少年は語る
「絵本のお兄ちゃん!」
あ、俺だ。と思ってかわいい声のする方へ体を向けると、幼稚園の制服を着た女の子が駆け寄ってきて俺の足に抱き付いてきた。
「お兄ちゃん、絵本読んで!」
ふわっとした笑顔で女の子は言った。
「うん、いいよ。」
俺もその笑顔につられてにこっ、と笑って返事をした。
「やった!お兄ちゃんが絵本読んでくれるって!!」
そこらへんにバラバラになって本を読んでいた子供たちがパッと顔を上げてわーい、と言いならがら集まってきた。
俺は今、図書館にいる。
ほぼ毎日来ているおかげで図書館に務めている人たちのほとんどは顔馴染みだ。
半年ぐらい前に四才になるいとこに絵本を読んであげたら、そこにいた周りの子供たちに「これも読んで。」と頼まれて以来、絵本を読んでくれるお兄ちゃんと認識されたらしく、今では絵本のお兄ちゃんとして時々読み聞かせをしている。
今日は何の本を読んであげようかと本棚を見るとパッとある本が目に入った。
――宴夜行おとぎ話。
そんなに面白くはなかったけど何度も読み聞かされていた記憶がある。
まだ一度も読ませたことがないからこれにするか。
その本を本棚からすり取った。
「じゃあ今日は夜行おとぎ話を読もっか。」
「はーい!」
子供たちは元気良く返事をして俺を囲って前のめりになりながら絵本を見つめ始めた。
「むかぁしむかし―――、」