第48話:久遠不在
事故は、
予定通り起きた。
中層第十五区画。
複合湧出エリア。
久遠の名は、
配置表にない。
「……今回は、
あの人いないのか」
誰かが言った。
それだけで、
空気が変わる。
慎重になる者。
逆に、
焦る者。
だが、
統一された判断はない。
戦闘開始。
第一波。
問題なし。
第二波。
想定内。
第三波。
想定外。
湧出位置が、
一つずれる。
「……どうする」
誰も、
即答しない。
久遠がいれば、
ここで
一言が飛んだ。
――下がれ。
――切り捨てろ。
――撤退。
だが、
誰も言わない。
言えない。
判断が、
宙に浮く。
数秒。
その数秒で、
前列が
飲み込まれた。
崩壊。
「撤退だ!」
遅すぎる。
退路に、
モンスター。
挟撃。
叫び。
結果。
死亡五。
重傷三。
帰還者は、
震えていた。
報告書は、
管理課を
沈黙させた。
「……久遠が、
いなかったからだ」
誰かが、
言った。
その言葉は、
否定されなかった。
だが、
正しくもない。
久遠は、
その場に
いなかった。
だが、
久遠が
いなくなった
“理由”は、
そこにあった。
管理課、
緊急会議。
「……戻してほしい」
課長代理は、
低い声で言った。
「今度は、
条件なしで」
久遠は、
黙って聞いていた。
「現場が、
持たない」
「数字が、
証明している」
久遠は、
一つだけ
尋ねた。
「俺が戻れば、
現場は
自分で決めますか」
沈黙。
答えは、
出ない。
久遠は、
立ち上がる。
「……なら、
戻りません」
課長代理が、
叫ぶ。
「人が、
死ぬんだぞ!」
久遠は、
振り返った。
「もう、
死んでいます」
「俺が戻って
延命するだけなら、
意味がない」
その夜。
境界が、
揺れた。
新たな
大規模反応。
久遠の
鑑定眼が、
警告を出す。
未確認侵食。
危険度:極高。
管理課は、
選択を迫られる。
――久遠を、
呼び戻すか。
――それとも、
別の方法を
探すか。
久遠は、
剣を
見つめた。
これは、
戻る理由ではない。
戻らされる理由だ。
その時、
境界の向こうで、
何かが
目を覚ました。
第48話では、
「強者不在が原因ではない事故」を描きました。
久遠がいなくても、
壊れる現場は壊れます。
むしろ、
依存していた分だけ
深く壊れました。
次は――
大規模侵食の正体
久遠が“拒否できない呼び出し”
剣ではなく、存在そのものが
戦力として扱われる瞬間
へ進みます。




