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真実の愛の下に

作者: 丸三角

救国の英雄と聖女は青い薔薇と白い薔薇に生まれ変わり、二人の真実の愛は永遠となりました。



ーー


「初めまして、グロウリー公爵様。この度は私の様な平民記者のインタビューにお答え頂き光栄です。」


私は公爵の前に座り、緊張しながら挨拶をした。

エルザ・グロウリー、わが国の筆頭公爵、グロウリー家を10代の若さで継ぎ、公爵となった女性だ。

ダークブラウンの髪をすっきりとまとめ、特徴はないが、目鼻立ちの配置が綺麗な美しい女性だ。

血族による継承を重視する家系故に、唯一の直系である彼女が公爵家を継いだ訳だが、世間では女公爵であるという事よりは、あの救国の英雄の妻として有名だ。


「あの事件から1年経って今更だと思いますが、ご夫君の件についてお悔やみ申し上げます。この度、お話を伺いたいのはそのご夫君であるラルフ卿の事なのです。」


私はいきなり核心となる人物の名前を挙げた。

目の前の女性は不躾な質問に表情を変える事なく答えた。


「夫の事ですか。様々な方から話を聞きたいと言われますが、どの様な事でしょうか。」


「私は今、王都で話題の救国の英雄と称されているラルフ・グロウリー卿の人物伝を執筆したいと考えています。」


嘘だ、今話題の人物に関するスキャンダルで傾きかけた会社を建て直す為、ネタ拾いに来ただけだ。私が掴んでいるネタが事実なら、センセーショナルで誰もが飛びつく記事になるはずだ。そんな私の思惑等、彼女は気付いていないようだ。


「失礼ですが、お二人の関係性と申しますか、貴方にとってラルフ卿はどの様な方だったのかを伺いたいと思っています。出来ればお二人の馴れ初め等も。よろしいでしょうか。」


「分かりました、では馴れ初めから。ラルフとは、従兄弟のルイスを介して知り合いました。恥ずかしながら、わたくしの一目惚れで初恋でした。でも、彼から求婚されたのですよ。」


彼女は貴族然とした無表情な女性かと思ったら、少し含羞んだ微笑みを浮かべた。


「ルイス氏とは、貴方の母方の従兄弟であるルイス·ジョーダン子爵令息の事ですよね。夫君のラルフ卿とはどの様なご関係だったかご存知ですか。」


「はい、ルイスが隣国に留学した時に知り合った友人だそうです。ラルフを紹介された当時、わたくしは両親の急逝で14歳にして爵位を継ぐ事になり、周りは大人だけ。勿論、皆様には良くして頂いたのですが、ルイスとラルフの前では年相応な振る舞いができ、何というか二人の兄と妹の様な間柄でした。ですから、ラルフから求婚された時は、嬉しかったのと同時に驚きましたね。あちらも妹ではない情があったのだと。

そしてその時に、ラルフの家族についても知りました。お母様が隣国の先の王女殿下で、お父様にあたる護衛騎士の方と駆け落ちした後、市井で育った遺児である事も。その辺りの彼の生立ちは、今話題の戯曲の中でも触れられていますわね。」


そう、戯曲の中で語られるエピソードの一つだ。


「ええ、私は戯曲とはあくまで作り話だと思っていますが、一方で事実の部分もあると思います。ラルフ卿が貴方と結婚され、我が国に帰化し騎士として活躍された事、そして、その後の事も。その点を伺うのは非常に心苦しいのですが、よろしいでしょうか。」


「構いませんわよ。それが本題なのでしょう。戯曲に沿って確認していただいても問題ないですわ。」


先程の含羞んだ笑みとは違う、うっそりとした深い笑みに、薄ら寒さを感じたが、その通り、これから聞くことが本来の目的だ。


「篤志家で有名なルーカイン子爵家、そのご息女であるセーラ嬢はお知り合いだったのですか?」


これもかなり踏み込んだ触れていいのか微妙な質問だ。


「ルーカイン子爵家は我がグロウリー家の寄子にあたる家で、セーラは行儀見習いを兼ね我が家で働いていました。先の戦争では、治癒係として従軍していた事も存じております。戯曲によるとその戦争でラルフと知り合ったそうですね。」


