心の除染
真田みゆきは、週五で雑貨店のレジ打ちをしている。
その隣にある公園は、木々が手入れされていて気持ち良よいので、お昼には手作りのお弁当を食べていた。
いつもベンチでたたずんでいるお爺ちゃんが居た。
ある日、そのお爺ちゃんが「ぅああーっ」と嘆きの声をあげた。
静かな公園なので、とても響いた。
近くに居たみゆきは心配して思わず声を掛けた。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ夢か。除染の夢を見ていたよ」
お爺ちゃんは額の汗を拭いて、いま見た夢の説明をはじめた。
「昔の話だ。
私の若い頃、福島で原発事故があった。
東電の社員だった私は、使命感から福島に駆け付けた。
そこは修羅場で、防護服の暑さと疲労は凄かった。
過労で仲間がバタバタと倒れていったさ。
そんな地獄で私は自分を呪った。
何でここへ来たのか。私らが戦っている今も、みんな遊んでいるじゃないか。こんなに頑張っているのに、誰も応援してくれないじゃないか、と。
私の使命感はついに消えて、東電を辞めてしまった。
お爺さんになっても、あの頃を思い出すのだね。
必要なのは心の除染かな」
そう言って悲しそうに笑った。
その話を聞いてから、みゆきは公園のお爺ちゃんが気になって仕方ない。