8話 ラニアンの毛皮
無事、初めての魔物を討伐する事ができた僕は、魔物から取る事ができるアイテムを集めていた。
ラニアンからは、防具やバッグなどに使われる毛皮を手に入れることでできる。
持ち運びできるアイテムの容量が増やせる上に、割と良い金額で取引されている事が多い。
倒せたのは良いものの、一体で銅の短剣がかなりボロボロになってしまっていた。
これじゃ武器の消耗にキリがなくなってしまうし、なによりラニアンの毛皮が切り取りづらすぎる。
それだけしっかりした素材という事なんだけど、これだけ時間がかかってしまったら報酬がいいという理由だけでここを周回するのは厳しそうだな。
ラニアンの毛皮を剥ぎ終えると、剣の切れ味はほぼ無くなっていた。
これじゃもう魔物とは戦えなさそうだな。
試しにスキルを使ってみて、報酬部屋までいけるか確認するか。
このダンジョンではまだスキルを使っていなかった。
スキルを使えるか試すためにここにきたと言っても過言ではない。
これが発動しなかったらかなりやばいかもしれないな。
内心少し焦りながらスキルを使った。
「透視」
すると、ダンジョン全体に無数の数字が表示された。
無事にスキルを使う事ができた。
周りを見渡し、ボス部屋のマークを探していると、ボス部屋とは別にもう一つマークがあることに気がついた。
扉のマーク?
何か他の場所へ続く入り口のマークだろうか。
なんにせよ、行ってみないとわからないならいくしかないな。
その場所の数字を口に出し、あっという間に移動した。
移動した先には、大きな扉が設置されていた。
こんなところに扉があるなんて知らなかった。初めて来たので、当たり前なのだが全く開けた痕跡がない。
他の冒険者にはまだ見つけられてないものなのか?
扉を軽く手で押すと、ゆっくりと扉が開いていった。
こんな簡単に開くとは思わなかった。おそらくまだ誰も見つけていないのだろう。
ただどこに続いているのだろうか。隠しダンジョンだったとしたら今のこの短剣では到底攻略することはできないだろう。
扉の先には、真っ直ぐと道が続いており先が見えないほど真っ暗だった。
だめだ。先が見えない以上これより進むのは危険だ。装備を整えてからまた来よう。
引き返すことにし、ダンジョンを抜けた僕は毛皮の使い道に悩んでいた。
バッグの拡張に使うのが最善かもしれないが、銅の短剣しか武器がない以上そんなに持ち物が増えることは無さそうだった。
毛皮は、売れば高額で取引されることが大半だが切れ味の悪い銅の短剣で切ってしまったため、もしかしたら使い物にならない可能性もある。
とりあえず、武器屋、防具屋、雑貨屋を片っ端から渡って一番高額で取引してもらえるところに売ることにしよう。
前に入っていたパーティーのこともあり、どの店も店の前までは行ったことは何度もあったが中へ入ったことは一度もなかった。
これから冒険者として生活していくのなら一度くらいは行っておいたほうがいいだろう。
僕は、店の見学も含めてそれぞれの店を回った。その中でもラニアンの毛皮を高く買い取ってもらえそうな雑貨屋で店主の女性と値段交渉をしていた。
「あら!ラニアンの毛皮じゃない!ちょうど在庫がなくて困ってたのよ」
上機嫌に話す店主に、僕はラニアンの毛皮を渡した。
「7200ヴェリンで買い取らせてもらうわね」
「ありがとうございます」
流石に剥ぎ取りの際に毛皮を痛めてしまったこともあり、銅の短剣ほどの値段にはならなかったが十分な値段だろう。
透視のスキルによってラットダンジョンの攻略の難易度がかなり下がったこともあり、銅の短剣を一本犠牲にしてまでメラスタダンジョンへチャレンジした価値はあったと思う。
報酬だけを求めるのであれば銅の短剣を直接売ったほうが効率はいいが、ラニアンの毛皮はこの先使い道が出てくるかもしれないし、手に入れることのできるアイテムが増えること自体は今のところ何もデメリットはない。
何より自分の力だけで、お金を稼げるようになったことが一番嬉しかった。
そんなことを思っていると、店主がボロボロになった銅の短剣を見て話しかけてきた。
「毛皮剥ぎ取るの大変だったわよね。その短剣で取ったの?ボロボロじゃない」
僕は腰につけていた銅の短剣を取り出し、店主に渡した。
「もしよかったら、うちの旦那が武器屋をやってるんだけど、そこで新しい武器でも作るように行っておこうかしら」
「本当ですか!」
まさか、武器屋の主人と雑貨屋の店主は夫婦だったらしい。わざわざ時間をかけてまで色々なお店を回った甲斐があった。
そのまま店主が案内してくれることになり、一緒に武器屋へ向かった。
武器屋の扉を開けると、作業をしていた主人が振り返りこっちを向いた。
「いらっしゃ… ルーシャじゃないか。珍しいな仕事中に」
「あなた!会いたかったわ」
2人は僕の目を気にすることなく抱き合い始め、僕は気まずい空気にひたすら耐えていた。一応僕はお客さんであるはずなのだが。
こうゆうのはあとでにしてくれないだろうか。
僕がボーッと突っ立っていると、俺に気づいた2人が抱き合うのをやめ、話を戻してくれた。
「あなたこの子に新しい武器を作ってあげてくれないかしら」
ルーシャがそういうと主人は僕の方を見つめ何か思い出したかのように言った。
「あ、お前この前銅の短剣売りにきた冒険者だったよな」
主人がそういうとルーシャが驚いたように言った。
「あなたたち知り合いだったのね!それなら話が早いわね」
「おうわかった!銅の短剣より良い武器を作ってやる!」
主人が快く了承してくれた。しかし、すぐに主人の顔が変わり真面目そうに言ってきた。
「しかし、タダというわけには行かない。ある程度良いものを作ろうとしたらそれなりのお金がかかってくる」
これは主人の言う通りだろう。最初からタダで作ってもらえるとは思っていなかったが、主人の口調が思ったよりも重くどんな条件を提示されるのか内心かなりドキドキしていた。
「んーそうだな。この前の銅の短剣を10本売りにきてくれたら10万ヴェリンで買い取ってやる。そのお金で新しい武器を作ってやろう」
「わかりました!」
この条件を提示された瞬間、考える間もなく反射的に返事をしていた。今の自分の実力であれば銅の短剣10本くらい一日もかからずに集められるという確信があったからだろう。
2人は僕の即答の返事を聞いて、驚いた様子で言ってきた。
「じゅ、10本だぞ?大丈夫なのか?」
「はい!今日中には持って来れるように頑張りますので」
俺はそれだけ2人に言い残して、武器屋を後にした。
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ヴィリー・ルート 15才 男
レベル:5
MP:15
攻撃力:30
防御力:30
素早さ:30
スキル:透視
装備:銅の短剣
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