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言葉の彼方へ  作者: 美憂
3/10

嗤う ~修也~

ああ。俺、笑えてたやん。


瑞穂と別れて家に帰る電車の中で。

俺はそのことに気付いて自分で少し驚いた。


笑おうとしてるんやない。笑えるんやな。

瑞穂といると笑える時があるねん。


・・・いつもは笑おうとしてるんやけど。


瑞穂とは喫茶店で他愛ない話を2時間ほどして、少し早めに飯食って別れた。

2時間も何話すんやって感じやけど、最近こういう事が多い。


いつも瑞穂とはただ何となく話をしてるだけ。


それでも瑞穂は嬉しそうやからいいんやと思う。

それになんか・・・俺も楽しいねんな。


楽しなかったら確定申告を来月に控えたこの時期に、貴重な休みの数時間を使ったりはせえへん。


瑞穂といるのは楽だ・・・と思う。


瑞穂は俺が担当している会社の経理課のOLやった。

もう5年ぐらい前になるかな。瑞穂が毎月帳簿を届けにきてくれてたのが始まり。


毎月会うから何となく話すようになってんな。

他の女の子みたいに気を使わんでええのが楽やった。


それでも個人的に会うようになったのは瑞穂がフリーになってからかな。


相談したい事があるので・・・って事務所に電話貰ったときは正直驚いた。

だって、普通のOLの子がライターになるって・・・びっくりするやん。

それも本出すから、税金がどうなるのか教えてほしいとかって言うし。


あ。瑞穂の本は貰ったけど表紙からして女の子向けやったから読んでない。

・・・瑞穂には内緒やけどな。


「ただいま~っと。」

誰もおらん部屋やのについ言ってしまうのは、いつもの癖だ。


俺はジャケットを脱ぐとベッドに投げて、冷蔵庫を開けるとペットボトルのブラック珈琲を取り出し、グラスに入れた。


一日にとんでもない量の珈琲を飲んでるけど、他に飲むものがないから仕方ない。

まだ今日は休みだからいいほうや。下手すると打ち合わせやなんかで一日に十杯位飲む事もある。


グラスを片手にベッドの前に座り込むとテーブルの上で携帯が二回ブルった。


・・・メール着信。瑞穂や。


『今日は貴重な休日に有難う。助かりました。おやすみ。』


こういう所さすがに元OLやなって思うわ。気遣いって言うん?

俺も返信を返す。


『明日からしばらく休みなしやわ~。』

『ほんまに?ごめん。休みゆっくりできへんかったね。』

『気にせんとって。大した事してへんし。』

『ほんまに有難う。忙しくても体に気をつけて頑張ってね。風邪引かんよ~に。』


・・・最後の言葉にちょっと心があったかい感じがした。


『ありがとう。そっちもな。』


メールは三往復。そしてなくなる返信。

切り上げ時がいかにも瑞穂らしいって俺は思った。


・・・そして俺は今も「笑えて」るんや。

こんなやり取りで自然に笑みが浮かぶから不思議や。


TVをつけて見たかった訳でもない映画を流す。

何年か前に流行った恋愛映画がただ流れてた。


・・・瑞穂は俺が好きなんやろな。

珈琲を口に含みながらふと俺は思った。


あ。なんか俺すげ~うぬぼれてる奴みたいやけど。


でも、好いてくれてんのやろなとは思う。


いつも誘いがあるのは瑞穂から。

俺の負担にならんように探るような誘いをかけてくる。

会えば、嬉しそうに笑う。


いつから瑞穂がそうなったのかは解らない。


でも多分これは俺の思いあがりなんかやなくて。


瑞穂は俺を好きなんやろう。

俺からしたら、俺みたいなんのどこが・・・って思うけど。


俺やったら俺みたいな奴、嫌やけどな。


・・・そう思って俺はちょっと自虐的に笑う。


だって俺はずるい。

瑞穂の気持ちに答えるかどうかなんてことも考えんと、瑞穂に会うんや。


俺は・・・どうなんやろ。

嫌いやない。それは確かや。


嫌いやったら会ったりせえへん。


でも好きかなんてことはわからへん。考えへん。

でもその時間が心地ええから、誘われれば会う。


・・・きっと瑞穂も本当の俺を知ったら、好いてなんかくれへんやろな。


俺の中で、もう一人の誰かがそう言うてる。


いつか無くなってしまう「好き」なんて気持ちなら。

初めっから確かめへん方がええねん。


初めっから俺が瑞穂を好きなんかどうかなんて考えん方がええねん。



「ずるいな。俺。」


・・・俺の中の誰かが俺を嘲笑った。





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