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第43話:判断に縋る者たち

 久遠の名前は、

 再び境界で囁かれ始めた。


「今回、

 久遠が入るらしい」


「じゃあ、

 大丈夫だな」


 その言葉を聞いた瞬間、

 久遠は

 胸の奥が冷えた。


 それは、

 信頼ではない。


 放棄だ。


 中層第十区画。


 編成は、

 以前より多い。


 だが、

 動きは鈍い。


 誰も、

 最初の一歩を踏み出さない。


 視線が、

 久遠に集まる。


「……指示を」


 誰かが言った。


 久遠は、

 首を振る。


「まだだ」


 モンスターが、

 距離を詰める。


 それでも、

 誰も動かない。


 自分で決めない。


 久遠は、

 理解した。


 これは、

 危険だ。


「前列、

 攻撃開始」


 その一言で、

 一斉に動く。


 統率は、

 完璧。


 だが、

 異常だった。


 判断が、

 すべて外部化されている。


 戦闘は、

 問題なく終わった。


 被害、

 軽微。


 だが、

 誰も達成感を

 持っていない。


 帰還後。


「……正直、

 楽でした」


 若い冒険者が、

 笑う。


「考えなくていい」


「言われた通りに

 やればいい」


 久遠は、

 何も言えなかった。


 別の班。


 別の区画。


 久遠は、

 同じ役割で入る。


 同じ空気。


 同じ視線。


 同じ言葉。


「久遠さん、

 どうします?」


 久遠は、

 指示を出す。


 撤退。

 攻撃。

 切り捨て。


 結果は、

 悪くない。


 数字は、

 改善する。


 管理課は、

 評価する。


 だが、

 久遠の中で

 警鐘が鳴り続ける。


 夜。


 装備を外し、

 座り込む。


「……これじゃあ、

 俺が折れたら

 全部終わる」


 現場は、

 強くなっていない。


 麻痺しているだけだ。


 久遠は、

 記録板を見る。


 判断介入:累計7

 死亡:0


 数字は、

 美しい。


 だが、

 その裏で――


 「自分で決めた者」が、

 一人もいない。


 久遠は、

 剣に触れた。


 まだ、

 抜かない。


 だが、

 次に来る問いは

 こうだろう。


 ――誰が決める?


 その答えを、

 久遠一人に

 押し付け続けるなら。


 この現場は、

 必ず、

 もっと残酷な形で

 壊れる。

第43話では、

「責任を引き受ける者が現場を弱くする瞬間」を描きました。


久遠は

守っています。

確かに、

人は死ななくなった。


しかし――

誰も“選ばなく”なった。


次は


久遠が意図的に判断を遅らせる回


その結果、起きる“事故”


久遠が再び剣を取る理由の輪郭


へ進みます。

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