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苑夜行御伽譚  作者: いづな
幕開けの逃走劇
4/8

イカレテル。

 それから少年は崩れかけの建物と建物との間にできた人気のない狭い道に置いてあるゴミ山に、騒ぎが鎮まるまで臭くなるのを承知で身を隠すことにした。

わざわざゴミ山の中に人が要ないかと漁ったりする人はいないだろう。しかしやっぱりさすがはゴミ。生臭い刺激が鼻に襲いかかる。


さすがに隠れる場所を間違えたかな。いや、これぐらいしても大袈裟じゃないよな。


 『この世界』ではこんなことは日常茶飯事でイカれた連中が沢山いた。違法薬物を使っている奴は十人中一人以上はいると言っても過言ではなかったらしいし、そうじゃない奴らも使えそうな物を持っていたら殺す勢いで襲いかかってくる。今の日本に住んでる俺らにゃそんな事ありえねぇよな。でもこんなことがあったのは紛れもなく事実でしかない――。


 俺はゴミ山に埋もれて隠れるほどの理由はあっただろう。なぜなら銃を持った誰かは見境もなくターゲットにした人に発砲しているから。


え、なんでそんなことわかるかって?それはまだ公園にいた時に遠目からチラッとその人の顔を見たのさ。楽しそうに笑ってた。

きっと『あそこ』で貰えた景品なんだろう。とっても嬉しかったんだろうね。自分の運か実力かで手にしたそれを早速使ってみたくなったんだろう。オマケにお腹もそこでいっぱいに満たしてきたみたいで走れる体力が充分にあるみたいだし。

それに音が大きかった割にはその周辺に『動いている人』は少なかった。だから隠れなければすぐに見つかりそうで身の危険を感じた。案の定、俺が荷物をまとめて走り出してすぐに公園に銃を持ってる誰かが入って来たし。まあそうでなくても見境もなく襲い掛かってくる人なんていくらでもいるけど。


―バン、バン、バン、バン!!

「わああー、こっちに来んじゃねぇぇえええ!!!」

きっとターゲットにされたであろう男性が喚いているのが聞こえる。銃を持ってる誰かが豚が苦しそうに泣き叫んでいるような声で大笑いして言い放った。

「こんなに良い娯楽を知ってしまった俺は最高だ。俺に恐れをなしてみんな馬鹿みたいに逃げ回るなぁ!!頂点に立つお方はさぞ俺らを見て嘲笑ってるに違いねぇ。そうだ決めたぞ、俺の断りもなくお上になったクズ共を制裁してやる!そしてお前らが俺に与えたこの銃で目玉をほじくりながら撃ち殺して、そして俺は天下を取るんだ!!!ぁあっははは……!」


そんなことできるはずがないよ。たった銃一つで殺られてしまうほど軟なお上なら大勢の人間をこんな風に服も食べ物も住むところも無くせる訳がないじゃないか。それに弾の数だって限られてるんだ。無くなったらまた結局お上の運営する汚い場所に行って弾を貰うための『ゲーム』をしなくちゃいけないよ?はたしてそんな余裕が有るものか。

嗚呼、どうやら凶器を持ったこととお腹が満たされたことで高揚してるらしい。発言が正気じゃない。嘲笑ってるってところは本当だけどね。


そしてまた銃声が鳴り響いた。

「うわぁっ……!」と苦しそうな声が聞こえた。

大丈夫かな、急所を撃たれてしまっただろうか。


 俺たちこの世界に生きてる人はみんな生きてることが凄く辛い。

だけど皆が非道な真似をしてでも生きていこうとしてるのは、先の見えない日常が続いても、いつかは毎日ご飯が食べれて殺されることなく生きれる日常を期待しているからだと俺は思いたい。もしまだ生きているのならそのまま必死で逃げ続けて欲しい。

このイカれた世界にもうすぐ終止符を打たれるとこを願って…。


それから俺の意識は遠退いて知らぬ間に暗い闇に堕ちていた。






*******






―――ガシャガシャ、ばさ…。


ん?煩いな。…てか臭!!!

あまりの臭いの酷さに驚き、目を思いっきり開けた。目の前にはポカンと、魂が抜けてしまったみたいに口を半開きにしている痩せこけた白髪交じり(頭が見事なカッパだったのが印象深い。)のおじさんが立ちはだかっていた。

俺も俺で状況が分からず、多分間抜けになってる面でおじさんと同じようにフリーズしてしまった。


あ、思い出した。数秒間で頭の中を素早く整理して今の状況を把握できた。



 なんと気儘な少年は半径5メートル以上まで異臭を放つゴミ山に埋もれてあの後、今の今まで爆睡をしていたのだ。そして何か食べるものはないかとゴミ山を漁りだしたと予測される中年男性がゴミ袋を持ち上げると突然、少年が姿を現した。中年男性がそんな顔をするのも無理もないと言えよう。


後の少年曰く、いくら丸一日寝てなかったとは言えゴミの中で一夜を過ごすとは夢にも思わなかった。あのおじさんの顔が忘れられないし、もう二度とあんな臭い経験はしたくない。(…うん、その通りだよ。)


 荷物を慌てて探し当て素早くピッと立ち上がると、おじさんは「ひぃ!」と怯えたような驚いたような声をだして後ずさりした。

俺は恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら「驚かせてすいませんでした!」と勢い良く大通りに走った。自分の体が生魚が腐った並みの臭いがする。俺はいろんな意味で泣きたくなった。


 

 

――そんな思いで大通りを出ると何もない道の真ん中に大きな物体が横たわっている。なんだろう?

