第14話:戦えない週末
土曜日の朝が、これほど静かだったことはない。
久遠 恒一は、目覚ましの鳴らない部屋で目を覚ました。
習慣で、体が起きてしまう。
ダンジョンに行かない週末。
それは、久遠にとって休日ではなかった。
ベッドから起き上がろうとして、脇腹が痛む。
無意識に動こうとした自分に、苛立ちが湧いた。
――もう、動ける。
――いや、動くべきじゃない。
管理課の判断は正しい。
理屈では分かっている。
だが、体が覚えてしまった。
週末=ダンジョン。
戦い、判断し、生き残る時間。
それが奪われると、
残るのは、考える時間だけだった。
スマートフォンを手に取る。
冒険者用の掲示板。
中層での事故報告が、いくつも流れている。
『即席パーティ、壊滅』
『装備破損による撤退失敗』
『救援間に合わず』
久遠は、画面を閉じた。
――自分がいれば。
考えてしまう。
意味のない仮定だと分かっていても。
昼過ぎ、管理課から通知が届いた。
中層・週末調査班編成
久遠の名前は、ない。
代わりに、見覚えのある名前があった。
自分より、少し若い冒険者。
慎重で、理屈派で、
「久遠さんみたいになりたい」と言っていた男。
胸の奥が、重くなる。
久遠は、剣を手に取った。
抜かない。
ただ、持つ。
この剣は、まだ使える。
だが、使わせてもらえない。
――戦えないということは、
責任から解放されることではない。
夕方、管理課の臨時連絡。
中層調査班、帰還遅延
心臓が、一拍遅れた。
久遠は、端末を握りしめる。
待つことしかできない。
それが、こんなにも苦しいとは思わなかった。
夜。
帰還報告が入る。
――二名負傷。
――一名、行方不明。
名前を見る。
あの若い冒険者だった。
久遠は、しばらく動けなかった。
自分が行っていれば。
自分が、止めていれば。
だが、現実は変わらない。
戦えない者に、戦場の結果は変えられない。
深夜、久遠はノートを開いた。
戦闘ログ。
装備設計。
中層で得た失敗。
書く。
ひたすら書く。
これは逃げではない。
今できる、唯一の戦いだ。
翌朝。
管理課から、正式な報告が来た。
行方不明者は、
ダンジョンカード未回収。
つまり――
生死不明。
久遠は、天井を見上げた。
自分が中層で生き残ったのは、
運ではない。
だが、誰かが死ぬことで、
自分が生きている現実は、否定できない。
戦えない週末は、
体を休ませた。
だが、心は削られた。
久遠は理解する。
戦うことは、怖い。
だが、戦えないことは――
もっと残酷だ。
剣を持たず、
何もできず、
それでも生きている。
その重さを、
この週末で、確かに知ってしまった。
第14話は「戦闘がないのに、一番苦しい回」です。
久遠は休養中ですが、
・罪悪感
・代替不能という思い込み
・生き残った側の苦しさ
に直面しています。