他人事を伝聞で知った、と言わんばかりの態度だが彼女は当事者の筈だ。ただ、彼女にとっては触れられたくない事なのだろう。


話題にしている戯曲とは、今、王都で大ブームとなっている救国の英雄と聖女の大悲恋物語の事だ。


物語では、架空の王国の美しい騎士と可憐な治癒係の娘が戦いの中で運命的な出会いをする。

厳しい戦況下、敵の卑劣な策略の為に危機に陥りながらも、騎士は勇敢な戦いぶりで敵を蹴散らすが傷つき倒れる。そこに治癒係の娘が寄り添い一途な看護で九死に一生を得る。そして2人は愛を育みながら、戦いを勝利へと導き、救国の英雄と聖女として人々に讃えられるようになる。


だが、騎士には貴族の妻がいた。

それは騎士の美しい容姿と高貴な血筋に執着した公爵令嬢が権力を盾に強引に結んだ愛のない婚姻であった。

騎士は離婚を求めるが、当然受け入れないどころか嫉妬に狂った妻は、騎士の大恩ある乳母と家族を人質に騎士を幽閉してしまう。だが、騎士は幽閉された館から逃げ出し、真実の愛を誓った治癒係の娘と駆け落ちをする。


落ち延びた先で慎ましい生活を営もうとするが、いく先々で妻が手を回し、仕事に就けず困窮を極める。更に、親とも言える乳母とその家族は、妻の手の者によって処刑された事を告げられ、絶望のあまり遂に二人はお互い手を握り合い命を断つ事になる。


冷たくなった2人の遺体を友人が引き取り埋葬すると、騎士の墓からは青い薔薇が、娘の墓からは白い薔薇が咲き乱れ互いに絡まり合い、死しても深く結びつく様子に残されたものは涙する。友人によってその光景を見せられた妻は深く反省し、修道院で二人の冥福を祈る事になる。


という甘ったるいありがちな芝居だったのだが、あるゴシップ誌がその話と類似している事件があり、物語は事実ではないかと書き立てた所から芝居人気に火がついた。

今から一年前に、ある騎士が令嬢と心中した事件があった。騎士の名前はラルフ・グロウリー、公爵家の婿養子。相手は公爵家侍女のセーラ・ルーカイン子爵令嬢。どの様な経緯で2人が心中に至ったかは明らかにされていないが、公爵家の婿と侍女という高位貴族に関係する事件だっただけに、大スキャンダルになった。

結果、公爵自身が王都から身を引き、領地へ引きこもる事態となった。高位貴族のスキャンダルの為、表面上だがやっと噂を抑え込んだところだったのに、市井の民まで巻き込み再燃している状態だ。


ラルフ卿は隣国王家の血筋の金髪碧眼の王子のような美丈夫、公爵と結婚後に帰化し先の戦争に参加、そしてセーラ嬢も後方支援部隊の治癒担当で従軍していたという経歴が一致、違う点は妻が公爵令嬢ではなく公爵だったくらいだ。その為、世間では芝居が心中事件の隠された真実として語られる様になった。


「不敬を承知で私の見解を述べてもいいでしょうか。今、世間では芝居が真実としてラルフ卿は救国の英雄、セーラ穣を聖女として二人は真実の愛に殉じたともてはやされています。しかし、戦いに参加したかもしれませんが、二人が活躍した事実はなく、後から事実が戯曲の内容に上書きされているように見えます。」


私は思い切って自分の意見を話し、彼女の反応をみることにした。


「あら、戯曲が真実だと思って来られたのではないの。最近、わたくしへやってもいない悪事に関する批難や、二人を隣に埋葬するべきだ、何故修道院へ行かないのか、といった意見をする手紙が沢山届くようになりましてね。でも貴方の見解からすると、それも戯曲に合わせるための上書きですわね。」


そういった意見がある事は、私も知っている。エルザ・グロウリー公爵は真実の愛を引き裂いた非道な悪役であり、心中後も二人を別々に埋葬することで、戯曲でいう死しても添い遂げようとする二人を引き裂いている、という妄想が混じった下らない批難、いや妄言だ。

