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第56話:切り離される象徴

 決定は、

 静かに下された。


 通達は、

 事務的だった。


久遠 くおん・さく

当面の間、

前線作戦から

外れる。


 理由欄は、

 空白。


 それが、

 すべてを語っていた。


 久遠は、

 紙を置く。


「……そうか」


 怒りは、

 湧かなかった。


 予想していた。


 象徴は、

 邪魔になる。


 倫理を口にする者は、

 戦争では

 前に出られない。


 隔離区画。


 A-3が、

 ガラス越しに

 久遠を見る。


「次は?」


「……君たちだけで

 行く」


 反応が、

 一拍遅れる。


「理解しました」


 感情が、

 ない。


 それが、

 何より

 苦しかった。


「命令が

 出たら――」


「従います」


 言い切り。


 久遠は、

 目を逸らした。


 前線。


 侵食対応ログ。


 久遠の名前は、

 消えている。


 代わりに、

 数字が並ぶ。


 成功率。

 損耗率。

 平均処理時間。


 人の欄は、

 ない。


 久遠は、

 デスクに座る。


 何も、

 することが

 ない。


 左腕が、

 痛む。


 治癒不能の

 鈍痛。


 侵食は、

 まだ中に

 ある。


「……役に

 立たなくなったか」


 その夜。


 非常警報。


 久遠の端末が、

 震える。


『適応者班、

 連絡断絶』


 久遠は、

 立ち上がる。


「……位置は」


『空白区画、

 第三区』


 最悪の場所。


「……命令は」


『……待機』


 久遠は、

 端末を

 閉じた。


 剣を、

 取る。


 管理室の

 認証ゲート。


 拒否。


 再試行。


 拒否。


 久遠は、

 深く息を吸う。


 アイテムボックス。


 中から、

 刻印装備を

 取り出す。


 名前が、

 刻まれている。


 ――死者たちの。


「……借りるぞ」


 帰還標。


 単独転移。


 空白区画。


 空気が、

 “ない”。


 侵食の

 濃度が、

 異常。


 遠くで、

 光。


 適応者たちだ。


 ――いや、

 残骸だ。


 動いているのは、

 二名。


 A-3も、

 いた。


「……久遠?」


 声が、

 残っている。


「来るな」


 遅い。


 侵食体が、

 動く。


 融合型。


 久遠は、

 剣を構える。


「……前線じゃ

 なくても」


 一歩。


「まだ――」


 踏み込む。


「戦える」


 刃が、

 空白を切り裂く。


 侵食が、

 吠える。


 久遠の戦いは、

 命令から

 切り離された。


 それでも――

 彼は、

 剣を振るう。

次は

第57話「命令外戦闘」。

“勝ってはいけない戦い”に

久遠が踏み込む回です。

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