それをまだ光に慣れていない目でじっくり見た。ゾッとした。誰かが頭から血を流して倒れている。もしかしたら昨日の…と思ってその人の顔を恐る恐る覗いてみた。俺は息を飲んだ。


昨日の銃を持った誰かが死んでたんだ。

横には壊された拳銃がある。

 この展開は思いもしなかった事だ。この人の倒れている足の方から二、三歩の距離に直径十センチほどの血痕がる。それ以外にも銃の持った誰かの周りには小さな赤い点がぽつぽつとある。それらを結んで行くと銃を持った誰かの頭のずっと奥まで伸び続けていた。真っ直ぐと伸びる血痕の途中、渇いた血の着いたパイプが地面に転がっている。


容易に想像がついた。多分ターゲットに止めを指そうとしたけど気付いたらもう弾は一つも無くて焦っているところを、ターゲットの人がそこらに落ちていたパイプで正面から頭を打ったんだ。


俺は何とも言えない気持ちで両手を合わせた。






――――辺りはもうすっかり明るくて人は見当たらないし声もしない。

(堕落苑の人々は夜行性だったんだと。)


俺はアオヤギ第二公園に戻って早速蛇口をひねり、頭から思いっきり水をかぶった。体が凍てついてしまうほど冷たかったけど一秒でも早くこの身にまとわりつく強烈な異臭をどうにかして取りたかった。

 

 少年は両手を合わせた後、仏様になってしまったあの人を道の端っこまで引きずって、『俺の数少ない所有物』である継ぎはぎの大きな紙をそっと被せた。

こんなことが日常的に起きている状況であるこの世界。この目にじっくり焼きつけた。


 タオルを濡らして体を拭いた。まだ臭いは残っているけどさっきみたいに耐えられない程ではなくなった。これぐらいの臭いなら他の人と大差ないよな。うん、きっと大丈夫。でも…。


体は良くても着ている物が臭いまま。洗おうかな。でもこれまで洗うと乾く前に半裸で凍え死んでしまう。今は真冬なのだ。うん、やっぱ止めよう。このぐらいの臭いならほかの人と大差ない、それに慣れる。というか慣れるように努力する。

実はもう一つ着替えがあるのだが…。けど、そのまま今着ているものを着続けることにした。


少し迷ってしまったけど、これだけは本当に着てはいけないモノ。ちゃんとした理由があるのだ。これを着る時は着ている服が服となさなくなった時。あるいは俺の『大嫌いな場所』に出向かなくてはならなくなってしまった時。要は最終手段の服なのだ。


これを街外れで着ると言うことは命に関わるほど重大な意味を持つ。



…はぁ、やっぱりゴミ山なんかに入るんじゃなかったな。

お腹も空いてきたし。でもなぁ……。

俺は自分の鞄を開けて紙に包まれたハンバーガーを見つめる。毎日食べれる人なんてほとんどいないけど、俺は一日一回のペースで食べている。普通街外れで生きている人達は平均で3日に一遍のペースで食べている。けど俺は要らなくなった食べ物たちが一気に流れ出るところを知っているから毎日食べ物を確保することが出来るのだ。だから食べ物に困ったことはあまりない。そんな場所を知っている俺は贅沢だ。

それに比べてほとんどの人はゴミを漁って食べかけの物を嬉しそうに食べるんだ。見てると辛くなって新鮮な食べ物のある場所を教えたくなるんだけど、そこに行った人たちが殺され兼ねないし俺の手から渡してしまうのもいろいろと問題が生じてしまう。皆のために何も出来ないのが歯がゆくて堪らない。


かといって自分もそこまで質の落ちた生活は出来ない。ごめんなさい、自分勝手だとは思うけど。


 俺は自分の事を特別とは思いたくないけど、この世界では稀に贅沢な生活をしてきた人間だ。だから現に今、俺はこの臭くなってしまった鞄の中にじっと丸くなっていたハンバーガーを食べるか戸惑っている。何気にハンバーガーは異臭を放っている。お腹は確かに空いているのだが臭いのせいでとても食欲が失せてしまいそうになっている。

でも目の前に食べ物があるのに食べないのは皆に失礼な気がするし、俺自身食べないのはきつい。うん、そうだ食べよう。大体ハンバーガーよりも俺の方が何倍も臭いし汚い。そう、包んでいる紙が臭いんであって中身は凄いキレイなままなんだ。俺みたいに汚くない!イケる。


ハンバーガーとにらめっこをしていた後半、ハンバーガーと自分のどっちが汚いかと天秤にかけ、自虐的になった発言を内心で吐き出した。お陰で何だかハンバーガーがとてもおいしそうに思えた。そして食べる決心がやっとついてそして大きく口を開いてかじりつこうとした瞬間、


「ま、誠?」


俺の心臓が大きく跳ねた。今、後ろから俺の名前を呼んだ?

血の気が引いた。途端、ハンバーガーを口にすることを忘れ、ゆっくりと後ろをむく。




「か、んた………」


――気儘な少年、基誠は元同僚の寛太郎と再開した。




これが誠の最大の分岐点となる。

2日ぶりの投稿です。


やっと名前が出てきました、主人公の誠くん。君がこの作品で初めて本名で呼ばれた人。(あと寛太郎がチラリ。)


そして主人公がゴミ山に埋もれて語りだしたり挙げ句の果てには爆睡しましたwww


サブタイトル…ホントは気儘な少年ゴミ山に埋まるがいい。


記念すべき誠が今すぐ葬ってしまいたい出来事その一!!!

ゴミ山に埋める予定無かったんだけどなぁ………。

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