第8話:混ぜるという知性
久遠 恒一は、鍛冶スキルを得てから、ダンジョンの見え方が変わった。
モンスターは、ただ倒す対象ではなくなった。
素材の塊。
構造を持つ資源。
皮の繊維、骨の密度、血液に含まれる微量元素。
鑑定眼は、それらを余すことなく可視化する。
――これを、どう使うか。
その問いが、常に頭の片隅にあった。
錬金術スキルの取得は、自然な流れだった。
鍛冶と違い、錬金は「混ぜる」技術だ。
物質を分解し、再構成し、性質を変える。
管理課の資料には、こう書かれていた。
*錬金術は、防具作成、補助装備、消耗品に適する。
*ダンジョンコアは、魔力媒介として使用可能。
*高度な錬金には、知力と理解力が必要。
久遠は、条件をすでに満たしていた。
ダンジョン内、素材回収中。
視界に、再び文字が浮かぶ。
――錬金術:取得可能
迷いはなかった。
取得と同時に、膨大な理論が流れ込む。
化学式に似た魔法陣。
触媒としてのダンジョンコア。
エネルギーの安定化理論。
久遠は、静かに理解した。
――これは、知性のスキルだ。
工房での最初の錬金は、防具だった。
ゴブリンの皮と、低純度のダンジョンコア。
目的は、防刃性能の向上。
結果は、成功。
見た目は簡素だが、モンスターの攻撃を確実に軽減する。
鑑定眼で見れば、耐久値と修復性が高い。
次に作ったのは、剣の補助装置だった。
鍛冶で作った剣に、錬金術で魔力の通り道を刻む。
ダンジョンコアを微量組み込み、
斬撃時にエネルギーが刃先へ集中する構造。
――魔法剣の、初歩。
試し斬りで、モンスターは抵抗する間もなく倒れた。
強すぎない。
だが、安定している。
久遠は、それを良しとした。
ダンジョン管理課から、呼び出しがかかったのは、その直後だった。
「……この装備、あなたが?」
「はい」
担当官は、資料と装備を見比べる。
「量産は?」
「今は無理です。
精度を保つなら、一点ずつになります」
「十分です」
その言葉は、評価だった。
久遠は理解した。
生産は、戦闘よりも危険になり得る。
質の高い装備は、欲望を刺激する。
管理と倫理がなければ、簡単に崩壊する。
だから久遠は、売らなかった。
装備は、自分用か、管理課経由のみ。
利益よりも、制御を選ぶ。
その姿勢は、周囲から奇異に見られたが、
久遠は気にしなかった。
――剣を握る理由と、同じだ。
その夜、部屋で剣を整備しながら、久遠は思った。
振るう。
作る。
直す。
すべてが、一つの線で繋がっている。
自分はもう、単なる冒険者ではない。
力を「使う側」から、
力を「設計する側」へ。
静かに、確実に、立場が変わり始めていた。
第8話では、錬金術取得と「混ぜる」知性を描きました。
鍛冶=身体、錬金=頭脳という対比で、久遠の強みが完成しつつあります。
次話では、作った装備が事件やトラブルを呼び、社会との摩擦が表面化します。