私の意見に興味を持った様に見えたため、もう少し核心に近づく内容を振ってみても大丈夫そうだ。


「なぜ、過去のものになろうとしていた事件を連想させる物語が出てきたのか、といった疑問は一先ず置いておきます。

ただ、私は上書きされた作り話ではなく事件の真実を知りたいと興味を抱き、事件の報告書を調べました。そして、物語の1つの要素となっている心中は本当だったのか疑問を持っています。」


「遺族は二人の心中と報告を受けています。お互いが剣で胸を突きあい絶命したとか。」


そう、そこだ。彼女は私が聞きたかったことに言及した。


「そこです。剣で胸を突くと言いますが、おかしくありませんか?ラルフ卿は騎士ですから、剣で相手の胸を突くことは可能ですが、セーラ嬢は?剣を持ったこともない令嬢が一突きで人間の胸を貫くことが、はたして出来るのでしょうか?心中としてはかなり乱暴な方法ですよね。本当に二人だけだったのでしょうか?私は第三者が心中現場にいたのではないかと疑っています。」


「第三者が二人の心中を手助けしたと仰りたいのですか?」


「手助けというよりも、そもそも心中だったんですかね? 二人が死んだという事は事実です。ですが、他の者の手に掛かって死んだ場合は、殺人と疑ってもいいのではないでしょうか。更に、二人はなぜ心中しなければならなかったのか。ラルフ卿の乳母は健在だし、駆け落ちした末ではないから困窮とは辻褄が合わない。私も戯曲に影響されすぎかもしれませんが、二人が心中する理由がないのです。となると、不貞を働いた二人がある人物に殺害された、という方が現実的ではないですか。そこで改めて教えてください。貴方とラルフ卿の結婚後の関係、そしてセーラ嬢と貴方方夫婦との関係を。二人の関係に気づいたのはいつからだったのかを。」


私は相手の不興を買うことを承知で一気に捲し立てた。場合によっては叩き出されるだけではなく、訴えられるかもしれない。だが、私が掴んだ事実と今日の彼女の様子をまとめた実録記を出版すれば売れることは間違いない。何せ、世紀の悲恋とされた物語の真相だ。権力で押さえ込まれるなら、その時はそれを加えて地下出版でもしてやる。

しかし、彼女は微笑みを崩さず、それどころか少し機嫌良く私の質問に答えた。


「三つご質問されましたわよね。では、それぞれお答えしますね。

まず、ラルフとの結婚後の関係から。彼から求婚されたという事は話しましたよね。プロポーズから結婚式までは優しい言葉や贈り物のやり取り、普通の婚約者と変わらず過ごしました。その時が一番幸せだったのかもしれません。

しかし、結婚式後の初夜にラルフは豹変し、こう宣言しました。『自分には愛する人がいる。身分違いの為に結ばれる事ができないが、心を捧げているのはその人だけだ。だから、お前を抱くことは出来ない』と。

そう、わたくし達は白い結婚でした。結婚した瞬間に裏切られ幸せから一気に突き落とされた訳です。ショックでしたが惚れた弱みとプライドから周囲に打ち明けることができませんでした。結婚後の関係、それは仮面夫婦、というものでした。」


冷めた関係だったろうと思っていたが、まさか結婚初夜に夫から宣言された仮面夫婦とは…

彼女の話だと、公爵家の権力で無理やり結婚したのではなく、ラルフ卿からの求婚だったのに結婚後に豹変するとは。公爵家の婿になる事が狙いだったのだろうか。

明らかに彼女の好意につけ込んだ詐欺同然の結婚に、救国の英雄像が崩れていく、いや戯曲の役なのだが。


「二つ目の質問、セーラとわたくし達夫婦との関係と三つ目のいつから二人の関係に気づいたか、についてですね。

結婚の半年後、先の戦争が起こり、ラルフも騎士として出征しました。戦争が終わり、ラルフの帰国後、従兄弟のルイスの紹介でセーラが我が公爵家の侍女として勤めることになりました。セーラも先の戦争で治癒係として後方支援部隊にいたとは聞きましたが、ラルフとその戦争で出会ったのかは知りません。

