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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋愛短編集

残酷で素敵な青春のハジマリ

作者: 月影 鈴夜

私はいつも虚しさに包まれていた。何か探しているのにそれが何かわからない。


好きな人なんていない。大事な友達もいない。困難な事もない。


もうすぐ中二になるというのに何も変わらない毎日だ。平凡な日々だ。


辛い事も楽しい事も何もない。いつものように学校に着く。


友達の美羽みうが手を振ってこっちにやって来る。


私も笑顔を作って手を振り返す。美羽は可愛くておしとやかな子だ。


美羽が「実は私ね。彼氏が出来たの」と言った。驚いた。


私は笑って「よかったじゃん!」と言う。美羽はずっと片思いをしていた。


その人の名は皆の人気者の幸人ゆきと君。とうとう付き合ったのだ。


羨ましいけれど素直におめでとうという思いがあった。


私は美羽に聞く。「どっちが告白したの?」美羽は照れながら私だよと答える。


私はそうなんだ。頑張ったねと言って自分の席に着く。


青春なんてアニメや映画の世界にしかないものだと私は思っていた。


でも、友達が彼氏ができたと聞くと案外目の前で起きているのだと気付く。


だけどきっと私には一生来ないのだろうな。地味だものね私って…。


休み時間になるとのめりこむように本に没頭する。


授業を真面目に受ける。その繰り返しを毎日毎日過ごしていた。


そして、図書委員の仕事をしている時だった。クラスの中心的人物に会う。


彼は…幸人君だ。彼は私に気づくと「何しているの?」と聞いてきた。


無邪気な彼の笑顔にドキッとする。そんなわけないのに…私が恋なんて…。


私は生涯恋とは無縁な女子力ゼロの奴なのに…。好きになるわけない…。


私は平静を装いながら「委員の仕事」と言う。彼は「じゃっ手伝うよ」と言った。


ドキドキと胸が高鳴っていくのを感じながら慌てて抑える。


だって幸人君は美羽の彼氏なのだから。好きになったら傷つくだけじゃないの。


私は「大丈夫だよ」と言うけど彼は引き下がらなかった。


「嫌だ!手伝うつったら手伝うのー」と言う。子どもかよと心の中でツッコむ。


でも…嬉しくて顔が熱くなるのを感じる。幸人君は「そういえば」と呟く。


でも、「いいや。こっちの方が大事だし」と言う。私は少し心配になる。


すると彼が「大したことないから気にすんな」と言われる。


そしてそれは私にとって全然大したことない訳がなかった事に気づいた。


なぜ気付いたかというと…ガラガラガラと教室の扉が開く。


美羽が居た。美羽は「幸人君!一緒に帰ろうって言ったじゃない」と言っている。


私は茫然と固まる。幸人君は「別にいいだろ」と少し不機嫌だ。なぜだろうか?


そんな事はどうでもいい。このままだと私は美羽に嫌われてしまうかもしれない。


どうしよう。もっとはっきり断れば良かった。幸人君の馬鹿。


美羽は「どういう事よ!私より花音かのんがいいって事?」と言っている。


幸人君が「だって、斎藤が一人だったから…」と言う。そこで私を出すな!


美羽も幸人君も酷すぎるよ。私はただ委員会の仕事をしていただけなのにー!


美羽が宣言をする。「花音、あんたは今日から私の恋敵よ‼」


はぁ…こうなるから嫌なのだ。妬まれ誤解され変な噂が流される。


予想できる。きっと…昔みたいになるのだろう。嫌われ者になるのだろう。


最悪だ。幸人君が「仕事も終わったしまた明日。斎藤」と言って去る。


どうせならもっと早く去ってくれればいいのに…。そして三日後。


靴箱を開けると上履きに画鋲が大量に入れられていた。酷すぎる。


誰がやったの?まさか美羽?私は泣きそうになりながら立ち尽くしていた。


そこに違うクラスの穏やかな男の子がやって来て「どうしたの?」と聞かれる。


優しい声に涙が零れ落ちる。彼は私の手元を見て「いじめられているの?」と


心配そうに言うからこっちが苦しくなる。彼は先生を呼んで来ると言って去った。


そして先生がやって来て「斎藤さん大丈夫?」と尋ねられる。


慌てて「はい、大丈夫です」と答える。でもきっと声は震えていたのだろう。


先生が「これは決定的ないじめよ。犯人に心当たりはある?」と聞かれる。


ある…。きっと美羽だ。でも、そんな事、言っていいのだろうか?


