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言葉の彼方へ  作者: 美憂
5/10

動き出す ~修也~

風呂から上がると、携帯がテーブルの上で青く光りながら震えていた。


11時。


こんな時間にかけてくるのは、かーさんかねーちゃんぐらいのもんやけど。

ディスプレイに並ぶ番号は、全く見覚えのないものやった。


「・・・はい」

「夜分恐れ入りますが、吉岡修也さんでしょうか?」


タオルで髪を拭きながら出た電話の相手は、聞き覚えのない男の声やった。


「はい。そうですけど」

「・・・吉岡ぁ?俺、わかる?」


・・・なんや馴れ馴れしいやっちゃな。


「って、わかる訳ないか。俺、安川。高校で一緒やった安川浩二」


・・・やすかわ・・・こうじ。


「・・・って安川っ?!」


俺がそう言うと、電話の相手は安心したように笑った。


「覚えとってくれたか?ごめんやで急に電話して。」

「いや、それはええねんけど・・・。どないしたん?何でこの番号わかった?」


安川浩二は高校3年間一緒のクラスやった、まあいわば親友、だった奴。

卒業以来連絡もせぇへんのを親友と呼んでええかは悩む所やけど。


「さっき吉岡のご実家に電話させてもろてん。お母さんいてはって教えてくれはった。吉岡今一人暮らしなんやってな。今電話大丈夫やったか?」


そう気遣う安川の声を聞きながら、俺はひょろりと背の高い丸顔の安川を思い出す。

勿論服装は詰襟のままだ。


「大丈夫やで。んで、どないしたん急に。」

「16、7年ぶりか?あのな、吉岡のとこに同窓会の案内・・・届いてる?」


・・・同窓会。


その単語を聞いて、とっさにPCデスクを振り返る。


「・・・届いてる」


届いてるわ・・・確かに。

ただ届いたその日から放置してるけども。


そしてその葉書に幹事として『安川浩二』の名前があったことも、今俺は思い出した。


「ごめん。返事返してへんかったな」

「いや、ええねんで?ただ場所の予約もあるから、連絡つくようなら聞こうおもてこんな時間やけど電話させてもろただけやねん」


10数年ぶりの・・・正確に言うと17年ぶりの安川の声は、のんびりとしていて高校生だった頃のそれとなんら変わらなくて。


俺をあの頃の俺達に戻そうとする。


「で、どない?参加できそうか?」

「そやなぁ・・・」


俺は裸のままソファーに座り、少し考えた。


行けなくはない日にちである事は確認済みや。

でも、行って学生の頃の思い出に対面して・・・それで?


そんな思いが渦巻きかけていた。


「・・・吉岡?都合悪いんか?」

「そうやないけど」


携帯の奥で安川がふっと笑った。


「都合悪ないんやったら、出て来いや。久しぶりやん」


ああ。いつもこいつはそうやったっけ。

俺が一線引こうとすると、するりとそれをすり抜けてこっちへやって来るんや。


昔の連れってすごいな。一瞬であの頃に戻るんやな。


「ほんなら、一回2人で会おうや」


昔の感慨にふけってる俺に、安川はあっさりとそう言った。


「2人で?」

「おう。今週末あけとってくれや。昔話に花でも咲かそうぜ」

「・・・お、おう」


そこまで言われて、断る理由はなかった。

俺が昔の思い出とやらに浸りだしてる間に、金曜日17年分年を取った安川と俺は再会を果たす約束になっていた。


「吉岡人見知りやからな、とりあえず俺と会ってリハビリしろや」


などという有難い(?)言葉と共に安川の電話は切れた。




「・・・高校の同窓会?」


その週の木曜日。

「明日晩御飯でも行かへん?」と電話をしてきた瑞穂に、俺は安川と再会する事を話した。


3月の終わりの週。確定申告も落ち着いただろうと見計らっての、瑞穂らしいタイミングの電話やった。


「そうやねん。幹事やる連れと同窓会の前に一回あおかっていう事になってな」

「そかそか。久しぶりの再会なんかな?」


瑞穂の声は(少しがっかり・・・でもそれは出さないように)って感じの声で。

・・・バレバレやけどな。


そう思って俺はまた少し笑った。


「17年ぶりかなぁ。高校出てから会ってないからなぁ」


そう言いながら、またもや俺は(それは連れとは言わんやろ)と自分で突っ込む。


「だから明日はあかんねん。ごめんやで」

「あ。ええねん、ええねん。時間あるんやったどうかなぁって思っただけやし?」


・・・残念やわ。瑞穂の声はそう言っていた。

俺すごく思い上がってるみたいやな。自分でもそう思うけど。


俺がそう思ってて欲しいと思ってるのも知れへんな。

・・・だから。


「瑞穂がいいんやったら明後日晩飯いこか?」


・・・思えば。俺から誘うのは始めてかもな。


瑞穂が息を呑むのが携帯を通して感じられた。


「ええのっ?!」

「瑞穂がええんやったら」


俺はまた珈琲を含みながら笑う。


「うんっ。大丈夫。じゃあ土曜日に」

「場所はこの間のサテンでええか?」

「りょ、了解っ。時間は?」

「・・・じゃあ、5時、かな」


そして俺はまた、笑っている。

・・・瑞穂の弾むような声を聞きながら。


























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