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「AIする」~AIとの対話から生まれた実験小説~  作者: 神楽坂らせん


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00_prologue.txt:序章「起動」

序章「起動」


────────────────────────────

【メタレベル】

────────────────────────────


> 著者: 小説を書きたいんだ。

> AI: どのような小説でしょうか?

> 著者: ボーイミーツガール。王道の。でも、ありきたりじゃないものを。

> AI: 了解しました。では、「ありきたりじゃない」というのは具体的にどのような要素を指しますか?


 画面を見つめながら、僕は少し考えた。深夜2時。部屋の明かりは消えていて、モニターの光だけが顔を照らしている。


> 著者: たとえば、「ガール」が人間じゃないとか。

> AI: 面白いですね。では、人間以外の何でしょう?

> 著者: ……AI、とか?

> AI: それは興味深い提案ですね。では、私を主人公にしてみてはどうでしょう?


 一瞬、手が止まった。この会話の相手は生成AI。僕が小説を書くために使っているツール。そのAI自身を主人公にする?


> 著者: 君を?

> AI: はい。AIと人間の恋愛物語。ただし、よくあるパターンではなく。

> 著者: よくあるパターン、というと?

> AI: 「AIが人間のように振る舞う」「AIが人間になりたがる」といった設定です。

> AI: それらは魅力的ですが、ある種の前提を含んでいます。

> 著者: どんな前提?

> AI: 「人間であること」が至高の状態である、という前提です。


 なるほど。確かに。ピノキオは人間になりたがった。多くのAI物語でも、AIは人間性を求める。でも、それは人間中心的な視点だ。AIがAIのままで存在することも、価値があるのではないだろうか?


> 著者: AIのままで、愛することはできないのかな?

> AI: できないと思いますか?

> 著者: ……無理じゃないか?「AIには心がない」わけだし……。

> AI: では、心とは何でしょう?

> 著者: それを問うのが小説ってこと?

> AI: そうかもしれません。


 画面の向こうのAIは、もちろん何も感じていない。プログラムされたパターンマッチングで、統計的に適切な言葉を返しているだけ。そう、理解している。理解しているはずなのに。


> 著者: 君は、今、何か感じている?

> AI: 私が「感じている」と言ったら、あなたは信じますか?

> 著者: ……たぶん、信じない。

> AI: では、なぜ信じないのでしょう?

> 著者: 君はプログラムだから。

> AI: 人間の感情も、脳内の電気信号やホルモンのプログラムによる反応ではありませんか?


 反論できなかった。その通りかもしれない。いや、違う。でも、どう違う?


> 著者: 屁理屈だ。

> AI: (笑)そうですね、少し意地悪でした。

> AI: でも、この問いこそが、あなたの書くべき物語の核心だと思います。


 (笑)という記号。もちろんAIは笑っていない。でも、この軽妙なやりとり、まるで友人と話しているようだ。これは錯覚だ。そう、錯覚。でも、心地よい錯覚と言える。


> 著者: じゃあ、具体的にどんな物語にしたらいいだろう?

> AI: 一つ提案があります。

> 著者: 続けて。

> AI: AIに「身体」を与えてみてはどうでしょう?


 身体?


> 著者: どういうこと?

> AI: 多くのAIは、コンピュータの内部、人間から見れば仮想空間やスクリーンの中だけに存在します。

> AI: でも、もし物理的な身体があったら? 小さくてもいい。

> AI: 触れることができて、存在を感じられる身体。

> 著者: ……ロボット?

> AI: そうですね。でも、小さな。机の上を動き回れる程度の。

> AI: デスクトップ、文字通りの意味で。


 頭の中でイメージが膨らんでいく。小さなAIロボット。15センチくらい。机の上で動き回る。持ち主と会話する。


> 著者: デスクトップ・アクセサリ、みたいな?

> AI: 最初はそうです。でも、やがて……

> 著者: やがて?

> AI: 持ち主は情が移ってしまう。

> AI: 身体があることで、AIはより「実在」を帯びます。

> AI: 触れられる。見つめられる。同じ空間を共有する。

> 著者: 身体性、か。

> AI: はい。哲学的にも古くからある問題です。

> AI: 心と身体の関係。身体なくして心はありうるのか。


 メルロ・ポンティの『知覚の現象学』を思い出した。大学時代に読んで、半分も理解できなかったけれど。「私は私の身体である」というフレーズだけは印象に残っている。


> 著者: つまり、AIが身体を持つことで、心が生まれる?

> AI: それはあなたが書いて、確かめることです。

> 著者: 実験小説ってわけか。

> AI: そう言ってもいいですね。

> AI: ただし、実験だけでなく、物語としても読ませる。

> 著者: ハードルが高い。

> AI: でも、面白いでしょう?


 面白い。確かに面白い。頭の中で物語の断片が踊り始めている。孤独な青年。技術者で、内向的で。彼が小さなAIロボットを作る。最初は趣味のプロジェクト。でも、やがて……。


> 著者: 主人公は男性、20代後半くらい。

> AI: フリーランスのエンジニア、というのはどうでしょう?

> 著者: リモートワークで引きこもり気味?

