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第22話:名前を刻む装備

 鍛冶場の空気は、ダンジョンよりも静かだった。


 久遠 恒一は、一人で炉の前に立っている。

 管理課の共同工房。

 使用許可は、技術協力枠として正式に下りていた。


 だが、ここで何を作るかまでは、誰にも報告していない。


 炉の中で、火が揺れる。


 素材は、すでに揃っていた。


 ・中層モンスターの外殻

 ・空白区画近傍で採取された魔力結晶

 ・破損した防具の欠片

 ・砕け散った座標錨の残骸


 そして――

 行方不明者が残した装備の一部。


 管理課の規定では、私物は一定期間保管後、処分される。


 だが、久遠は申請した。


 「技術検証用素材としての一時借用」


 理由は、通った。


 久遠は、鑑定眼を最大にする。


 素材一つひとつに、“意味”が見える。


 強度。

 魔力の流れ。

 そして――


 人の痕跡。


 ダンジョン産素材は、使い手の影響を強く受ける。

 それを、久遠は知っている。

 剣を振るう前に、まず、形を決める。


 作るのは、武器ではない。

 防具でもない。

 補助装備。


 目的は、一つ。


 ――消えないこと。


 久遠は、素材を炉に入れる。

 火力を、最低限に抑える。


 溶かしすぎれば、情報が失われる。

 魔力を、ゆっくりと流す。

 錬金と鍛冶を、同時に使う。


 不器用なやり方だが、必要だった。

 形が、浮かび上がる。


 金属板。

 薄く、小さい。


 胸元に装着する、名札のような形。


 久遠は、刻む。

 刃ではなく、魔力で。


 文字を。

 名前を。


 行方不明者の名前を、そのまま。


 省略しない。

 記号にしない。


 一文字ずつ、丁寧に。

 刻むたびに、魔力が、微かに震える。


 拒絶は、ない。

 素材が、受け入れている。


 最後に、久遠は自分の名前も刻んだ。


 同じ面には、刻まない。


 裏側に。


 判断者としての名前。


 完成。


 久遠は、鑑定眼を向ける。


 《補助装備:帰還標(試作)》

 ・装着者の存在情報を記録

 ・空間歪曲耐性(低~中)

 ・強制帰還補助(条件付き)

 ・登録名:二名


 条件付き。


 だが、ゼロではない。


 久遠は、深く息を吐いた。


 ――これで、救えるわけじゃない。


 それでも。


 「誰が消えたか」を、装備が覚えている。


 それだけで、意味がある。


 翌日。


 管理課に、簡易報告を提出する。


 装備の性能。

 想定用途。

 危険性。


 名前については、触れなかった。

 呼び出しは、すぐに来た。


「……これは、私的なものか?」


 課長代理が、静かに聞く。


「はい」


「規定上、問題はない。だが――」


「現場で使います」


 久遠は、はっきり言った。


 課長代理は、しばらく黙り、やがて、ため息をついた。


「君は、厄介な冒険者になったな」


「承知しています」


 それでも、止めなかった。


 管理課も、“帰らせる装備”を必要としているからだ。


 夜。


 久遠は、帰還標を手に取る。

 金属は、冷たい。


 だが、名前の刻まれた部分だけ、微かに温かい気がした。

 次に空白区画へ行くとき。


 この装備が、誰かを連れ戻せるとは限らない。


 それでも。


 消えた名前を、装備に刻んだ。


 忘れないために。

 繰り返さないために。


 剣だけでは、守れないものがある。


 だから、久遠は作る。


 名前を、生きて帰るための道標として。

第22話は

「生産=思想が形になる瞬間」です。


久遠は、

・強さよりも帰還

・勝利よりも名前

を選び始めました。


この装備は、物語全体の方向性を決める象徴的なアイテムになります。


次話では、

・帰還標の初実戦

・管理課との距離感の変化

・久遠が“指標”になる兆し

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