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第40話:糾弾の席

 それは、正式な裁判ではなかった。


 懲戒委員会でもない。

 管理課の会議でもない。


 ただ、人が集められた部屋だった。


 円卓。


 遺族代表。

 同班経験者。

 管理課の立会人。


 久遠は、その中心に座らされていた。


「……あなたは、その場にいた」


 最初に口を開いたのは、死亡者の兄だった。


「同じ区画にいて、判断できる立場にあった」

「それでも、何もしなかった」


 久遠は、否定しなかった。


「はい」


 その一言で、空気が張りつめる。


「なぜだ」

「判断を、求められなかった」

「求められなくても、言えたはずだ!」


 声が荒れる。

 久遠は、視線を下げたまま、答える。


「言えば、従ったと思いますか」


 一瞬、沈黙。


「……それは」

「分かりませんよね」


 久遠は、静かに続けた。


「俺が言えば、責任を俺に預けた」

「それが、その人を救ったかどうかは、分からない」


 兄は、歯を食いしばる。


「だが、あんたは助けてきた!」

「だからこそ、期待された!」


 久遠は、顔を上げた。


「期待は、義務じゃない」


 その言葉に、ざわめきが起きる。


「俺は、英雄じゃない」

「制度の代わりでもない」

「判断を肩代わりする 道具でもない」


 立会人が、口を挟む。


「……久遠一等冒険者」

「あなたの行為は、規約上、違反ではありません」

「だが――」


「社会的影響が、無視できない」


 久遠は、頷いた。


「分かっています」

「だから、俺は――」


 言葉を、選ぶ。


「前に立つのを、やめます」


 部屋が、凍りつく。


「境界には入る」

「だが、同行しない」

「判断もしない」

「名も、使わせない」


 兄が、叫ぶ。


「それは、逃げだ!」


 久遠は、静かに答えた。


「違う」

「これ以上、人を“俺の判断”で死なせないためだ」


 沈黙。


 誰も、反論できなかった。

 会は、結論を出さなかった。

 出せなかった。


 夜。

 境界。


 久遠は、一歩引いた位置に立つ。


 前に出ない。

 誰も、声をかけない。


 それでも、戦闘音は聞こえる。


 誰かが、戦っている。

 誰かが、選んでいる。

 久遠は、剣を抜かない。

 ただ、見ている。

 それが、新しい罰だった。


 記録板。


 判断関与:0

 同行帰還:0


 久遠は、板を閉じる。

 糾弾は、終わっていない。


 だが、久遠の中では、一つの答えが固まりつつあった。


 ――選ばないのではない。

 ――選ぶ場所を、変える。


 その時は、まだ来ていない。

第40話は、

「正義が存在しない場所での裁き」を描きました。


久遠は、罰せられず、赦されず、役割だけを失います。

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