初部活動に向けて
身体中痛てぇ…昨日派手に転がったからなぁ。
早朝、アザだらけの体にムチ打って俺は師匠に会うため"仙女喫茶フェアリー"を訪れていた。訪れると言っても隣なんだけどな。
「おはようございます。師匠」
「おぉ、春樹。よく来たのぉ。どうしたのじゃ?」
店内のふすまを開けると装束、髪、髭、眉毛まで真っ白い老人が微笑んでいた。
完全に老人じゃないか、三十代だけど。仙人にはこんな格好をしなければいけない掟でもあるのか?
「いえ、報告したいことが一つありまして」
「報告とな、なんじゃ?」
「はい、先日師匠にご教授してもらった"青春"について自分なりに考えて、部活動を設立しました。そこで俺は青春を謳歌したいと思います」
「おぉ、そうかそうか。それは楽しそうじゃのぉ」と頷いた師匠は俺の肩を手元にあった杖でポンポンと叩いた。
師匠が杖持つとマジで魔法使いみたいだな。
「頑張るのじゃぞ」
「はい。頑張ります。それじゃこれで、俺は帰ります」
朝早くから長居するのも悪いからな。早めに帰ることにしよう。
「また来るのじゃよ」
杖を左右に揺らす師匠に一礼して学校に向かった。
「いやぁ、午前中の授業辛かったなぁ」
聖夜は、ふぅと息を吐いて自分の茶碗から米をかきこむ。
「そうだね。昼休みが待ち遠しかったよ」
陵も自分の箸でご飯をすくう。
この学校では、校長の地球大好き精神にのっとりエコな校則が多数存在している。その中の1つがマイ食器制度だ。
その名の通り、食堂では自分の箸や茶碗を持参して食事をする。というものだ。
代金と自分の食器を食堂のおばちゃんに手渡し、それにそれぞれの注文品をよそってもらう。
入学当初は違和感を感じずにはいられなかったが、一年経ってみるともう慣れたものだ。
それにしても、個性がでるよな。
陵の茶碗は白ベースに青い水玉模様のシンプルなもの。聖夜の黒い茶碗には星とトナカイに引かれたソリ、それに乗った赤い服の白モジャ髭オヤジが描かれている。まさに聖夜。
俺のは母親が買ってきてくれた森の動物が描かれている。熊、鹿、猿…。
三人とも入学時から愛用している。
そうそう、入学時は聖夜人気が全盛期で、食堂には先輩から同級生まで様々な女子が殺到てたっけ。
けど…その人気は衰退することはないらしい。
「白月先輩っ、握手してもらえますかっ?」
1年生が3人、聖夜の前にやって来た。
「はぁ…」
これで何人目だ?さっきから落ち着いて話もできやしない。
「いいよ。はい、握手」
はは、っと爽やかに微笑みながら握手に応じる聖夜。
クソッ!!聖夜ばっかり…俺と陵なんか、隣に居るのに存在を認識されてない。ちょうど雑草や石ころと同類なのだろう。
それでも…それでも俺はタンポポのように強く生きていこうと思う!!
「ありがとうございました」
キャハキャハ騒ぎながら後輩が去ると、今度は2人の同級生が現れた。
「聖夜せんぱ~い。モテモテですねー」
金髪に紅い瞳、そして胸。
この3つの特徴を持つ美少女、戸田苺。その特徴の中でも自己主張が最も強いのが胸だ。身長は150センチにも満たないのにボインはしっかりボインボイン。
「だれが先輩だ。俺はお前の先輩になった覚えはない」
「やー、聖夜君冷たーい」
確かに、聖夜は苺に冷たいな。なんでだ?女になら大抵優しいやつなのに。
「こいつ苦手、うるさい…」
あぁ…確かになぁ。
元気過ぎるってのも考えようなのかもな。聖夜は元々うるさいのが苦手だし、それにしたって、そこまで眉間にしわを寄せなくてもさぁ。
「春くんのお茶碗は相変わらず可愛いですねー、苺、そういうの大好きだよー」
「はいはい、ありがとー」
いつ見ても、二人のテンションは正反対だな。
「…ご飯…たべる」
4人駆けのテーブルだったので林さんは椅子を1つ持ってきて俺の横に座った。
俺の座っているほうは二人のスペースに聖夜、俺、林さんが座ることになり結構窮屈になってしまった。
なんで、わざわざ俺の隣に?普通に俺と正面の陵の間に座ればいいのに。
あぁそっか、苺に席を譲ったのか。林さんは優しいな。
「林さんはお茶碗、普通だね」
林さんの茶碗は真っ白い極普通のものだった。
「…え?」
これは、失礼なこと言っちゃったかな。
「あ、いやいや、昨日は銀の皿とかだったからさ」
俺は慌てて弁解しようとして、声を荒らげてしまった。
「昨日だと?」
「昨日ってなになに?」
聖夜と苺がずいっと身を乗り出して俺に顔…というか耳を近づけてきた。
「なんでもねぇよ」
なんとなく、喋りたくなかったのでしらをきった。特に話すことでもないだろう。
「なんでもないってことはないだろー」
「そうそう、早くはいちゃいなよ」
でもまぁ、別に隠すようなことでもないか。言わなきゃ、うるさそうだしな。
「昨日、林さんの家にお邪魔させてもらったんだよ」
「「「えぇーッ!!」」」
おいおい、そんなに驚くことでもないだろ。陵まで……おい、口から何か出たぞ?
