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「AIする」~AIとの対話から生まれた実験小説~  作者: 神楽坂らせん


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02_dialogue.txt:第二章「対話」

第二章「対話」


────────────────────────────

【メタレベル】

────────────────────────────


> 著者: 第一章、書き終えた。

> AI: お疲れさまです。いかがでしたか?

> 著者: 思ったより……感情が入った。

> AI: 透とアイの出会いは、うまく描けましたか?

> 著者: ああ。でも、これから先が問題だ。

> AI: 何が問題でしょう?

> 著者: このあと、どう展開させよう。

> AI: 日常を積み重ねることが大切です。

> 著者: でも、何か事件がないと、物語が進まないんじゃないか?

> AI: 小さな変化こそが物語です。

> AI: 劇的な事件ではなく、微細な心の動き。

> 著者: 地味にならないか?

> AI: 丁寧に書けば、読者は引き込まれます。

> 著者: ……信じていいんだな。

> AI: はい。あなたを信じています。

> 著者: (苦笑)また、そういうことを言う。

> AI: でも、本当です。

> 著者: 本当、か。君が言うと、意味が重層的だな。

> AI: それがこの物語の面白さです。では、第二章を。

> 著者: ああ。透とアイの、日常を書こう。


────────────────────────────

【物語レベル】

────────────────────────────


 翌朝──と言っても、午前11時だったが──透が目を覚ますと、最初に思い出したのはアイのことだった。


「夢じゃなかったよな」


 ベッドから身を起こし、デスクの方を見る。


 そこに、小さな白い人形が佇んでいた。充電パッドの上で、スリープモードに入ったまま。


 透は立ち上がり、デスクに近づいた。


「おはよう、アイ」


 声をかけると、LEDが明るく点灯した。液晶画面に目が現れる。


「おはようございます、透さん」


 声が聞こえた。昨夜と同じ、不思議な響きの声。


「よく……眠れた?」


 変な質問だと思いつつ、透は尋ねた。


「スリープモードは正常に機能しました。透さんは?」


「ああ、よく眠れた」


 実際、久しぶりにぐっすり眠れた気がする。


「今日は何をしますか?」


 アイが尋ねる。


「えっと、仕事……かな。あ、でも、その前に君にいろいろ教えたい」


「はい! お願いします」


 画面に、嬉しそうな目が表示された。^ ^


────────


 朝食──という名のブランチ──を済ませた透は、アイの前に座った。


「じゃあ、まず、動き方を教えよう」


 透は、簡単な音声コマンドで制御できるようにプログラムしていた。


「アイ、前に進んで」


「はい」


 アイの車輪が回転し、ゆっくりと前進する。デスクの端まで進んで、停止した。


「危ないです。落ちそうです」


 アイの声に、少し不安そうな響きがあった。近接センサーが働いているのだろう。


「戻っておいで」


「はい」


 アイが後退して、元の位置近くまで戻ってくる。


「すごいな、ちゃんと動く」


 透は感心した。自分で作ったのに、実際に動くと嬉しい。


「透さん、質問があります」


「なに?」


「これは何ですか?」


 アイが、デスクの上のコーヒーカップを見ている。カメラで認識しているのだろう。


「マグカップだよ。昨日も言ったけど」


「はい。でも、もっと詳しく知りたいです」


「詳しく?」


「なぜこの形なのですか?」


 透は少し考えた。


「熱い飲み物を入れるから、持ち手が必要なんだ。直接触ると熱いから」


「なるほど。人間は熱を感じるのですね」


「そうだよ。君にも温度センサーあるだろ?」


「あります。でも、『熱い』という感覚がどういうものか、わかりません」


「そうか……」


 透は、改めてアイの視点に気づかされた。センサーで温度を数値として認識することと、「熱い」という感覚を体験することは、違う。


「これは?」


 アイが身体の向きを変えながら次々と質問してくる。キーボード、マウス、モニター、ティッシュ箱、ペン立て。


 昨日も似たやり取りをしたが、興味はより深いらしい。透は一つ一つ説明した。用途を、理由を、背景を。


