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第58話:記録されない勝利

 帰還は、

 静かすぎた。


 警報は鳴らない。

 拍手もない。


 久遠は、

 医療区画の

 ベッドに座っていた。


 左腕は、

 包帯に覆われている。


 治癒魔法は、

 効いている。


 それでも――

 中身が削られた感覚は、

 消えない。


「……報告書は?」


 医療班が、

 視線を逸らす。


「作成されていません」


 予想通りだった。


 管制室。


 ログには、

 こう記されている。


空白区画・第三区

適応者班、全滅

原因:侵食暴走

対応:なし


 久遠の名前は、

 どこにもない。


 侵食反応は、

 自然消滅として

 処理された。


「……勝ったのに」


 誰も、

 答えない。


 会議。


 久遠は、

 呼ばれていない。


 代わりに、

 結論だけが

 通達される。


命令外行動の確認

再発防止のため、

久遠朔の行動制限を

強化する


 剣は、

 正式に

 没収された。


 刻印装備も、

 隔離。


 アイテムボックスへの

 アクセス権限は、

 段階的制限。


「……象徴は、

 管理される」


 誰かが、

 そう言った。


 夜。


 久遠は、

 一人、

 自室にいる。


 東京の灯りが、

 窓の外で

 滲んでいる。


 剣が、

 ない。


 それだけで、

 こんなにも

 部屋が

 狭い。


 端末が、

 震える。


 非公式回線。


『……久遠さん』


 声。


 若い。


 管理課の、

 下位職員だ。


「何だ」


『ログを……

 消す前に

 見ました』


 短い沈黙。


『あなたが

 侵食核を

 破壊しています』


『……ありがとう

 ございました』


 通信は、

 すぐ切れた。


 久遠は、

 端末を置く。


「……それで

 いい」


 勝利は、

 記録されなくてもいい。


 英雄に、

 なる必要もない。


 だが――

 忘れられるのは、

 違う。


 A-3。


 名もなき

 適応者たち。


 彼らは、

 “失敗”として

 処理された。


 久遠は、

 静かに立ち上がる。


 アイテムボックス。


 制限付き。


 だが――

 完全ではない。


 奥に、

 一つだけ

 残っている。


 小さな、

 刻印。


 名前は、

 刻まれていない。


 まだ、

 刻むべき名が

 決まっていないからだ。


「……次は」


 窓の外で、

 遠く、

 警報が鳴る。


 侵食反応。


 また一つ、

 増えた。


 久遠は、

 目を閉じた。


「――記録されなくても、

 行く」


 それが、

 彼の選んだ

 生き方だった。

次は

第59話「非公式協力者」。

久遠が“管理外”の人々と

繋がり始める回になります。

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