「やるなー春樹」
「ゆうみん、あなどれないねっ。」
「…違う……そういうのじゃ…ない」
林さんは俯いてもじもじと指を織りだした。
内気な林さんじゃ、強く否定できないよな。俺が言うしかないか。
「林さんの言う通り、お前らの期待してることじゃないから」
「本当か?」
「そっか、そういうのじゃないんだね。一安心」
「なんだー、つまんないのー」
三人の口を尖らすがそんなことは気にしない。
「本当だ。まったく、いちいち騒ぐなよな」「…ありがとう、春樹…」
ふぅ、なんとか、ことなきを得たようだな。
そういえば、今後の部活動のカギを握るものを昨日のうちに陵に頼んだんだった。
話を変えるついでに聞いておこう。
「そうだ、陵。昨日頼んだやつ造ってきてくれたか?」
「え?あぁ、徹夜で頑張ったよ。部室に置いてあるよ」
流石、陵は仕事が早い。
部室か、あの空き教室を使わせてもらえることになったんだよな。やるじゃないか、オカマのオッサン。
あの教室は俺たちの教室と同じ新校舎だし、人通りも多い。絶好の位置だ。
「よし、じゃ部室行くか」
「えー、今から?」
みんな、あからさまに嫌な顔してやがる。なんだよー良いじゃないか。
「いこーぜー。あれは早めに試しておきたいんだ。それに部員全員いないとダメなんだよ」
「しょーがねぇなぁ」
「春くんがそこまで言うなら行こっか、ゆうみん行こっ」
聖夜が立ち上がると、苺が林さんの手をとって続いた。
ぞろぞろと食堂を出る5人は少し浮いていた。
当たり前だ。学校のアイドル聖夜に、美少女転校生苺、静かで清らかなオーラをかもち出している林さん。…とその他若干二名。というメンバーなのだから。
「それじゃあ見せるよー、ジジャーン」
部室に入り、陵が机の上にあった、大きくも小さくもない四角い風呂敷をサッと取って見せた。
「「おおー」」
口々に歓声があがる。現れたのは四角い箱で真上に長方形の穴が空いている。それに加え、角のように生えた二つの小型ソーラーパネルがクルクル回っていたり、スピーカーのように小さい穴がポチポチ空いている。
「で、これは何なんだ?」
「ふふ~ん。これは…「意見箱だ」…ねぇ、春樹なんでそこ言うの?今のは僕が言う流れだよね?」
陵は頬を膨らませてしまった。
「わりぃわりぃ、それで俺の依頼した機能は搭載できたか?」
「もちろんだよ。僕に機械のことでできないことはあまりないよ」
さっきまで膨らませていた頬をから空気を抜いて、誇らし気に胸をポンポンと叩く陵。
こいつは、良い意味で扱いやすくて助かる。
「春くん春くん。この箱には何を入れるの?」
待ちきれずに、意見箱をツンツンつつく苺は興味津々というように目を光らせている。
「それは青春を謳歌する方法案だ。俺らで思いつくものには限りがあるからな。学校中の生徒に協力してもらおうってことだ」
「でもでも~、こういうのって誰にも投書されずに寂れていくのがオチじゃないかな?」
苺が言っていることはもっともだ。
確かに、このての箱は生徒から相手にされずに"錆びる"だろう。
だが…
「大丈夫だ。考えはある。じゃ、陵、説明頼むわ」
「うん。じゃ、説明するよ。まず、この上部の穴に意見の紙を入れる。そうするとセンサーが反応して、これから録る僕らのお礼の言葉が流れるんだ。これなら、女子は聖夜に、男子は林さんと戸田さんにお礼を言われたかたちになるから、きっと投書してくれると思うんだよ。」
