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第32話:模倣者の帰還率

 最初に気づいたのは、管理課ではなかった。

 現場の冒険者たちだ。


「……最近さ、“久遠のやり方”真似する奴、増えてないか?」

「帰還標も持たずに、人を連れて戻るってやつ?」

「そう。あれ、見てる分には簡単そうに見えるからな……」


 簡単そうに、見える。

 それが、一番危険だった。

 久遠 恒一は、工房で刃の手入れをしていた。


 通知が入る。

 非公式回線。

 差出人不明。


《境界で、事故があった》


 短い文。

 久遠は、それだけで理解した。


 ――模倣だ。


 現場は、侵食境界の縁。

 三人編成。

 帰還者、一名。


 医療室で、その一人が震えていた。


「……俺は、呼んだんです」


 青年は、必死に言う。


「名前を呼べば、帰れるって……」

「久遠さんみたいに、前に立てば……」


 久遠は、黙って聞いていた。


「でも、後ろにいた二人が……」


 言葉が、続かない。

 消失。

 帰還標なし。

 存在固定なし。

 判断誘導のみ。

 条件が、足りていない。


「……俺が、悪いんですか」


 青年は、縋るように聞く。

 久遠は、しばらく考えた。

 そして、答えた。


「悪くない」


 青年の目が、揺れる。


「でも、正しくもない」


 久遠は、続けた。


「俺は、境界に立っているだけだ」

「引っ張っているわけじゃない」

「戻る意思が、本人に残っている時だけ、道になる」


 青年は、俯いた。


「……俺には、無理だった」

「そうだ」


 久遠は、否定しなかった。


「無理だ。簡単じゃない」


 それが、現実だった。


 後日。

 管理課内で、小さな通達が回る。


 「非公式帰還行動の自粛要請」


 名指しは、ない。

 だが、誰のことかは明白だった。

 久遠は、呼び出される。

 課長代理が、れた顔で言った。


「……真似が出た」

「はい」

「死者も、出た」

「はい」

「君は、責任を感じるか」


 久遠は、少し考えた。


「感じます」

「だが、止めません」


 課長代理は、目を閉じた。


「……だろうな」


 久遠は、静かに言う。


「俺は、やり方を教えていません」

「条件も、成功率も、説明していない」

「それでも、人は真似る」

「それが、希望に見えるからです」


 沈黙。


「だから、俺は続けます」

「真似が、危険だと分かるまで」


 課長代理は、何も言わなかった。


 夜。

 久遠は、記録板を更新する。

 同行帰還:1

 模倣失敗:2


 数字だけ。

 名前は、ない。


 久遠は、板を伏せた。

 境界に立つということは、希望になることだ。

 そして同時に、誤解の種になる。


 それでも。

 誰かが、境界で立ち止まったとき。

 帰り道を、思い出すために。


 久遠は、次も立つ。

 名前を呼ばれる場所として。

第32話は、

「思想が広まった結果、死が増える」という重い現実を描きました。


正しい行為でも、文脈を失えば凶器になる。


久遠は、それを理解した上で、それでも立ち続けます。

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