第53話:失敗作たちの行進
整列は、
歪んでいた。
揃っていない。
姿勢も、
目線も。
だが、
逃げ出す者はいない。
十二名。
全員が、
侵食生還者。
共通しているのは、
体のどこかが
“人間のままではない”
という点だった。
腕が、
半透明な者。
呼吸のたびに、
胸郭が
不自然に軋む者。
影が、
足元から
遅れて動く者。
久遠は、
彼らの前に立つ。
鑑定眼。
――表示されない。
識別不能。
「……名前は?」
一人が、
一歩出た。
「覚えてません」
声は、
若い。
「コードでもいい」
「A-3です」
番号。
久遠は、
一瞬だけ
歯を噛んだ。
「目的は、
侵食区画の
固定」
「生還は?」
別の者が、
問い返す。
久遠は、
正直に言った。
「保証されない」
誰も、
動揺しない。
すでに、
分かっている。
「作戦は、
単純だ」
久遠は、
地図を出す。
「侵食反応の
中心に、
君たちが
入る」
「私は、
外から
切る」
沈黙。
やがて、
一人が
笑った。
「囮ですか」
「そうだ」
久遠は、
視線を逸らさない。
「……嫌なら、
降りてもいい」
「降りたら?」
「拘束。
終身管理」
それも、
事実だ。
A-3は、
肩をすくめた。
「じゃあ、
行きます」
他の者も、
無言で頷く。
ダンジョン。
侵食区画。
空気が、
“薄い”。
足を踏み出すたび、
現実が
剥がれる感覚。
「反応、
来ます」
A-3が、
低く言う。
次の瞬間。
侵食体、出現。
形は、
安定しない。
人影。
獣。
構造物。
久遠が、
剣を抜く。
――が、
止めた。
「前へ」
十二名が、
走る。
侵食が、
彼らに
群がる。
叫びは、
上がらない。
代わりに、
異音。
肉が、
変質する音。
空間が、
軋む音。
「……」
久遠は、
動けない。
動かない。
作戦だ。
一人が、
崩れ落ちる。
侵食に、
飲まれた。
消える。
次。
また次。
――五名。
生存、七。
「今だ」
久遠が、
切り込む。
剣が、
侵食の“核”を
捉える。
一閃。
空間が、
縫い止められる。
侵食体が、
悲鳴を上げる。
崩壊。
静寂。
残った七名は、
立っていた。
だが――
もう、
人ではない。
「……成功だ」
管制の声。
久遠は、
剣を下ろした。
足が、
重い。
「これが……
代替戦力か」
A-3が、
久遠を見る。
瞳の奥に、
光はない。
「次は
どこですか」
久遠は、
一拍置いて答えた。
「……まだだ」
だが、
世界は
待たない。
次の侵食が、
すでに
始まっていた。
次は
第54話「成功例という地獄」。
“うまくいった”ことが、
最も残酷な結果になる回です。