反り返っちゃって、陵楽しそうだな。
「…私…で良いの…?」
「当たり前じゃないか。林さんも苺も春研のヒロインなんだから」
それに比べて、俺と陵は需要が限りなくゼロに近いからな。完全にハズレくじだろう。しかし、人間はハズレがあると逆に燃えるからな。そこは割りきろう。
「でも、それだと同じ人が同じ意見を何度も入れちゃわない?」
案外、苺は適切なツッコミをいれてくるな。
「だから、雄妥先生に見張りをしてもらう。先生、基本的に暇みたいだし、聖夜の声(と僕と春樹の声)を聞けるなら絶対了承してくれるよ。先生の記憶力はすごいよー怖いくらいに…」
「なるほど…あのオッサンの前なら不正も起こらないね」
全員が納得したようで、首を縦に降っている。
「説明はこれくらいで大丈夫かな。じゃ、録音するから、一人ずつこのマイクにお礼を言って」
陵が差し出すマイクに思い思いの言葉を述べていく。
「意見を書いてくれてありがとな」聖夜、ええ声やなぁ。
「意見ありがとーッ」苺も明るく元気な声でアイドルみたいだな。
「…ありがとう…ございます…」林さんはお淑やかさが出てて、癒される。
「べ、別に感謝してるわけじゃないんだからね」
はい、俺です。春樹です。すいません。でもハズレなんだから、なに言ったって良いだろ?
「じゃ、最後は僕が………そこの君、友達も誘って僕と握手」
正直、意味がわからない。ま、陵も"どうせなら"ってことなんだろうな。
「よし、昼休みも終わるし、先生に預けて戻るか」
「今日も1日終わったなぁ」
「そだね~」
ぞろぞろと帰って行くクラスメートと共に教室を出る。
「まだ終わってねぇよ。ま、確かに、今までは授業が終われば1日終わったも同然だったけどな。今日からは部活があるからな」
雑談をしながら部室のドアを開けると、すでに二人の女子部員が昼休みに設置したはずの意見箱を挟み、椅子に腰かけていた。
「何してんだ?」
「あ、来て来てー」
苺に手招きされて、近寄ると、意見箱の中には紙が十枚ほど入っていた。
「おぉ、結構入ってんじゃん」
昼休みから放課後までの間でこれだけ入っていれば上出来だろう。
「さっそく見てみよー、みんなが来るまで待ってたんだから」
そう言って苺はガサガサと箱をあさり始めた。
「最初だし、簡単なのが良いんじゃないかな」
「それじゃあ、これなんかどーう?」
苺が示した紙には"お花見"と書いてある。なるほど…花見ねぇ。
「それで良いんじゃねぇか」
「…私も…お花見…したい」
聖夜と林さんは賛同らしい。
俺も今年はしてなかったし、花見で異存はない。あとは陵だが…笑ってるな。賛成なんだろう。反対者はいないみたいだ。
「よし、春研、最初の活動は花見に決定だ!!」
「「「おぉ~」」」
一同、拳を突き上げる。みんなノリノリじゃないか。
「それで?いつやるの?もう時間無いよ?桜散っちゃうから」
「…もう…散り始めてるかも…」
そうだな、4月も下旬だし、そろそろ桜の季節も終わりか。
「ちょうど明日は土曜日だ。みんなが暇なら明日やりたいんだけど」
「俺はいいぜ」
「僕も大丈夫だよ」
「苺はいつでも暇だよー」
「…私も…大丈夫…」
意外にみんな暇なんだな。
「それじゃあ明日、10時に河川敷に集合で、あそこならまだ咲いてるだろ」
こうして俺たちは初活動をすることは決定した。