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第10話:境界に立つ者

 久遠 恒一は、ついに「選ばされる段階」に来ていることを理解していた。


 きっかけは、管理課からの正式な打診だった。


「久遠さん。

 あなたに、協力をお願いしたい案件があります」


 会議室には、管理課の幹部と、久遠の会社の上層部が揃っていた。

 偶然ではない。

 意図された場だった。


 議題は明確だった。


 ――ダンジョン産装備・生産技術の統制モデル構築。


 闇市場に流れる粗悪な模倣品。

 管理されない装備による犯罪。

 一方で、現場では確実に「良質な装備」が不足している。


「作れる人間が少なすぎるんです」


 管理課の幹部が言った。


「そして、作れても制御できない者が多い」


 視線が、久遠に集まる。


 彼は理解した。

 これは勧誘ではない。


 要請だ。


 久遠は、すぐに答えなかった。


 代わりに、条件を出した。


「私は、専属にはなりません」


 会議室が静まる。


「会社員としての立場も、冒険者としての登録も維持します。

 装備の量産もしない。

 作るのは、必要な分だけ」


 上層部が眉をひそめる。


「非効率では?」


「はい」


 久遠は、はっきり言った。


「ですが、制御できます」


 効率よりも、統制。

 利益よりも、責任。


 その価値観は、ダンジョンが生んだものではない。

 彼が、そう生きてきただけだ。


 協議は長引いたが、結論は出た。


 ――久遠は、技術顧問兼現場連絡役。


 管理課と企業、冒険者の間に立つ存在。


 その立場は、曖昧で、不安定で、

 だが今の世界に最も必要なものだった。


 ダンジョン中層での試験運用が始まった。

 久遠の作った装備を、選抜された冒険者が使用する。


 久遠自身も同行した。


 戦闘は、問題なく進んだ。

 装備は想定通りに機能し、

 過剰な力は発揮しない。


 鑑定眼で確認しながら、久遠は記録を取る。


 ――これなら、壊れない。


 人も、社会も。


 帰還後、管理課の担当官が言った。


「あなたは、冒険者である前に、設計者ですね」


「そうかもしれません」


 久遠は否定しなかった。


 夜、部屋に戻り、剣を鞘に収める。

 剣は、今も変わらずそこにある。


 だが役割は、変わった。


 振るうためだけの剣ではない。

 判断し、止めるための剣。


 久遠は、鏡の中の自分を見る。


 若い身体。

 だが、そこにあるのは積み重ねた時間だった。


 会社員でも、冒険者でも、職人でもない。


 境界に立つ者。


 それが、今の自分だ。


 ダンジョンと世界は、まだ変わり続ける。

 だが久遠は、もう迷わない。


 剣を納めたままでも、

 守れるものがあると、知っているから。

第10話で、生産系スキル編と「会社を辞めない選択」に一つの答えを出しました。

久遠は最強ではありませんが、最も“壊れにくい”立場を選びました。

この先は、中層以降の本格攻略、国家間の思惑、ダンジョンコア技術の発展など、より大きな物語へ進めます。

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