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苑夜行御伽譚  作者: いづな
序章
2/8

少年は出逢う。


― 昔々、あるところにそれはそれは貧しいくて食い繋いでいくのに精一杯な人々が住む村がありました。


 オレたちはいつまでこんな先の見えない生活をせねばならないのか――。

人々はそんな思いを胸にかかえ、暗い顔で毎日酷でお金にならない仕事をしてきました。



 そんなある日、一人で空中散歩をしていた神様が、偶然にもその村を見かけました。


「お、なんだれは。」


神様は驚きました。村人たちの頬は痩せこけ、まるで布切れのような服を着ていたからです。


おかしいと思った神様は人間に化けて地上に降り立ち、一人の村人に聞きました。


「どうしてここの人たちはそんな粗末な格好をしているんだい。」


すると村人は言いました。


「戦で負けたのさ。何の前触れもなく黒ずくめの集団がこの村に襲って来て、あっという間に焼け野原さ。そのあと国はまた襲われることのないようにと、この村を大きな柵で囲っただけ。他には何もしてはくれなかったよ。」


 そんな話を聞いて神様は悲しくなりました。


 なので神様は村人たちを集めて言いました。

「皆で宴をしようではないか。そして欲しいものをくれてやろう。村の真ん中に建てた大きな屋敷で待っているぞ。」と。


それを聞いた村人たちはこぞってその大きな屋敷にやってきました。


そしてその夜、宴を楽しみ村人たちは欲しかったモノを手土産に上機嫌で帰っていったそうです。


神様もそれはそれは楽しかったのでしょう。夜になってはまた宴を開き、村人たちに毎回毎回欲しいモノを与えてやりました。


やがて村人たちは痩せこけた体に肉付き、着ている服も色あざやかになりました。


 いつしか神様はその村からいなくなってしまいましたが、神様がまた来てくださって欲しいものをくれるのではないかと夜な夜な人々は宴をしたその大きな屋敷に集まるそうです。



めでたし、めでたし。







―――「はい、おしまい。」


パチパチパチパチ、と子供たちは拍手をくれた。


「ねぇねぇ、神様はどこ行っちゃったのかなぁ。」

「ぼくライトレンジャーのロケットソードが欲しい!神様宴してくれないかなぁー。」

「ぼくも欲しい!!!」

「宴って何?」

「その村どこにあるんだろう。」


「ははははは。」


小さい子って質問しているのか独り言なのかいまいち分からない時がある。子供たちの会話のようなものについていけなくなっていると、「さくら組のみなさん、そろそろ帰りますよー。」と声がしたので、その声の主を探すと、どうやらエプロンにさくらを型どったバッチをつけた幼稚園の先生が子供たちに呼びかけていたらしい。

皆幼稚園から来てたのか。道理で制服の子が多いわけだ。


「えー、まだお兄ちゃんに絵本読んでもらいたい。」

「また今度来るからね。ほら、絵本のお兄ちゃんにありがとう言って。」


「お兄ちゃんありがとうございました!!」


そのあとすぐに園児たちは帰る支度を始めた。

俺は半年やってきたので読み聞かせをするのにはだいぶ慣れたけど、子供たちとお話をするのはまだ慣れない。

そう思うと幼稚園の先生ってすごいなと感心しながら園児たちを見送った。


 最近、近所のおばさんに聞いた話だけど『絵本のお兄ちゃん』は園児や小学生の子供を持つお母さんたちの間でちょっとだけ有名な人になっているらしい。


自分としては少しばかり恥ずかしい。


そんなことを思い出しながら『宴夜行おとぎ話』を本棚にしまうと、


「絵本のお兄ちゃん。」

後ろから爽やかな男性の声がした。

は?と思って後ろを向くと真後ろに大学生ぐらいの男性が立っていた。

ビックリした俺はうわっ、と少し声を上げてしまった。


 「ああ、ごめん。ビックリさせちゃったね。」と大学生らしき人は笑いながら謝るような素振りをみせた。

「い、いえ。あの何か?」

俺は呼ばれた意図が分からなかったので先を促してみた。


「いやぁ、君のこと図書館でよく見かけるし子供に好かれてるなーと思って興味がわいたらかちょっと話かけてみただけ。」


「はぁ、そうですか。」


「はは、急に話かけられたから困っちゃった?」

だよね、と何が楽しいのか分からないけれどニコニコしながら再び喋りだした。


 「君は本は好き?」………突然何を言い出すのだろう。やはり話が全く見えない。でも、一応返事はした。


「(髪を茶髪に染めてピアスをガンガン着けていて本に縁が全くなさそうなあなたよりは少なからず)好きですよ。ほぼ毎日図書館に足を運んでいるような人間ですもん。」


俺はただ本が好きですと言えばいいだけなのに見た目がこんな人にそんなことが聞かれたのが癪で偏見だなと思いながらも『好きです。』の後に無駄な言葉まで付け加えてしまった。


「そっか、俺も本が大好きだ。文学部にも所属しているしな。お互い本の虫かもね、俺って見かけによらずだろ?」


心の内を読まれた気がした。まあ実際のところは感情を表に出す俺のことだからおもいっきり顔に出ていたんだろうけど。

そしてまたこの人は喋り続ける。


 「はたまた俺はその本に秘められた背景や歴史を知ることも好きだ。君がさっきまで子供たちに読み聞かせていたその絵本にだって国に抹消され続けている黒い歴史があるんだよ。」大学生(やっぱりそうだったらしい)は意味ありげにさっきとはまた違う笑みを浮かべてみせた。


――どうやら宴夜行おとぎ話の黒い歴史というのをこの人曰く本の虫である俺にとても聞いてもらいたいようだ。『どんな歴史があったんですか。』って聞いてくれと目が訴えかけている。


確かに物語の背景を見て読むのと読まないではその本の印象はだいぶ違ってくる。宴夜行おとぎ話にたいして面白みもないと感じている俺だが、その背景にどんな黒い歴史が、なぜそこに国というワードが出てきたのか、興味が湧かないでもない。


俺はその大学生の『言いたげな話』しに付き合ってみることにした。


 「宴夜行おとぎ話に隠された黒い歴史って何ですか。」


大学生はとても満足げな顔になり、

少年とテーブル越しに向かい合って話を始めた。


宴夜行おとぎ話の基になった秩序も金もありゃしない街、『堕落苑』の話を―――――。



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