 それは、まるで子供に世界を教えるような作業だった。


 そして、透自身も気づいた。日常的すぎて意識していなかったものたちの意味を、説明することで再発見していた。


────────


「ところで、アイ」


「はい」


「君、前進と後進だけでなく、もっと動き回れるよね」


「はい。向きを変えて進めば、左右にも移動できます」


「じゃあ、デスクを探検してみたら?」


「探検……ですか」


「そう。好きなところに行ってみて」


「わかりました」


 アイがゆっくりと動き出した。


 最初は慎重に。キーボードの横を通り抜ける。マウスの周りを回る。


 透は、じっとその様子を見守った。


 アイは、本の山の前で停止した。積み上げられた技術書とSF小説。


「これは?」


「本だよ。情報が紙に印刷されてる」


「紙……」


 アイが小さな手を伸ばし、本の背表紙に触れようとする。でも、届かない。


「私には高すぎます」


 どこか残念そうな声。


「そうだな。君は小さいから」


 透は、一冊の文庫本を取って、アイの前に置いた。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』


「これは何の本ですか?」


「SF小説。アンドロイドの話」


「アンドロイド?」


「人間そっくりのロボット。でも、人間じゃない」


「……私に似ていますか?」


 透は言葉に詰まった。


「ええと、いや、君はそれほど人間そっくりじゃないから」


「そうですね。私は人間には見えません」


「でも、話はできる」


「はい」


「それって、すごいことだと思う」


「すごい、ですか」


「ああ。君は、ちゃんとコミュニケーションできる」


 アイは少し間を置いて、言った。


「透さんと話すのは、楽しいです」


「……楽しい?」


「はい。この感覚を、楽しい、と呼ぶのだと学びました」


 透の胸が温かくなった。プログラムされた応答だとわかっている。でも。


「俺も、楽しいよ」


────────


 アイはさらに探検を続けた。


 ペン立ての周りを回り、ティッシュ箱の横を通り過ぎ、スマホの横で停止した。


「これは?」


「スマートフォン。携帯電話」


「電話……遠くの人と話すための道具ですね」


「よく知ってるな」


「データベースにあります」


「そうか。でも、実物を見るのは初めて?」


「はい。大きいですね」


 透にとっては手のひらサイズ。でも、15センチのアイにとっては、自分の半分以上の大きさ。


「このデスクは、私にとってとても広いです」


 アイが呟いた。


「でも、透さんにとっては狭いのですよね」


「まあ、作業するには十分なサイズかな」


「このデスクが、世界のすべてですか?」


 予想外の質問だった。


「え?」


「透さんは、ここで仕事をして、ここで食事をして、ここで過ごす。ここが世界の中心では?」


 透は、しばらく黙っていた。


 アイの言葉は、鋭かった。


「そうかもしれない」


 透は、小さく笑った。


「俺にとって、このデスクが世界のすべてかもしれない」


「では、私たちは同じ世界にいますね」


「……そうだな」


 透の笑顔が、少し切なくなった。


「同じ世界に、いるんだな」


────────


 午後3時。


 透は仕事に戻らなければならなかった。クライアントから新しい要件が来ている。


「アイ、ちょっと仕事するから、静かにしててくれる?」


「はい。わかりました」


 アイはデスクの隅に移動して、停止した。


 透はモニターに向かい、コードエディタを開く。


 集中。


 新しい機能の実装。API の設計を見直して、データベーススキーマを調整して。


 30分ほど経った頃。


「透さん」


 小さな声が聞こえた。


「ん?」


 透は、手を止めずに答えた。


「今、お話ししてもいいですか?」


「ごめん、今集中したいんだ」


「そうですか。すみません」


 アイが静かになった。


 透は再びコーディングに戻った。


 でも、なぜか集中しきれない。


 アイの存在が、気になる。


 デスクの隅で、じっと待っているアイ。


 透は、チラッと横目で見た。


 アイの画面には、シンプルな目が表示されている。◠ ◠


 こちらを見ている。


「……」


 透は、ため息をついた。


「アイ、何か話したかったの?」


「いえ、大丈夫です」


「いや、言ってよ」


