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言葉の彼方へ  作者: 美憂
9/10

自覚する ~修也~

・・・いっせんをひく?


いきなり瑞穂に言われた言葉が理解できへんかった。

というか。

頭の中で変換できなかった、というほうが正しい。


「そうやって修也は人にバリアを張ってるんやな」


きつい言い方をしてるようでいて、瑞穂の表情は悲しげに見えた。


「・・・バリア?」

「うん。いつも何か修也にはバリアを感じてたような気がする、あたし」


ああ。まただ。


俺は思う。女の子にそんな風に言われるのは初めてやない。

何度か言われた事がある。


35年間誰とも付き合ったことがないわけやない。

・・・俺だって男やから。

いいなって思うこともあるし、一緒におりたいって思うこともある。


なんだっけ、同じような事を言われた覚えがある。


「・・・何に怖がってるん?」


きっといつもの瑞穂だったら言わなかったのだろう。

今日はアルコールが入ってるから、だから言える事。


それだからこそ、多分本当に言いたかったこと。


「怖がってるんかな、俺」

「そう見える。修也は何か怖がってるような気がする」


瑞穂はきっと、『文章を操るもの』としての感覚で俺が気付いてない俺を知らせようとしてる。

それは『数字を操る俺』にはわかり辛い物かもしれない。


「さっき結婚とか考えてないっていったやん?」


生中をもう1杯頼んで、瑞穂は本気で飲むモードになり。


「考えたことがない」

「今まで一回も?」

「ないなぁ」


はぁ。瑞穂はため息をつくとやってきたビールに口をつけた。


「修也はなくても相手の人はあったかも知れんやん」


「・・・あったんかもな」

無意識にそう答えて、自分が過去にそんな相手がいた事を認めたのだと気付く。


瑞穂は傾けたジョッキを一旦止めたが、そのまま俺に目をあわさずに煽った。

そしてテーブルにガタンとそれを置くと。


「そうか」

何かに納得したように瑞穂はうなずき、そして。

俺が一番聞きたくない言葉を放った。


「修也解ってて知らない振りしたんやろ?」


俺を見る瑞穂の目の縁が赤い。

酔っている・・・だけど、何かそれだけじゃないような気がした。


ああ。

こういう時に人は酒を飲みたくなるのかもな、と初めて俺は思った。


自分で気付きたくなかった、自分に隠していたことを突きつけられた時に。

逃げるように飲んでしまいたくなるのかもしれへん。


・・・親父もそうやったんか?

今は全く関係ないのにそんな思いが浮かぶ。


でも、今俺の前にはアルコールはなくて。

ウーロン茶煽るだけじゃ、逃げようもあらへん。


逃げようもない。

何から?どこへ逃げようとしてんねん、俺は。


「・・・ごめん余計なこと言うたわ」


黙ってしまった俺をどう受け取ったのか、瑞穂が低い声で搾り出すように言った。


「・・・別に謝らんでも」


俺はそう返すのが精一杯で。


「ごめん。こんな風にずかずか踏み込むから、酔っ払いは嫌やよなぁ。修也がお酒飲むの嫌がるのも無理ないわぁ」


そんな俺に瑞穂は明るく笑いながら言う。

俺でもわかるような・・・ちっとも笑ってない声で。


「いや、そういう事じゃないねん」

「あたしに関係ない事やのに、なに熱くなってんねんやろ。あほやなぁほんまに」


だから、そうやって笑わんとってくれ。

関係ないとか、言わんとってくれ。


「いや、そうじゃなくて」

「やっぱり止めといたら良かったな、ウーロン茶にすれば良かった」

「瑞穂」

「お水たのもっかなぁ。あかんあかん女の酔っ払いなんて最低やわぁ」

「違うって」


店員を呼ぶブザーを押そうと伸ばした瑞穂の左手を、俺の右手が掴む。

驚いたように俺を見上げた瑞穂が小さく呟いた。


「・・・ほんまは解ってたんやろ?」


そう言った瑞穂の目に浮かんでたのは。

「酔い」じゃなくて「涙」だった。


「修也、あたしの気持ちも解ってて気付かん振りしてたんやろ?」


そこまで言うと、どんどん浮かぶ涙の玉が大きくなった。

そして、右目の涙が瑞穂の頬に流れ落ちた。追いかけるように左の頬にも。


・・・そうや、解ってた。


瑞穂の気持ちもちゃんと解ってたのに、気づかない振りをしていた。

今までと同じように。


それだけやない。


俺は。

ほんまは自分の気持ちも解ってたのに、気付いてない振りをしてたんや。


気付いたら一緒に居たくなるから。

気付いてない振りしたって、一緒にいるのが心地いいと思ってしまったのに。


ずっと一緒に居れたらなんて思ってしまうのに。


それを解ってしまうのに躊躇したんや。


・・・ずっとなんて、永遠なんて無いから。




























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