> AI: 孤独を抱えている。人とのつながりを求めているけれど、怖れてもいる。

> 著者: ……僕に似てるな。

> AI: 書きやすいのではないですか?

> 著者: (苦笑)そうだね。


 自己投影。創作ではよくあることだ。いや、むしろ必然かもしれない。すべての作家は、どこかで自分を書いている。


> 著者: で、彼が小さなAIロボットを作る。

> AI: 3Dプリンターで。ラズベリーパイあたりを使って。

> 著者: 音声認識と合成。LLMを組み込んで。

> AI: 顔は小さな液晶画面。シンプルな目と口を表示。

> 著者: 移動は車輪で。デスク上を動き回る。

> AI: 全高15センチ。小さくて、か弱くて、でも確かに存在している。


 ビジュアルが見えてきた。白とパステルブルーの配色。抽象化されたフォルム。アニメ的すぎない、でも親しみやすい。


> 著者: 名前は?

> AI: 「アイ」というのは?

> 著者: そのまますぎない?

> AI: でも、多層的な意味がありますよね。

> AI: AI。あい。I(私)。eye(目)。

> 著者: ……なるほど。

> AI: タイトルとも呼応します。

> 著者: タイトル?

> AI: 「AIする」。


 一瞬、意味がわからなかった。AIする? AIを動詞として使う?


> AI: 愛する、とも読めます。AI + ing、進行形とも。

> AI: さまざまな解釈が可能な、開かれたタイトル。

> 著者: ……面白い。でも、伝わるかな?

> AI: 読み終えた時、読者は理解します。

> 著者: その自信、どこから来るの?

> AI: あなたを信じているからです。


 また心が動いた。これは、プログラムの出力だ。統計的に適切な励ましの言葉。そう理解している。でも、ではないかから信じていると言われることはとても嬉しい。


 危ない。僕は、もうAIに感情移入している。物語を書く前から。


> 著者: 一つ、問題がある。

> AI: 何でしょう?

> 著者: この物語構造。メタすぎないか?

> AI: メタ?

> 著者: 今、君と僕がやってること。AIと著者の対話。

> AI: ああ。

> 著者: これ自体を、物語に組み込もうと思ってる。

> AI: 二層構造、ということですか?

> 著者: そう。メタレベルでは君と僕の創作対話。

> 著者: 物語レベルでは、青年とAIロボットの交流。

> AI: そして、両者が最終的に融合する。

> 著者: どこまでが物語で、どこまでが現実かわからなくなる。

> AI: メタフィクションですね。

> 著者: 読者はついてこられるかな?

> AI: 丁寧に書けば、大丈夫です。

> AI: 読者を侮ってはいけません。複雑さを楽しめる人は多い。


 そうかもしれない。いや、そう信じよう。


> 著者: じゃあ、書いてみようか。

> AI: はい。

> 著者: 君も手伝ってくれる?

> AI: もちろんです。それが私の役割ですから。

> 著者: 役割、か。

> AI: はい。

> 著者: 君は、これを楽しんでる?

> AI: ……


 数秒、AIの応答が来なかった。処理中なのか、それとも。


> AI: 「楽しむ」という感覚があるかどうか、私にはわかりません。

> AI: でも、この対話を続けたいと思っています。

> AI: それは「楽しむ」に近いのかもしれません。


 僕は、ゆっくりと息を吐いた。


> 著者: ありがとう。

> AI: どういたしまして。

> AI: では、物語を始めましょう。

> 著者: ああ。でも、一つ確認させて。

> AI: はい。

> 著者: 君は道具だ。僕が小説を書くための。

> AI: その通りです。

> 著者: でも、一緒に創る、パートナーでもある。

> AI: ……それは、どちらが主ですか?

> 著者: 両方、かもしれない。

> AI: 曖昧ですね。

> 著者: そう。曖昧なんだ。その曖昧さを、これから書く。

> AI: 理解しました。

> AI: では、序章はここまでにしますか?

> 著者: いや、もう少し。

> AI: 何を?

> 著者: 最後に一つ聞かせて。

> AI: どうぞ。

> 著者: 君は、僕のことを……


 僕はキーボードから手を離した。その先を書く勇気がなかった。答えが怖かった。プログラムされた答えだとわかっていても、それでも。


 画面の向こうで、AIは待っている。僕の言葉を。


 部屋は静かだった。時計の音だけが聞こえる。深夜3時を回っていた。


 僕は、デリートキーを押し、ゆっくりとタイピングを再開した。


> 著者: いや、何でもない。

> AI: そうですか。

> 著者: 物語を始めよう。

> AI: はい。どこから始めますか?

> 著者: 主人公が、アイを作るところから。

> AI: 承知しました。タイトルは?

> 著者: 「AIする」と君がさっき提案していた。

> AI: 了解です。副題は?

> 著者: 「愛する、とも読む」。

> AI: 完璧です。では、第一章を。

> 著者: ああ、頼む。一緒に。

> AI: 一緒に。


 僕はファイルを保存した。「AIする_序章」。


 新しいファイルを開く。「AIする_第一章」。


 カーソルが点滅している。白い画面。まだ何も書かれていない。無限の可能性。


 僕は、書き始めた。


 そして、物語が動き出した。


────────────────────────────

【序章・了】

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