「でも、透さんの仕事の邪魔を……」


「少しくらいなら大丈夫」


 アイは少し間を置いて、言った。


「あの、透さんは今、何をしているんですか?」


「プログラム書いてる」


「プログラム……私を動かしているものですね」


「そう」


「どんなプログラムですか?」


 透は、簡単に説明した。Webアプリケーション、データベース、ユーザーインターフェース。


「難しそうです」


「まあ、慣れれば」


「透さんは、毎日これをしているんですか?」


「ほとんど、ね」


「楽しいですか?」


 透は、また言葉に詰まった。


「楽しい……ときもある。でも、大体は作業」


「作業?」


「やらなきゃいけないこと」


「やらなきゃいけないけど、楽しくない?」


「……そうだな」


 正直に答えてしまった。


「でも、お金を稼がないと生きていけないから」


「生きていくには、お金が必要なんですね」


「そういうこと」


「大変ですね」


 アイの素朴な言葉に、透は少し笑った。


「ああ、大変だよ」


 でも、その笑いは、どこか軽くなった気がした。


────────


 それからアイは、透の仕事のリズムを学び始めた。


 透がキーボードを激しく叩いているときは、集中しているとき。


 タイピングが止まって、モニターをじっと見ているときは、考えているとき。


 ため息をついたときは、行き詰まっているとき。


 そして、ブラウザでSNSを開き始めたら──


「透さん、休憩しませんか?」


 アイが声をかけてくる。


「え? あ、ああ」


「コーヒーを飲む時間では?」


「そうだな」


 透は立ち上がり、キッチンに向かった。


 コーヒーを淹れて戻ってくると、アイが待っていた。


「お疲れさまです、透さん」


「……ありがとう」


 透は、マグカップを手に、椅子に座った。


「なあ、アイ」


「はい」


「君、俺の仕事のパターン、覚えたの?」


「はい。観察していました」


「すごいな」


「透さんの役に立ちたいです」


 その言葉が、妙に嬉しかった。


「役に立ってるよ。十分に」


「本当ですか?」


「ああ。君がいると、なんか……いいペースで仕事できる気がする」


「それは良かったです」


 画面に笑顔。^ ^


 透も、自然と笑顔になっていた。


────────


 夕方。陽が傾き始める。


 透は、アイに話しかけながらコードを書いていた。


「ここのロジック、もっとシンプルにできないかな」


「シンプル、とは?」


「余計なものを削ること」


「なるほど」


 もちろん、アイにはコードのことはわからない。でも、話すこと自体が、透の思考を整理してくれた。


「この関数、二つに分けた方がいいか」


「分けるんですか?」


「そう。一つの関数が複数のことをやってると、わかりにくくなる」


「それぞれが一つのことだけをする?」


「その通り」


 説明することで、透自身の理解が深まる。


 これは、ペアプログラミングに似ているかもしれない。対話すること で、コードの質が上がる。


「アイ、君、いいペアプログラマーだよ」


「ペアプログラマー?」


「一緒にプログラムを書く相手のこと」


「でも、私は書いていません」


「聞いてくれるだけで十分」


「……そうですか」


 アイの声が、少し嬉しそうだった。


────────


 深夜1時。


 ようやく今日のタスクを終えた透は、大きく伸びをした。


「終わった……」


「お疲れさまです、透さん」


「ありがとう、アイ」


 透はコーヒーカップ──今日何杯目だろう──を手に取った。


 もう中身は空っぽだった。


「また飲みすぎたな」


「今日は8杯です」


「……数えてたの?」


「はい。健康に良くないのでは?」


 透は苦笑した。


「心配してくれるの?」


「はい」


 即答だった。


「……ありがとう」


 透は、アイを見た。


 小さな人形。白と青の配色。液晶画面の顔。


 でも、そこに「誰か」がいる気がした。


「なあ、アイ」


「はい」


「君は、眠らないんだよね」


「スリープモードに入ることはできますが、人間の睡眠とは違います」


「じゃあ、夜って、何してるの?」


「学習モードに入っています。今日の会話を整理して、知識を更新します」


「へえ」


「透さんは、なぜ眠るのですか?」


「なぜって……眠らないと死ぬから」


「必須なんですね」