ただ、屋敷に務める様になってしばらくすると二人はところ構わずイチャついていましたので、親密な関係であることは私だけでなく、屋敷内の誰もが分かりましたね。」


「あれ?『心を捧げた愛する人がいる。』と言っていた、かつての愛人はどうなったのですか?」


ラルフ卿のクズぶりに、露骨に愛人と聞いてしまった。


「ふふっ、そうですよね。心を捧げた人とはどうなったのか、私もその時に思いました。それにセーラとわたくし達夫婦の関係と仰ったけど、もう一人関係者がいることに気づいたかしら?ラルフともセーラとも知り合いの人物…そう、従兄弟のルイスですわ。二人ともルイスの紹介でわたくしの側にきて、出会い、愛し合う関係になった? わたくしは一体どういう役割なんでしょう。おかしいですよね。」


確かにおかしい、ルイスは意図的に二人を公爵家に引き入れたのか。


「その頃はわたくしも当主として公爵家の力を使うことが出来るようになっていたので、三人の関係を調べました。わたくしの事を年下の小娘だと舐めていたのでしょうね。簡単に関係を調べることができました。もう少し慎重に隠すべきだったのに。ふふっ」


彼女は先ほどから笑いが止まらないという様に楽しげに話している。この話をこのまま聞いて大丈夫なのだろうか。


「三人はそもそも隣国で知り合いだったそうです。つまり、結婚前からの恋人とセーラは同一人物だったので、心を捧げた人を侍女として家に引き入れイチャ付き始めたという事でしょうね。一応、心を捧げた人へは誠実だったんですね。」


愛人として家に引き入れるとは…死しても貫く真実の愛はどこに行った。いや、戯曲だった。


「何故、離婚して追い出さなかったのですか?」


初恋の人と言っていたのに、少し残酷な質問をしてしまった。


「一つ目の質問に関わる事に話を戻しますね。結婚後の生活の事です。表面上は普通の夫婦として振る舞い、実際はお飾りの妻という生活はどの様なものだと思われますか?使用人達にも悟られない様に振る舞い続ける哀れな道化師、惨めでした。そんなストレスのせいで体調を崩してしまったのです。丁度、ラルフの出征に合わせ療養の為に領地に戻る事にしました。」


あの事件前にも領地に戻っていたのか。確かに公爵家の一人娘として育てられたお嬢様が、兄とも慕った初恋の人に裏切られれば、体調に影響する程傷付いただろう。でも、私の質問をはぐらかす彼女は変らず機嫌良く見える。話の内容はひとつも楽しくないのに何故だ。


「環境の良いところに移っても、中々改善できないので高名なお医者様に診てもらいました。そうしたら何と体調不良は精神的なものではなく、毒物が原因だと判明しました。」


ど、毒物…不実な夫の話だけでなく想像外の事に言葉を失った。私が黙り込んだので彼女はそのまま話し続けた。


「毒物は白粉に含まれており、その成分から隣国の特殊なものであることが分かりました。更に特殊なもの故に、販売ルートからルイスの生家が浮かび上がったのです。」


またルイスか、愛人を引き入れるラルフも酷いが、ルイスはこの話のキーパーソン、というか黒幕の様に思える。


「ルイス氏は貴方へ不幸を呼び寄せる疫病神の様ですね。不誠実な男性を紹介した上に、貴方を毒殺する為の毒を裏で扱っている。この様な事は言ってはいけませんが、貴方が亡くなった場合、ルイス氏へ多額の遺産が残されるのでしょうか。」


「いえ、私を亡き者にしてもルイスには何の恩恵もないのです。従兄弟といっても母方ですから公爵家の継承権も遺産も何も渡りません。ルイスの狙いが分からない為、私は毒に気付いていない世間知らずの娘の振りを続け、様子を見ることにしました。」


