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第55話:増産される適応者

 計画は、

 速かった。


 倫理検討会。

 合意形成。

 例外措置。


 すべてが、

 侵食の速度に

 追いつくための

 名目だった。


 久遠が、

 現場に戻った頃には、

 隔離区画が

 拡張されていた。


 人数が、

 増えている。


「……何人」


『ロットB、

 二十四名』


 倍。


 しかも――

 基準が、

 緩んでいる。


「侵食生還者

 以外も?」


『濃厚被曝者、

 重度負傷者』


 久遠は、

 言葉を失った。


 生きているだけで、

 候補。


 それは、

 選別ではない。


 収集だ。


 隔離区画の中。


 新しい者たちは、

 まだ“人”だった。


 恐怖がある。

 怒りがある。

 泣いている者もいる。


「……助けるんですよね?」


 若い女性が、

 久遠に縋る。


「治療じゃ

 ないんですか?」


 久遠は、

 答えられない。


 答えが、

 存在しない。


「侵食に

 適応すれば、

 生存率が

 上がる」


 医療担当が、

 淡々と説明する。


「失敗すれば?」


「……死亡、

 または

 構造崩壊」


 久遠の

 視界が、

 一瞬揺れた。


 構造崩壊。


 それは、

 死よりも

 曖昧だ。


「誰が

 決めた」


「状況が

 決めました」


 それ以上、

 言葉は

 出なかった。


 初期調整。


 侵食環境への

 再曝露。


 人為的侵食。


 久遠は、

 立ち会った。


 目を逸らさず。


 叫び声。

 痙攣。

 形の変化。


 耐えた者。

 壊れた者。


 数字が、

 更新される。


『成功、

 九名』


『失敗、

 十五名』


 九名は、

 “適応者”と

 呼ばれる。


 十五名は――

 記録に

 残らない。


「……これが

 正解か」


 久遠は、

 自問する。


 答えは、

 ない。


 次の侵食現場。


 今度は、

 適応者が

 前に出る。


 久遠は、

 後ろから

 支援する。


 戦闘は、

 効率的だった。


 被害は、

 抑えられる。


 だが――

 一人が、

 途中で止まった。


 目が、

 虚ろになる。


「……帰りたい」


 小さな声。


 侵食が、

 一気に

 流れ込む。


「下がれ!」


 久遠が

 駆ける。


 間に合わない。


 その者は、

 “素材”になった。


 侵食体が、

 強化される。


 久遠は、

 歯を食いしばり、

 切った。


 帰還。


 生存、

 八名。


 数字が、

 減っただけ。


 統括官が、

 言う。


「許容範囲です」


 久遠は、

 机を叩いた。


「人が

 減っている!」


「戦力です」


「違う!」


 声が、

 割れる。


「……これ以上、

 増やすなら」


 久遠は、

 静かに言った。


「私を

 外せ」


 会議室が、

 凍る。


「見ているだけなら、

 もう

 耐えられない」


 沈黙。


 やがて、

 統括官が

 低く答えた。


「……検討します」


 それは、

 拒否だった。


 久遠は、

 一人、

 夜の通路を歩く。


 灯りが、

 白すぎる。


「……助ける

 ためだったのに」


 侵食は、

 止まらない。


 だから世界は、

 人を削り続ける。

次は

第56話「切り離される象徴」。

久遠が“前線”から

遠ざけられる回です。

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