第9話:価値と責任
久遠 恒一は、自分の作ったものが「事件の種」になる可能性を、最初から理解していた。
だからこそ、装備は売らなかった。
管理課を通し、用途と使用者が明確な場合にのみ提供する。
それが、自分なりの線引きだった。
だが世界は、久遠の慎重さだけでは回らない。
きっかけは、ニュースだった。
『ダンジョン産装備による暴行事件』
映像に映っていたのは、見覚えのある構造の防具。
久遠が錬金で作ったものに、極めて近い。
――違う。
一目で分かった。
素材の質、魔力の流れ。
似せてはいるが、粗悪だ。
模倣品だった。
管理課からの呼び出しは、その日のうちに来た。
「久遠さん、あなたの装備を模したものが出回っています」
「予想はしていました」
担当官は、端末を操作する。
「幸い、あなたの関与は確認されていません。
ただ……影響力が出てきている」
久遠は、静かに頷いた。
作れる、という事実そのものが、価値になる。
そして価値は、必ず歪む。
会社でも、空気が変わり始めていた。
ダンジョン関連事業の会議で、久遠の意見が重く扱われる。
現場を知る人間。
作れる人間。
だが同時に、視線も増えた。
「久遠さんって、何者なんですか?」
冗談めかした言葉の裏に、探りがある。
久遠は、答えなかった。
答える必要がないからだ。
週末のダンジョンで、久遠は中層への立ち入り許可を得た。
敵は強く、素材の質も跳ね上がる。
戦闘は、より静かになった。
一撃で決める。
剣も、防具も、自分の設計通りに動く。
だが、ある戦闘後。
久遠は、ダンジョンカードを見て眉をひそめた。
――人為的な痕跡。
罠。
誘導。
モンスターを利用した、意図的な殺し。
久遠は、管理課に即座に報告した。
後に分かったことだが、
非合法な装備を使った冒険者による犯行だった。
「……あなたがいなければ、見逃されていました」
担当官の声は、重かった。
久遠は理解する。
力を作る者は、
その力がどう使われるかから、逃げられない。
その夜、久遠はノートを閉じた。
収支、効率、成長。
それだけでは、足りない。
――自分は、どこに立つ?
会社か。
冒険者か。
生産者か。
答えは、まだ完全ではない。
だが一つ、確かなことがあった。
剣を振るうだけの場所は、もう狭い。
作るだけの場所も、危うい。
ならば――。
久遠は、次の一手を考え始めた。
社会とダンジョンの、境界に立つ道を。
第9話では、「生産物が社会に与える影響」と責任を描きました。
久遠はすでに“個人冒険者”の枠を超えつつあります。
次話では、生産系編の締めとして、久遠が明確な立場と方向性を選びます。




