったら、アドバイスや感想を書いてくれたら嬉しいです。

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