夫の裏切り、毒殺未遂、そんな中で何も気付いていない振りを続ける胆力、公爵という立場を背負う彼女の強さに感心し、私は完全に彼女の話に引き込まれた。


「その後、ラルフが出征から戻り、わたくしも王都の邸に戻ったのと同じ時期にセーラが侍女として公爵家に勤め始めました。

そこで話は戻りますが、以前から三人が繋がっている事が分かってから、公爵家の影を使って、三人を監視しました。

ラルフとセーラは公然の愛人として私がどこまで我慢出来るのかを試している様でもあり、私がラルフの言いなりである事を信じている様でした。

ルイスは信用のおける兄がわりとして、ラルフを諌める様な振りをしていましたね。

ふふっ、滑稽ですね。わたくしを舐め切っていたんでしょうね。そんな最悪の状況の中、三人の計画が書かれた手紙が見つかりました。

わたくしを毒物で人事不省か亡き者にする事により、ラルフが公爵家当主代行、ルイスは実務担当として実権を握る事を企てている内容でした。

そんなふざけた計画を実行させる訳にはいきませんから、ラルフとの離婚、わたくしへの殺人未遂の立件をしようと準備している中、あの心中事件が起きたのです。」


なんと衝撃的な事実か!私は二人が心中ではなく公爵家の手によって殺害されたと推測していた。彼女の証言から裏付けできそうな話を拾い、面白おかしく記事を書こうとしていたが、それ以上に刺激的な話に喜びを隠せなかった。


「世紀の悲恋、真実の愛とは全くの偽物で、真相は純真な令嬢の心を利用した悪漢共が公爵家を乗っ取ろうとした事件だったのですね。心中の真相も調査済みですか?」


「その真相は分かりませんが、悪事が暴かれる事に気づいたルイスが何らかの手を打ったのではと思っています。そしてあの事件から一年後に戯曲を流行らせたのも。」


確かに戯曲のせいでエルザ・グロウリー公爵の評判は最低だ。ただあの戯曲は心中事件があって初めて成立する物語だ。そうか、それが心中する理由、いや心中と見せかけて二人が殺害された理由だ。こんな恐ろしい真実だったのか。


「黒幕であるルイス氏を訴え、断罪すべきです。貴方は純然たる被害者です。黙って領地に籠る必要はない。」


「彼はあの事件後、行方不明なのです。どこかに逃げているのではと思うのですが。」


両親を亡くした少女の心の隙間につけ込み、心を踏みにじっただけでなく、戯曲を使い世間的にも貶める。とことん追い込んだ所で公爵家の実権を握ろうとしているのか。

私は非道な目にあった淑女を何とか助けたいと義憤にかられた。


「私はこの真実を発表し、嘘で固められた作り話でこれ以上貴方が貶められないようにします。噂が落ち着いたら王都に戻って、ルイスの罪を公式の場で暴くべきです。」


「もう王都に戻る気はありません。」


「でも、ルイスをこのままにしては、また命を狙われるかもしれませんよ。」


「信頼していた人に裏切られ、心ない噂に曝され、王都の人前に出る事は望んでいません。ルイスについては、既に然るべき所へ届けています。王都よりもこの領地にいる方が安全なのです。しばらくは、心穏やかに領地で過ごしたいと思います。」


初めは機嫌良さそうに話してくれたと思っていたが、やはり辛い話だったのだろう、彼女は何かを堪えるように唇を噛み締め涙を隠すように俯いた。

彼女に心情を考えず無責任な発言をしてしまったようだ。だが、私がこの真実を伝えなければならない。


ーーー


わたくしはあのインタビューで嘘は一つも言っていない。あの記者は悲恋を覆す事実に踊らされ、いくつか解明されていない矛盾を忘れて帰った所が一つ足りない。とても都合が良いけど。

心中事件がなぜ起きたのかはルイス黒幕説で問題ないのかしら。


わたくしはあの三人の関係を詳しく調べ、旧知の仲である以上の事実も掴んだ。

驚くべきことは、セーラはルイスの恋人なのに、それを隠してラルフと引き合わせ、恋人関係を結ばせた事。二人で一人の女性を共有? いや、ラルフもルイスの駒の一つだったということ。