先生は「まぁ言いたくないなら大丈夫よ。その靴預かるわね」と言い去った。


彼はまだ心配そうに私の顔を見つめている。黒髪美少年って感じの子だ。


きっとモテているのだろうな。なら仲良くなったら傷つくだけだよね。


「私は大丈夫だから」と言うと彼は「僕、春風はるかぜ君は?」と聞かれる。


「斎藤 花音」と言うと「花音ちゃんはどうして強がるの?」と聞かれる。


一瞬考えながら「甘えたらいけないから?」と言うと彼はクスっと笑った。


そして「そんな訳ないだろ。そうだ、僕に甘えてよ」と言った。


えっ?何を言っているの?「花音ちゃんは怖いんだろ?」と諭すように彼は言う。


私は気づくと頷いていた。そこに幸人君がやって来て「斎藤おはよー」と言う。


私は笑って「おはよ」と答える。春風君が「あっもうすぐチャイム鳴る」と言う。


そして私を教室まで送ると自分のクラスに帰って行った。カッコ良かったな。


きっともう話す事もないのだろうけれど…。気づくと淡い気持ちが生まれていた。


私の虚しい日々は少しずつ残酷だけど素敵な何かに傾き始めていた。


そして放課後になり一人で下駄箱で靴を履き替えていた時だった。


今朝の男の子が誰かと話していた。「斎藤花音って知っている?」と聞いている。


聞かれた人は「斎藤?あぁ幸人の好きな人じゃん!」と言った。


幸人君が私を好き?そんな訳ないじゃない。幸人君は美羽と付き合っている。


なのに…私が好きなんてありえない。きっと人違いでしょ。


慌てて離れようと思ったが続きが気になってしまい聞き耳を立てる。


春風君が「そういや。幸人朝斎藤に挨拶してたもんな」と言った。


それを聞いて彼の友達は「えっ?あの挨拶されても返事しない奴が?」と言う。


私の知っている幸人君はいつも明るくて気さくな人なのに…?


皆の前では冷たいの?なおさら疑問で頭がいっぱいになる。


そして春風君達は「じゃあまた明日」と言って帰って行った。


立ち止まったまま今朝の事を思い出す。上履きに入れられていた画鋲…。


話しかけても無視する美羽…。どうしてこんな残酷な事になったのよ。


私は…ただ平凡な日々のままで良かったのに。あぁ思い出した。


私、昔一度だけ恋をした事があったよ。どうしようもなく辛かったのだ。


そして恋をした相手の名前は春人はると君。素敵な人だった。


明るくて、気さくで、黒髪美少年だった。幸人君と春風君の合体みたいな人だ。


彼はもういない。ある日突然転校してしまったのだから。


言いたかった二文字も言えないまま去って行く後ろ姿を見つめていたっけ…。


それから三年たって中学に入って幸人君や春風君に出会ったのだ。


忘れていた恋を彼らが思い出させた。春人君今頃どこで何しているのかな?


今でも春人君が好き。だからずっと虚しかったのだ。


大好きな彼が居なくなったあの日から。彼を想えば思うほど辛いから忘れていた。


私は走る。溢れる感情のせいで今にも泣いてしまいそうだったから。


好きだよ。気づいてよ。もう一度だけでいいから会いたいよ。


あなたに会いたい。春人君に会いたいよっ!とうとう泣き出してしまう。


思い出が溢れて止まらない。二人で歩いていた時ぶつかった肩。


間違った文字を黒板けしで消そうとしていたら彼が自分の指で消してくれた事。


頼み事を快く受け入れてくれた時の表情と声。くだらない会話。意味不明な質問。


競い合ったテスト。いつもどんぐりの背比べしていたね…。その時だった。


「斎藤?どうしたんだよ」と声をかけられて振り向くと幸人君が居た。


私はどうしたらいいか分からなくて固まる。泣いている所を見られた。


幸人君が「何があったのか教えてくれよ」と言う。そこに春風君が来る。


そして「花音ちゃんが可哀そうだろ」と言う。えっと…私はどうすれば…?


