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第51話:同時多発侵食

 警報は、

 一度では終わらなかった。


 次。

 また次。


 東京湾岸区画。

 埼玉第七区画。

 名古屋外縁。


 同時発生。


 管制室の空気が、

 冷え切る。


『侵食反応、

 重なっています』


『通常班、

 接触不可』


『……久遠は?』


 久遠は、

 返事をする前に

 地図を見ていた。


 赤い印が、

 増えていく。


「全部は無理だ」


 その言葉に、

 誰も反論しない。


 分かっている。


 彼は、

 一人だ。


『優先順位を』


「……人が

 いる区画だ」


 即答。


 英雄的判断ではない。


 単なる減損管理だ。


「侵食は

 広がる前提でいい」


「ただし――

 人が消える場所は、

 今日じゃない」


 久遠は、

 装備を確認する。


 左腕は、

 まだ痛む。


 削られた感覚が、

 戻らない。


 治癒は、

 しているはずなのに。


『久遠、

 侵食体の反応が

 増えています』


「固定できない

 タイプか?」


『……はい』


 久遠は、

 目を閉じた。


「了解」


 現場。


 住宅街の

 すぐ裏。


 ダンジョンの裂け目から、

 空気が落ちている。


 重い。


 重力が、

 局所的に

 狂っている。


 久遠は、

 一歩踏み込む。


 鑑定眼。


 ――何も映らない。


 代わりに、

 背後で

 悲鳴。


「下がれ!」


 叫ぶが、

 遅い。


 男性の脚が、

 消えた。


 血は、

 出ない。


 ただ、

 存在が

 欠けた。


「……くそ」


 久遠は、

 重りを

 投げる。


 空間が、

 一瞬だけ

 止まる。


 だが――

 足りない。


 侵食は、

 複数だ。


 固定できる量を、

 超えている。


「戻れ!

 全員戻れ!」


 久遠は、

 剣を振るう。


 一つ。

 二つ。


 切るたびに、

 息が詰まる。


 削られる。


 防御不能の消耗。


 鑑定眼が、

 警告を出す。


 負荷上昇

継続は非推奨


「知ってる……」


 だが、

 止まれない。


 逃げ遅れた

 子どもが、

 視界に入る。


 久遠は、

 迷わず

 抱えた。


 次の瞬間、

 背中が

 “削れる”。


 音は、

 ない。


 ただ、

 呼吸が

 抜けた。


「……っ」


 歯を食いしばる。


 地面に、

 帰還標を

 叩きつける。


 光。


 転移。


 次に見えたのは、

 医療区画の

 白い天井だった。


『久遠!』


 声が、

 遠い。


 子どもは、

 助かった。


 だが――

 侵食は、

 止まっていない。


 報告が、

 次々と上がる。


『名古屋、

 対応不能』


『埼玉、

 住民避難中に

 消失者あり』


 久遠は、

 目を閉じた。


「……一人じゃ、

 足りない」


 それは、

 弱音ではない。


 事実報告だ。


 そして同時に――

 世界への警告だった。

次は

第52話「代替戦力計画」

久遠が「唯一」ではなくなるための、

冷酷な話に入ります。

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