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第37話:禁止される無名

 通達は、静かに出た。


 掲示もない。

 記者発表もない。


 ただ、管理課の内部回線に、一枚の文書が流れた。


 《無名行動に関する暫定制限》

 ・境界における名乗り拒否の抑制

 ・識別票未携帯での同行行動の制限

 ・違反時、調査対象とする


 理由欄は、短い。


 「責任所在の明確化」


 現場は、すぐにざわついた。


「……無名、ダメになったのか」

「名前を名乗れ、ってことだろ」

「それ、帰還率下がらないか?」


 久遠は、通達を見て、何も言わなかった。

 予想通りだ。

 制度は、曖昧なものを嫌う。

 特に、成果が出てしまった場合は。


 呼び出し。

 今回は、課長代理ではない。

 法務寄りの担当官。


「久遠一等冒険者」

「あなたの行動は、明確に制度の外です」


 久遠は、椅子に座ったまま、黙って聞く。


「あなた個人を罰するつもりはありません」

「ですが、“再現性のない成功例”は規制されます」


 久遠は、ゆっくりと口を開いた。


「……禁止は、救う命を選びます」


「ええ」


 担当官は、即答した。


「制度は、常に選別します」


 それは、否定ではない。

 宣言だ。


「では」


 久遠は、立ち上がる。


「俺は、次から名を名乗ります」


 担当官が、眉を上げる。


「それで、満足ですか」


 沈黙。


「……条件付きで」


 久遠は、続けた。


「名を名乗るのは、帰還後です」

「境界では、名を与えません」


 担当官は、数秒考え、首を横に振った。


「灰色ですね」

「はい」

「だが、完全な違反ではない」


 その言葉が、すべてだった。


 夜。

 境界。

 声が、かすかに聞こえる。


「……誰か……」


 久遠は、一歩前に出る。


「歩けるか」

「……はい」

「なら、来い」


 名前は、言わない。

 後ろに、気配。

 境界が、揺れる。


 ゲート。

 帰還。

 管理区画。


 受付で、職員が聞く。


「同行者の識別をお願いします」


 久遠は、一瞬だけ、間を置いてから言った。


「……久遠だ」


 職員は、端末に入力する。


「了解しました」


 それだけ。

 記録板。


 同行帰還:1

 無名同行帰還:—(凍結)


 久遠は、板を見つめた。

 無名は、禁止された。


 だが。

 境界で、名前を必要としない時間は、まだ残っている。

 制度は、常に遅れる。


 人が、死なない方法の方が、いつも先に行く。

第37話では、

「制度が人を守るために、人を縛る瞬間」を描きました。


無名行動は、善悪ではなく管理不能という理由で禁止されます。


久遠は、対立せず、壊さず、灰色に潜り込む選択をしました。

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