段々と二人は言い合いが酷くなっていく。私は決意して口を開く。


「実はね」と話し始めて今日あった事を全部話した。初恋の事も。


二人は複雑そうな顔をした後「斎藤は今でもそいつが好きなのか?」と聞かれる。


頷くと「わかった」と言った後「俺達実はさ明日転校するんや」と言った。


残酷な言葉に胸が苦しくなるがきっと大丈夫だろうと思えた。


春風君が「またね」と言い去って行く。幸人君も「斎藤、またな」と言って去る。


二人の後ろ姿が夕焼けの中に消えていく。そして次の日学校に行くと美羽が言う。


「ごめん。私つい酷い事しちゃってた」


私は「分かってくれたならいいよ」と言う。そして、運命は来たのだ。


先生が「今日は転入生が来たから紹介するぞ」と言う。


そして転入生が入って来る。その人は「五十嵐いがらし春人です」と言った。


えっ?春人君が帰って来た。何かを失えば何かを得るって本当だったの?


そして放課後私は彼に「久しぶりね」と声をかける。


彼は微笑んで「久しぶりだね。斎藤」と言う。昔みたいに花音って言わない。


寂しいけれど笑って「一緒に帰らない?」と聞く。そして二人で帰る。


他愛もない話をしながら私はずっと告白のタイミングを見計らっていた。


風で彼の黒髪が揺れる。その姿を見て決意して口を開く。


「私、ずっと前から春人君が―」「好きだ‼」春人君が割って入って来る。


っていうか…えっ?両想いだったって事?知らなかったよ。


彼が「花音が俺ずっと好きだ」と言う。私は驚いて言葉を失っていた。


だって…こんな事って本当にあるの?あるわけないよね?夢なのかな?


それでも必死に頷いた瞬間。涙が溢れて彼に飛びついてしまう。


だって…嬉しすぎて。また、私の名前を彼が呼んでくれた事も。


彼が私をそっと抱きしめてくれた。その温もりがある限り私は大丈夫だと思う。


だってこんな奇跡が起きたのだから。生きるのだって今日から楽しいよね?


私は泣き止むと「私も春人君が好き」と言う。彼は「知ってる」と言う。


「えっ⁉知ってたのに言わなかったの?」と言うと彼は苦笑する。


そうだよね。誰だって確信できなきゃ不安で言えないよねと思い直す。


彼はそれ以上何も言わず私を家まで送り届けると去って行く。


そして振り返り「ありがとう」と言って今度こそ本当に帰って行った。


何がありがとうなのだろうか…?きっと色々な意味があるのだろうな。


そう思いながら玄関のドアを開ける。私はもう一度前を向いて歩き出した。


自分は一生恋愛なんてしないまま終わるなんて思い込んでいたあの日が嘘みたい。


春風君、怖くないよ。あなたが甘えてと言ってくれた事は絶対に忘れない。


あなたのおかげで強がらなくていいって知ったよ。幸人君、美羽が泣いていたよ。


LINE交換していなかったらしいじゃん。私も交換してなかったけど。


あっでも春人君とは今日ちゃんと交換したよ。あなたとの反省を活かして。


幸人君に結局私の事好きだったのか聞き忘れちゃったな。


まぁいいや。きっと本当だったのだろうから。だって彼を見ていたら分かるもの。


私の日々は楽しくなっていた。クスっと笑ってしまう。前までの虚しさは消えた。

花音が幸せになってまじでよかった!

あなたの感想もよかったら聞きたいです!

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― 新着の感想 ―
春人君って春風君と幸人君を本当に合体させた人なのかなと思いました。
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