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第24話:条件外という死

 次の出動は、三日後だった。


 短い間隔。

 それだけ、侵食の進行が早いということだ。


 再調査班第三編成は、前回と同じ構成。

 欠けた一名の席だけが、空いている。


 名前は、誰も口にしない。


 久遠 恒一は、出発前に帰還標を確認した。

 調整は施した。

 反応速度を、わずかに上げた。


 ――それでも、条件は消せない。


「今回は、戦闘を避ける」

 指揮官が言う。

「侵食個体の“発生点”を確認したら即撤退だ」


 全員、頷く。


 誰もが理解している。

 戦えば、条件外が出る。


 ゲートを抜ける。


 空白区画に近づくほど、

 音が、減っていく。


 足音が、遅れて聞こえる。

 呼吸が、少しずつずれる。


 久遠は、鑑定眼を絞った。


 地形。

 魔力流。

 侵食の“境界”。


 ――見える。


 だが、

 見えすぎる。


「止まれ」


 久遠が言った瞬間、

 前方の空間が、潰れた。


 圧縮。


 音もなく、

 一人が消えた。


 いや――


 潰れた。


 存在が、平面になる。


 悲鳴すら、なかった。


 全員が、凍りつく。


「……いまのは」


「空間圧壊」

 久遠が、低く言う。

「侵食が、一定以上進んだ場所で起きる」


「帰還標は――!」


 誰かが叫ぶ。


 久遠は、首を横に振った。


「条件外だ」


 意識も、負傷も関係ない。

 生存判定が、成立しない。


 死ですらない。


 “消失”。


 撤退命令が出る。


 だが、

 侵食個体が、反応した。


 数が、多い。


「散開!

 ゲートへ――」


 遅れた一人。


 足を取られ、

 転倒。


 久遠は、走る。


 剣を振るう。


 一体、切る。

 二体、押し返す。


 被弾。


 肩。


 視界が、揺れる。


「帰還標!」


 久遠は、魔力を流す。


 光る。


 円が、開く。


「入れ!」


 倒れた冒険者が、

 円に触れる。


 だが。


 弾かれた。


「……え?」


 鑑定眼が、即座に答えを出す。


 ――意識レベル、低下。

 ――存在安定度、閾値未満。


「くそ……!」


 久遠は、引きずる。


 無理やり、押し込む。


 帰還標が、

 悲鳴のような振動を起こす。


 限界。


 侵食個体が、迫る。


「離れろ!」


 指揮官の声。


 だが、久遠は動かない。


 条件を、満たさせる。


 意識を、呼び戻す。


 頬を叩く。


「起きろ……起きろ!」


 一瞬。


 瞳が、開いた。


 帰還標が、

 反応した。


 光が、強まる。


 だが――


 次の瞬間。


 空間が、

 裂けた。


 円ごと、

 喰われる。


 帰還標の光が、

 途切れる。


 静寂。


 久遠は、

 膝をついた。


 生存者、三名。


 帰還後、

 報告書が作成される。


 死亡二名。

 消失一名。


 原因。


 ・空間圧壊

 ・帰還条件未達


 冷たい文字。


 久遠は、

 帰還標を机に置く。


 表面に、

 新しい傷が増えていた。


 名前は、

 刻めない。


 遺体が、ない。


 確認できない。


 条件外。


 それが、

 この世界の答えだった。


 久遠は、

 剣を見つめる。


 強くなれば、

 届く範囲は広がる。


 だが、

 条件そのものは、

 消えない。


 ――なら。


 条件の外に、

 立ち続けるしかない。


 久遠は、

 帰還標を握った。


 次は、

 間に合わない前に。


 それが、

 救いにならなくても。


 名前を、

 条件外にしないために。


 戦いは、

 まだ終わらない。

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