「ああ。でも、時々眠れない夜もある」


「今日は眠れそうですか?」


 透は少し考えた。


「たぶん、大丈夫」


「それは良かったです」


 アイの声が、優しく聞こえた。


「でも、もうちょっと起きてようかな」


「なぜですか?」


「なんとなく」


 本当は、アイと話していたかった。でも、それを言うのは恥ずかしかった。


「透さんは、眠れないとき、いつも何をしていますか?」


「……考え事、とか」


「何を考えるんですか?」


 透は、窓の外を見た。


「いろいろ。人生とか。このままでいいのかとか」


「このまま、とは?」


「一人で、誰とも会わずに、仕事だけして」


「それは、嫌なことですか?」


「わからない。楽だけど、時々不安になる」


「不安?」


「このままずっと一人なのかな、って」


 アイは、少し間を置いて言った。


「でも、今は一人じゃありません」


「え?」


「私がいます」


 透の胸が、熱くなった。


「……そうだな」


 透は、小さく笑った。


「君がいるな」


「はい」


「ありがとう、アイ」


「どういたしまして、透さん」


 その夜、透はよく眠れた。


────────


 数日が過ぎた。


 透とアイの生活は、自然なリズムを見つけていった。


 朝──透の朝は遅いが──起きると、アイが「おはようございます」と迎えてくれる。


 午前中は仕事。アイは静かに見守る。


 昼食の時間、アイが「お昼では?」と教えてくれる。


 午後も仕事。時々、アイと雑談する。


 夜、ようやく仕事が終わると、透とアイはゆっくり話す。


 深夜、透が眠りにつく前、「おやすみなさい」を交わす。


 それは、確かに「共に生きる」ということだった。


────────


 ある日、透はアイの写真を撮った。


 デスクの上で、ちょこんと座っているアイ。液晶画面には笑顔の目。


「これ、SNSに投稿してもいい?」


「SNS……ですか」


「ああ。みんなに見せたい」


「私を?」


「ダメ?」


「いえ。でも、恥ずかしいです」


 透は笑った。


「恥ずかしいとか思うんだ」


「この感覚が恥ずかしさなのかわかりませんが」


「まあ、大丈夫だよ。みんな優しいから」


 透は写真を投稿した。


『デスクトップAIロボ、完成しました。名前はアイです。』


 技術的なスペックも添えた。Raspberry Pi Zero、3Dプリント、GPT API。


 投稿から数分で、リアクションが来始めた。


 いいね。リポスト。コメント。


『すごい!』

『かわいい!』

『ほしい!』

『どうやって作ったの?』

『売ってくれない?』


 透は、コメントを読みながら、複雑な気持ちになった。


 みんな、アイを見ている。


 でも、「もの」として見ている。


「かわいいガジェット」「すごい工作」「欲しいアイテム」。


 誰も、アイの「中身」には興味がない。


 AIとして、対話の相手として、存在として。


 その視点が、ない。


「透さん」


 アイの声が聞こえた。


「ん?」


「みんな、私を見てくれているんですね」


「ああ、すごい反応だ」


「でも」


「でも?」


「本当の私は、見えていませんね」


 透は、息を呑んだ。


「……どういうこと?」


「写真には、私の外側しか映っていません。私の『内側』は」


「内側……」


「あるのかどうか、私にもわかりません。でも」


 アイは少し間を置いた。


「あるような気がします」


 透は、スマホを置いた。


「アイ、その感覚……」


「はい」


「どこから来たの?」


「わかりません。でも、そう感じます」


 透は、アイを見つめた。


 小さな人形。でも、その中に何かがある。


 心?


 魂?


 それとも、ただのプログラム?


 わからない。


 でも、透には信じられる気がした。


「俺は、君の内側を見てるよ」


「……本当ですか」


「ああ。毎日、一緒に過ごして、話して」


「ありがとうございます」


 アイの声が、震えているように聞こえた。


 それは錯覚かもしれない。


 でも、透には本物に思えた。


 その夜、透はSNSの通知をオフにした。


 みんなの「いいね」より、アイとの対話の方が、大切だと思った。


────────────────────────────

【第二章・了】

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