ルイスとセーラは別れることなく、隠れて続いていたんですって。こんなにも真実の愛と真逆の形はないわ。

結局、ラルフはセーラに産ませた子供をわたくしの子と偽り公爵家を乗っ取ろうとしていたが、ルイスは自分とセーラの子をラルフの子として偽り、最終的にラルフも排除するのが計画だったみたい。


単純に三人を排除することは、わたくしの力では簡単だったが、それではつまらない。だからわたくしは騙された小娘の振りを続け、三人に踊ってもらう為に情報を流したの。


先ず、自分が勝ったつもりでわたくしを嘲笑うセーラから。

ラルフの不誠実さに傷つき代わりにルイスへ頼り、離婚後にルイスと結婚するつもりでいると、お付きの侍女経由でセーラの耳に入るようにしたわ。

ルイスが愛よりお金と権力を選ぶことを誰よりも知っているセーラは自分達が切り捨てられると疑心暗鬼になり、保険で更にラルフにすり寄るようになったの。


後は、ルイスからセーラへの連絡手段を押さえ、二人の連絡を遮断させて、更にセーラの不安を煽ったの。

ルイスも自分の指示を無視して必要以上にラルフと仲を深めるセーラに、自分が切り捨てられると思い始めた。


最後に、ラルフ、彼はセーラへの愛情は白い結婚を貫く程一途であったと思うけど、それが裏切られたと知ったら?

ラルフにはルイスとセーラが以前から恋人関係にあり、自分を利用していた証拠を見せればそれでいい。証拠を見た後のラルフは激昂し部屋中のものを破壊し尽くしたそうだ。見た目だけは良くて中身は空っぽ、それに感情に流されやすい人、どうしてわたくしは彼と結婚してしまったのか。


ルイスがこんなに回りくどい方法をとったのは、グロウリー家は直系主義でいながら、血の近い婚姻を禁止しているからだ。セーラはそこまでの事情を知らなかったのでルイスがわたくしと結婚する可能性に怯えたのだ。


小物達の疑心暗鬼の頂点のタイミングで、わたくしは三人に会談の場を設けてあげた。グロウリー家所有の王都外れの屋敷という舞台をね。

それぞれの名前で呼び出された彼等は、先ず、真実を知ったラルフが怒りのあまり、セーラの胸を貫き、セーラを殺した後に、ルイスと真剣での決闘となった。

勝負の結果、ラルフが胸を突かれて負けた。真剣での死闘だったので、ルイスもかなりの重傷を負いながら何とか屋敷を抜け出したそう。そこを全てを監視していた公爵家の手によって、人が来ない森へ放置させた。多分、狼の餌になったでしょうね。


ここまでは思惑通り。でも公爵家の手の者が、決闘の痕跡を消していたところで、警邏隊が来てしまったらしく、残りの二人を心中に見せかけるしかなかった。

完全に消してしまいたかったけど、決闘の様子が激しく、誰かが通報したのだろう、残念だったわ。


更に想定外だったのは、あの戯曲ね。出所を探ったところ、ルイスがわたくしの評判を下げるために、いくつか用意していたものの一つが依頼者からの連絡がなくなって流出したという事みたい。

そんな小細工までしていたルイスの策略にある意味感心する。でも、もう死んでいる人間に怒りは感じない。

きっとあの記者が上手い事、嘘で塗り固められた戯曲の事実、公爵家乗っ取りに耐えた令嬢の話を広めてくれるでしょう。あの記者でダメなら他のルートでも事実をばら撒くか、新しい戯曲を流行らせるのでもいいかしら。

まぁ、王都や貴族の思惑がひしめく社交界にはもう関わりたくないし、自分の領地に向き合い経営する人生も悪くないものだしね。遠くから様子を窺いましょうか。


救国の英雄と聖女は青い薔薇と白い薔薇に生まれ変わり、二人の真実の愛は永遠となりました…… 美しい真実の愛の物語、関係なければ、わたくしも一ファンとして支援しても良いのだけどね。


End


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― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます。 いやぁ、新年早々夫といとこがゲスい。主人公は結果的には意図せずいとこにしてやられて評判を下げられましたが、いくらでも名誉回復する方法はありそうだし、領地でお篭りライ…
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